Vol.172-1 リラクセーション ― その意味と効用


山梨県立大学看護学部
准教授 百々 雅子

はじめに

 「リラックス」という言葉を、いまはどこでもよく見聞きする。私たちは日常において、リラックスをそれほど頻繁に意識しなくてはならぬほどの緊張を強いられているのだろうか。また、「リラックス」とともに、これもよく聞く「リラクセーション」という言葉は、何を指しているのか。ここではそんなことを整理したあと、百聞は一見に如かずで、短時間で効果を感じられるリラックス法を1つ紹介してみたい。リラックス法そのものについては私が本務先の大学や、主に県内の団体、企業、地域の様々な場で指導させていただいているものであるが、ご紹介するのは、そのうちもっとも簡単な動作であるので、ぜひお試しいただきたい。

1.現代社会はストレス社会?

 「現代はストレス社会~」この表現もよく用いられるものだが、どういう意味かを問うてみる価値はある。そもそもストレスとは何か。ストレスは現代にのみ固有の現象なのか。
 まずストレスとは何かだが、カナダの生理学者ハンス・セリエが物理学にあった、ストレス(物理的な衝撃)という用語を、人にたいして生理学的に援用した言葉であることは広く知られている。簡単にいうと、人が何かの刺激で衝撃を受けることをいう。ときに「ショックでへこんでいる」という表現を聞くが、まさにこの状態をいう。また、ここに表されているように、通常ストレスとは精神的なものをいう。しかし広い意味では、人に影響を与える、とりわけ負の影響を与えるすべてがストレスになりうる。自然や社会がもたらす外的ストレス、たとえば気温の寒暖のような自然要因や、病気やケガのような生理的要因、戦乱などの社会的要因も含んでいる。
 そういう定義をすれば、ストレスはいつの時代のどんな世にもあり、現代に特有なものとはいえない。一方で現代に特徴的なストレスもある。たとえば、時間や効率の最重視、家族や地域からも切り離されたことによる人の孤立、オフィスのIT化で起こりがちな目や精神の疲労、化学物質の悪影響、グローバリゼーションによる経済競争の激化などである。現代社会がストレス社会だというときには、この社会に特有なストレスによるストレス社会だということになる。
 人ばかりでなく、おそらく生きとし生けるもの、生命の維持はストレスとの闘いや共存といってもよいかもしれない。しかし人間は社会という環境を自分の手で複雑に作りだす力を得たことで、この社会から受けるストレスがその分、生命活動やQOLに大きく影響するということであろう。以上のように、ストレスに関する説明は容易だが、現実にストレスへの対応は、人々が求めながらも困難であることが多い。「リラクセーション」に関するビジネス展開はこの人々のニーズに基づいている。

2.リラクセーションとは

 ここで、改めてリラクセーションとは何かを整理しておきたい。
 英語のrelaxationには二つ意味があり、①リラックスした状態 ②リラックスした状態を作る療法、方法で、私たちはふつう②の意味で使用している。後者の意味では、たくさんの方法があり、たとえば人気のアロマセラピー、音楽療法、自律訓練法、漸進弛緩法といった西洋的方法、あるいは東洋の伝統医療に組み込まれたヨガや気功などもある。
 人がストレスを感じると、血圧が上がり、呼吸数や心拍数が増えるなど「ストレス反応」という生体の反応が起こるが、ストレスが消失すると、「リラクセーション反応」が起こり、ストレス反応を逆に戻そうとするのが通常の流れである。リラクセーションはこの流れを人為的に強化する方法で、それによって得られるリラックスした状態をより深いものにする。このとき心は落ち着きを得て、体は修復力や免疫力、自然治癒力などが高まるという。
 療法としてのリラクセーションを試みていくと、心の深い落ち着きが出て、感覚が敏感になり(過敏でなく)、心身を軽やかで新鮮に受け止めることができるようになる。

3.リラクセーションの試みと効用

 リラックスした状態やそこに至るプロセスをいくら説明していても、これは心身の感覚・状態なので、体験していただかなければ「絵に描いた餅」である。以下に、私が様々な場で紹介している動作のうち、もっとも簡単なものを披露したい。
 瞑想の簡易版で、終了後の心地よさを実感してもらうにはコツがある。三調を整えて「心身一如」の状態を作ること。三調とは形―呼吸―イメージを整えること、いいかえれば、姿勢を整え、呼吸を自然に穏やかにして、決められたイメージを描くことをいう。

(1)椅子に浅く座って、ゆったりと背筋を伸ばし

(2)手を臍の下(丹田)で重ねて

(3)目を閉じて、息を少し意識して、落ち着いてゆっくりと呼吸をする

(4)重ねた手のひらが温かくなり、温かさが腹部に沁み込んでいくイメージを作る
  (意識がそれたらその都度、この4に戻る)

(5)これを5分ほど続けた後、目を開けて、重ねた手のひらで腹部を数回まわして終了

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リラクセーション 心と体のセルフケア(百々雅子・こすもす選書2011)より  山田詩乃

 東洋で人々が何千年と続けてきた気功をベースにしたリラクセーション方法である。集中ができれば一回でもすっきりとした感覚を得られるが、練習を重ねると頭痛や肩凝り、便秘、イライラなど日常的な心身の健康問題は軽減して効果を感じることができるのは、県内でもすでに数千人の方々に実感してもらったことと思う。

おわりに

 以上リラクセーションに関する簡単な説明と、実践と効用を述べた。現代の社会に生きていることで曝される、いわば時代のストレスに個々人が対応することは困難であるが、日常のちょっとした時間にできるリラクセーションによって、ストレス耐性を高めることは重要なことだと思う。リラクセーションによるセルフケア、これが楽しみとなれば生活の一部に取りこまれる。私たちの健康は社会の財産でもある。「楽しみのリラクセーション」を広める活動を続けたい。