道路整備とエコパーク


毎日新聞No.377 【平成24年12月21日発行】

  世界遺産と言えば、来年5~6月に世界文化遺産登録の結論が出る富士山のことを思い浮かべる人が多いだろう。だが県内関係でもう一カ所、世界遺産化へ向けた活動を続けている地域があることは意外に知られていない。山梨、長野、静岡の3県にまたがり、日本有数の名峰の数々を連ねる南アルプスである。
  3県の関係10市町村が2007年に推進協議会を設立し、関係機関への要望や学術研究を進めるなど地道に活動。今年5月には世界自然遺産化へ向けてのステップとして、ユネスコ・エコパーク登録を推進する方針を固め、申請へ向けて動き出している。

  そんな中、南アルプス市と富士川町、身延町、早川町でつくる南アルプス周遊自動車道整備促進期成同盟会が「南アルプスの世界自然遺産化に向けての周辺整備に関する構想調査報告書」をまとめた。南アルプス周遊道とは、南アルプス市芦安地区と早川町奈良田地区を結ぶ新道路のこと。報告書は、芦安地区と早川町を世界自然遺産とその前段階としてのエコパークにふさわしい価値と魅力を持った地域に再構築するため、周遊道路が不可欠だと論じている。
  貴重な自然を確実に守る世界遺産に対し、エコパークは保全と利用の調和を目指すのが特徴。世界遺産と同様に自然を守るべき部分は核心地域とし、その周囲に調査研究や観光に活用できる緩衝地域、自然と調和した産業を積極的に推進する移行地域を設定し、活用が図れる。周遊道路がつながる芦安、奈良田周辺は緩衝地域として、自然環境保護と地域振興を両立できるという考え方である。
  芦安地区や早川町は、山あいの不便な過疎高齢化地域だと見る向きが強い。だが、エコパークの観点からみると、南アルプス山岳地域を生かした登山観光、貴重な動植物・地質などの調査研究、環境保護に関する学習、豊かな水源を利用した小水力発電の導入による持続可能な施設管理、数多い砂防堰堤や治山工事現場を活用した防災学習など、限りないポテンシャルを秘めた地域だと分かる。

  公益社団法人山梨県建設技術センターの基礎調査報告書によると、周遊道路は距離約3㌔のトンネルを含む延長約5㌔のルートが想定され、事業費は約75億円を見込む。12月1日現在、芦安地区の人口は378人、早川町は1,223人であり、生活道路としての費用便益比は低い。しかし、エコパークや防災、水力発電の維持管理のための道路としてはどうだろうか。今後の論議に興味が持たれるところだ。

(山梨総合研究所 主任研究員 河住 圭彦)