シビックプライド


毎日新聞No.375 【平成24年11月19日発行】

 地方都市は市街地の凋落に悩んでいる。甲府のまちもごたぶんにもれずシャッターを下ろしている店が多い。しかし、最近人通りが少し増えてきたようにみえるがどうだろうか。県立図書館、防災新館、甲府市庁舎、NHK甲府放送局などの整備が進み視察などが増えているのだろうか。それとも高齢化が徐々に進んできて都心の便利さが見直され、都心回帰が始まったのだろうか。まもなく県庁は周りの囲いを取り払い公園のようになる。市庁舎も生まれ変わり町と一体となって機能する。「甲州夢小路」も江戸の町並みを再現し来年3月オープンする。官民上げてこんなにまちづくりの機運が盛りあがったことはかつてなかったのではないだろうか。市街地はこれまで単なる商業地として捉えられ、賑わいをデパートやSCに依存し、物販に頼りすぎていたのではないか。カーシェアリング、ハウスシェアリングなどということばが流行しモノ離れが進み、所有価値より使用価値が重視されるようになり、物販のみに依存したモノカルチャー的取り組みでは市街地の再興は難しくなってきている。

  “シビックプライド”という言葉がある。18世紀にイギリスで生まれた言葉である。直訳すると“市民の誇り”。自分たちの住んでいるまちに誇りや愛着をもつこと、誇りや愛着を生み出すまちづくり運動などを総称した概念である。たとえ素朴なものであっても、小規模なものであっても、比較を拒否するもの、独自性を主張するもの、いわば「文化的最大」づくりを進めることによって誇りや愛着を生み出し町の活性化を図ろうとする考え方である。

  つい最近東京ガスの東、境町踏切のところに「太宰の散歩道」という看板が一つ建てられた。何の変哲もない道がこの看板一つで文化の香る通りに変身するから不思議である。10月27日、山梨総研15周年記念シンポジウムで城郭建築の第一人者である広島大学の三浦正幸教授は「甲府城の天守閣は望楼型4重構造5階建、地下1階という推定復元図を発表し、全国に近世城郭は200ほどあるが、その規模・格式から見て甲府城は現存6位の名城であった」と述べている。甲府のまちづくりはラストチャンスを迎えている。行政頼みだけではシビックプライドは作り出せない。まちづくりファンドを組成し、甲府城をランドマークに「文化的最大」づくりへ動き出すときではないか。

(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)