Vol.173-1 高速ネットワークとモバイル端末を用いた地域情報化の取り組み


【山梨県立大学国際政策学部 准教授 八代 一浩】

1 はじめに

 地域情報化とは地域の課題をICT(Information and Communication Technologies)を用いて解決する政策の総称である。もともとは,1980年代のニューメディア、マルチメディアの時代に始まっている。その後インターネットの登場により2000年代にはネットワーク基盤整備が中心となった。現在は高速ネットワークと無線技術を使ってモバイル端末(スマートフォン、タブレットPC等)を使った事例が多くなっている。
 現在、私は北杜市立高根北小学校と道志村をフィールドとして地域情報化に関する研究を行っている。本稿では、現在私が取り組んでいる2つの地域情報化の活動を紹介するとともに、この活動の中から見えてきたものについて考察したい。

2 遠隔教育システムの開発

 山梨には他の学校に通級して授業を受ける児童がいる。たとえば、日本語教育が必要な外国籍児童やことばの教室等に通う児童である。しかし、地域では電車やバスの公共交通網が不便であり、通級するためには親が送迎をしなくてはならない。そこで、我々はこの課題の解決のために遠隔から授業を行えるシステムの開発を行っている。遠隔授業を行うことにより、移動の負担をなくすことができ、児童は自分が通学する学校にいて遠隔の先生から授業を受けることができる。この研究は総務省の戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)の委託研究として、平成24年度から平成25年度にかけて実施している。
 現在、北杜市立高根北小学校をフィールドとして実験を進めている。平成24年度の研究では、遠隔授業に必要な基本的な機能を確立することを目標としている。遠隔授業を行うにはTV会議システムを用いて行うのが一般的である。しかし、TV会議システムは大人が会議をすることを目的として実現されており、児童の遠隔授業にそのまま適用しても機能が不足している、児童の関心を喚起するのが難しい、などの問題がある。そこで、我々はTV会議システムに加えてタブレット端末を児童に持たせ、教師と児童がタブレット端末を共有して授業が行えるedutabシステムを開発した。
 開発したedutabシステムの児童画面を下記に示す。これは外国籍児童を対象とした日本語の初歩の授業で利用した例である。語彙を増やすレッスンで行われた。児童は教師から送られてきた画像(ワインの画像)をもとにして、カタカナで回答をタブレットペンを用いて書く。書いている様子はそのまま教師画面にも送られるために、教師は書き順をチェックすることができる。そして、書き順に間違いがあった場合に、即時に赤ペンで遠隔から児童のタブレット端末に添削を行うことができる。また正解を右上にテキストとして送ることもできる。

 173-1-1

 教師画面を下記に示す。現在のところ最大で6名の児童がタブレット端末に書いた様子をリアルタイムで観察することができる。教師は教材として、画像(左上のワインの絵)やテキスト(「ワイン」)を遠隔の児童の画面に送り出すことができる。そして、書き順などをチェックし、もし間違っていたら間違っていた児童に対して添削することができる。添削もリアルタイムで行われるため、児童は直ぐそばに教師がいるような臨場感を持って授業に臨むことができる。

173-1-2

 現在、高根北小学校は岩手県山田町立山田北小学校と交流活動を行っている。本システムを休み時間に用いてクイズや学校紹介などに利用している。これらの活動を通じて、システムの評価や問題点の改善を進めている。高根北小も山田北小も児童数が70名程度であり、学年の児童は10名程度である。そのため、同学年には1学級だけしか編成ができない。そのような環境下ではクラス対抗の行事を行うことができないが、本システムを利用することにより、クラス対抗行事や学校間の協調学習への可能性が見えてきている。実際に現場で利用してもらうことにより、本システムの適用範囲が広がりそうである。

3 道志村地域文化遺産活用地域活性化事業

 道志村は山梨県の東にあり神奈川県と接している。村の中を道志川が縦断し南北に長い地形である。道志川は横浜市の水源ともなっている。きれいな水が流れているため縄文時代から人が住んでいた歴史のある村である。水がきれいで森林が豊富であるため、里山の文化が残っている。しかしながら、炭焼きやわら細工などの里山文化や村の伝統的な祭りなどを知る人々が減少してきている。このような中で、里山文化を映像やホームページに残すとともに、この資産を利用して教育活動や観光活動に利用することを目的として、本事業を進めている。この事業は文化庁の文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業として取り組んでおり、平成24年度から平成26年度にかけて実施している。
 事業は3カ年の計画で進行している。現在、3カ年計画の1年目でカルチャーデータベースの構築を行っている。祭り、水源、わさび田、食文化などの取材を行い、データ化している。2年目には、これらの資料をもとに電子書籍で村誌や教育用の副読本の制作を行い、学校教育等で利用できるものを作成する予定である。そして、最終年には、これらの活動を通じた観光開発が行えないかを検討していく予定である。
 実施は、村の「郷土史を語る会」を中心として道志村教育委員会、(株)ランドブレイン、山梨県立大学が行っている。特に、「郷土史を語る会」の方々には「市民メディア」という形で、自らが撮影やコンテンツの作成などを行って情報発信できるようにしてもらっている。大学は学生を中心として、動画撮影などの取材を市民メディアの方々と一緒に行ったり、取材した結果をデータベースに登録したり、撮影した動画の編集をしたりして、市民メディアの活動を支援している。
 現在の作業の流れを下図に示す。デジタルカメラ等を用いて、市民メディアの方々が撮影したコンテンツを教育委員会の入っている「やまゆりセンター」のPCから大学のサーバへ転送してもらう。大学では、その動画の編集を行い1つが3分程度のフリップになるようにする。そして、編集した動画の説明などを加えてホームページ、YouTubeなどを使って公開するとともに、村の告知端末でも観られるようにする。道志村ではイントラネットが整備されており、全戸に告知端末が整備されている。そこで、イントラネット上にサーバを用意して全戸からデータベースにアクセスできるようにしている。

173-1-3

 インターネット上に試作したデータベースを下図(左)に、告知端末から見られるようにした様子を下図(右)に示す。

173-1-4173-1-5

 現在、道志村への取材や動画撮影などを行っているが、日々、道具の進化には驚かされている。デジタルカメラは性能、機能とも進化しながら、しかも価格は安くなっている。また、動画編集やホームページの作成なども、数年前に比べると容易になっており、本学の学生でも簡単にしかも見栄えのするものを作成することができる。市民メディアとは一般市民によって制作されたメディアのことを意味するが、数年前と違い、小型のデジタルカメラでHD品質の動画を容易に作り、しかも、全世界に報道することができるようになっている。

4 活動から見えること

 今回紹介した活動では、場所に依存しないこと、機器が安価なこと、効率的な学習が行えることがあげられる。
 場所に依存しないということは地域にとって大きな意味がある。遠隔授業の例では、他の学校への通級に伴う移動を気にせず、どこに住んでいても教育を受けることができる。道志村の事業では、山梨から全国にむけて情報発信を行っている。情報発信する内容が優れていれば、どこにいても情報が発信でき、さらに、コミュニティを作ることも容易である。
 機器が安価になったことも大きな意味がある。遠隔教育ではタブレット端末としてiPadを使っているが、一台5万円弱の機器である。一般的な小学校に配備されているPCは一台10万円前後することを考えると2台が購入できる。昭和町の小学校では既存のPC教室のリース更新を行う際に、iPadを導入したという事例もあり、今後タブレット端末の導入が普及していく可能性がある。道志村の事業ではメディアとしてインターネットを利用している。情報発信のメディアとして、古くからWebがあるが、動画についてはYouTube、コミュニティの形成にはFacebookと、多様なフレームワークが整っており、さらに無料で利用ができる。
 効率的という意味では、教育活動時間の効率化がある。これまで小学校でPower Pointを使って発表を行うということをするためには、コンピュータの操作を教える必要があり、どうしても数時間を取られてしまっていた。しかし、iPadでは直感的に操作が行えるため指導にかける時間は1時間で十分である。iPadを使って発表が行えることにより、模造紙を使った発表と比較して、短い時間で写真や動画を使った発表が行えるようになった(注意:模造紙発表にはそのよさもあるので、そのよさを否定するものではない)。

5 今後の展開

 実は、場所に依存しないこと、デジタル化により安価に作業ができること、効率的に作業が行えることは、これまでも言われてきたことである。また、われわれ研究者、技術者の間では普通に行われてきたことである。しかしながら、ここにきて、技術が洗練され、技術者でなくてもICTが利用できるように使いやすくなってきている点、機器やサービスの価格が大幅に下がっている点がこれまでと大きく違うところである。これにより小さな子供からお年寄りまでICTを利用できる人口が大幅に増えた。
 利用環境が変化している中で、それを使う人間にも変化が求められる。小学生を見ていると、iPadを使って簡単な画像編集や動画編集もやっている。今、大学生はメールやオフィスソフトが使えないと就職はできない。同様にしばらくすると、情報を短時間で収集し、分析を行い、画像編集や動画編集をして、プレゼンテーション資料やWebを使っての情報発信ができることが必須になってくるのではないだろうか。
 そして、最後に必要となるのは、情報発信する内容である。地域の文化に根ざして、他のところとは違うオリジナリティを持ち、付加価値が高いものを提供していくことが求められる。

謝辞

 本稿で紹介した内容は、総務省戦略的情報通信研究開発制度(SCOPE)委託研究および文化庁文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業により進めているものである。これらの関係者に深く感謝する。