富士北麓の地域づくり
毎日新聞No.374 【平成24年11月9日発行】
富士北麓地域は富士山、富士五湖の景観、高原気候、水・みどり等の自然資源に恵まれ、昔は山岳信仰の地として、現在は避暑地や観光地として著名である。この地域には健康科学大学、昭和大学教育部や赤十字山梨病院・富士吉田市立病院などの教育機関、医療機関が集積する。また、県環境科学研究所、環境省生物多様性センター、東京大学富士癒しの森研究所などの多様な環境・健康関連の研究機関が立地しており、地域人口に比し、これら研究機関の集積は全国的にみて高い。地域づくりを推進する上で、富士北麓の自然資源とともに特色ある研究教育機関などの知識資源をどう活かすかは重要な課題である。
そこで、10月下旬、元県環境科学研究所の永井正則氏をコーディネーターとして「富士北麓の自然の恵みを活かす」をテーマに、山梨総研設立15周年記念事業の研究会を企画、開催した。東京大学富士癒しの森研究所の齋藤暖生氏、健康科学大学の鈴木敦子氏、県環境科学研究所の長谷川達也氏から話題提供を受け、参加者との意見交換を行った。
齋藤暖生氏からは、「癒しの森」プロジェクトの活動報告をいただいた。このプロジェクトは、山中湖畔の40haの演習林を地域の人々及び訪問客が楽しみながら森林整備、薪等の資源収穫をすることによって、快適な保健休養林を創造しようとするもの。鈴木敦子氏からは散歩による脳血流と認知機能への影響とともに、鍼灸療法からも同様の効果が得られる可能性があるとの報告をいただいた。また、長谷川達也氏から富士北麓の地下水(バナジウム水)の糖尿病や高脂血症への影響などの報告をいただいた。
いずれも、森林環境の維持・活用の社会的仕組みづくりや社会的ニーズが高まる予防・リハビリテーション医学の基礎になるものである。富士北麓の様々な研究機関と地域の人々の交流がより活発になり、研究成果が質の高い地域づくりに反映されることを期待したい。
山梨総研が初めて富士北麓で開催する研究会であったが、健康科学大学牧野学長を始め、産官学の熱心な参加者を得た。コーディネーター、講師、参加者の皆様、会場設営にご協力いただいた県環境科学研究所に厚く御礼を申し上げたい。
(山梨総合研究所 調査研究部長 中田 裕久)