Vol.174-2 公共施設白書の公表状況と今後の展望


公益財団法人 山梨総合研究所
研究員 佐藤 史章

1.はじめに

 自治体において「公共施設白書」の作成実績が増えている。この背景には高度経済成長と人口増にあわせて1960~70年代に建造した公共施設が40~50年経った現在、更新期を迎えようとしている状況がある。デフレ傾向と人口減という、社会情勢が当時と“真逆”の状態になり、市民ニーズに合わずに利用が低迷する施設が発生することや、市町村合併を経た自治体では性質の重複する施設を旧市町村から引き継いでいること、また、維持更新費用の捻出について、現状ではなされているものの、今後の見通しに不透明感が漂うような状況が発生しており、現状どおりに公共施設を維持・更新することが果たしてその自治体の現在 及び 未来にとって望ましいのか、という課題が持ち上がっている。
 こうした状況に際して、自治体が保有する資産、とくに「ハコモノ」といわれる市民利用施設を中心に、保有・利用・経費の状況を明らかにする「公共施設白書」策定の動きが全国各地で見られるようになっている。平成25年1月時点においては筆者調べで58件の「白書」が公表されているが、本稿では現時点における市区町村レベルでの策定状況を整理し、特徴を捉えることで今後の展望を試みたい。

2.公共施設白書とは

 はじめに、本稿で扱う「公共施設白書」について確認しておきたい。
 「公民連携白書2012-2013」によると、公共施設マネジメント(白書)の説明として、“公共施設の建築年、面積、構造など建築物の保全管理に必要な静的な情報だけでなく、施設の管理運営に要するコスト、利用状況といった動的な情報も含め、データの把握や施設間比較を可能にすることで市民と行政が施設の存続・統廃合の判断、運営体制の見直しなどの議論を共有化して、公共施設の更新優先順位、再配置計画の検討を行うこと。また、そのデータブックとして公共施設(マネジメント)白書がある”との解説がなされている。
 導入の先駆例としては平成12年9月の東京都豊島区、平成13年10月の東京都新宿区などが挙げられる。また、白書の役割として、将来的な公共施設の整備方針、再編計画等を作成する段階の以前に、保有する公共施設の全体像やコストを分かりやすく解説した白書を公表し、住民と行政、議会が同じ情報や認識に基づいて、公共施設のあり方について議論する環境の整備を進めること[1]があげられる。

 3.公共施設白書公表状況の概観

(1)調査内容

 ①調査対象

 地方自治体発行の「公共施設白書」のうち、特別区・市町村発行によるものを対象とし、都道府県制定のものは調査対象外とした。なお、公開自治体の検索に際してはgoogleでの検索に加え、秦野市資料による平成24年9月時点での集計状況を参考にしている。

図表1 取得データ項目の一覧

174-2-1

(資料)筆者作成

図表2 取得データの概要

174-2-2

(資料)筆者作成

(2)公共施設白書の内容から

 ①策定時期

 図は縦軸に都道府県コード、横軸に年度をとった散布図である。
 グラフ左方から右へ一直線にプロットされている部分がコード13の東京都であり、特別区での策定が平成20年ごろまで続いている。その後周辺の地域(11・埼玉、12・千葉、14・神奈川)への広がりを見せはじめ、平成23年ごろには全国に策定の動きが広がり、かつ件数が増加している様子がうかがえる。

図表3 施設白書の策定状況一覧(暦年・県別)

都道府県コード174-2-3暦年

(資料)筆者作成

 ②策定自治体の内訳、市町村合併の状況

図表4 策定自治体の状況(都道府県・合併)

4-1策定自治体の都道府県内訳4-2 策定自治体の市町村合併状況
174-2-4174-2-5

4-3 策定自治体の都道府県内訳詳細

カテゴリ

県名

府県内策定件数が2件の府県

茨城、千葉、愛知、三重、広島、長崎、熊本

府県内策定件数が1件の府県

栃木、福井、山梨、長野、静岡、滋賀、大阪、岡山、愛媛

(資料)筆者作成

 図表4-1は白書の公表自治体を都道府県別にまとめたものである。東京・神奈川・埼玉の合計で過半を超える状況である。府県内自治体の策定件数が1~2件の府県については一括で記載し、図表4-3に内訳を示した。
 右側の図は白書の公表自治体がいわゆる「平成の大合併」で市町村合併をしているかどうかを集計したものであり、「合併しない」が「合併した」を14ポイント上回っている。

図表5 コスト情報の状況(再建築費用試算・減価償却費)

図表5-1 再建築費の試算図表5-2 減価償却費の記載
174-2-6174-2-7

174-2-8

(資料)筆者作成

 公共施設白書では公共施設にかかる費用を明らかにするために、各施設(または施設グループ)の現時点での運営費用(水道光熱費、修繕費、人件費 等)をとりまとめている。
 運営費は施設が存在する限りかかるもので、施設のあり方を考えるに当たって無論把握の必要があるが、それに加えて施設の老朽化による更新に伴う再建築費用も(更新をする限りは)後々必ず発生する費用である。再建築費用に係る試算を公開しているのは約7割の自治体であった。
 また、既存の建物にかかる減価償却費を運営費用に参入している自治体は約5割程度であった。従来公会計には減価償却の概念がなく、昨今の公会計改革による財務四表の公開などで整備を進めている時期と今回研究対象とした白書公開の時期が重なっているということが背景にあり、この水準にとどまっているものと考えられる。
 両者の試算・記載状況の関係を見てみると再建築費・減価償却費が共に記載されている自治体が50%、再建築費の記載はあるが減価償却費の記載がない自治体 および ともに記載のない自治体が20%台であり、減価償却費の記載があって再建築費の記載がない自治体はわずかにとどまった。

図表6 白書策定後の方向性に係る記載の状況

ファシリティマネジメントライフサイクルコスト公会計
174-2-9174-2-10174-2-11

(資料)筆者作成

 白書策定後の対応として、資産の有効利用を図る取り組みや、公会計との連携についての記載(用語ベース)があるかを調べた。ところ、ファシリティマネジメント(アセットマネジメント・公共施設マネジメント)については約7割、ライフサイクルコストについては約5割見られたものの、公会計との連携についての記載は1割未満であった。
 本稿では機械的に当該用語の有無を調査したものの、ファシリティマネジメントとライフサイクルコストについては概ねその趣旨を想定していることがうかがえる記載が見られた。

4 策定状況についての考察、今後の展望

(1)公表コストの内容状況について

 ①施設更新費用について

 上記のとおり、公表するコストの内容については、将来の更新費用を掲載している自治体が7割強にのぼったのに対し、施設の運営費について減価償却費を考慮に入れた「フルコスト」で掲載した自治体は5割程度にとどまっていた。
 更新費用の算定方法は総務省、財団法人自治情報センター提供の試算ソフトやそれに類する方法での算定が見られたが、中には再建築単価から積み上げる精緻な方法をとる自治体がある一方、建物種別によらず一律の㎡単価を設定し、その単価に現在ある施設の床面積を掛け合わせて概算の再建築費を算出し、各建物については税法上等の耐用年限で立て替えるという仮定で簡便に算出したものもあった。
 前者のように細緻なデータベースを整えることはその後の公会計やファシリティマネジメント施策への円滑な展開の土台となることが期待される。また、後者は基礎データが不足する中であってもある程度の費用見通しが立つ方法であり、公表のスピードや算定コストを考えれば十分に採られうる方法だと考える。

 ②掲載対象外資産の取り扱いについて(インフラ資産の更新費用・遊休不動産)

 「公共施設白書」はその対象を建築物に限定することが多く、インフラ資産(上下水道、道路、橋りょう)や遊休不動産についての分析が除かれることが多い。前者については中央省庁からマネジメントに関する指針が示されていること、特別会計・公営企業会計の範疇にあるなどの理由で、後者については現に市民の利用に供されていないことから除かれているケースが散見される。
 水道や道路は生活に直結するインフラであり、更新が滞り本来の性能が発揮されない事態は一般の公共施設以上に避けなければならない。かかる性質の資産についての将来費用負担の把握は積極的になされるべきであり、公共施設白書が仮に建築物中心の内容であっても参考程度の扱いでも取り上げることが必要と考える。
 また、遊休不動産についても、“市民共有の財産”の価値(換価性・利用可能性)について「白書」を通じて明らかにすることでストックの現状理解により資することが期待される。

(2)施策展開の方向性 ―できることから取り組むこと

 ①「白書」の実効性担保

 都心部では特別区を中心に白書を数回にわたり作成している自治体[2]があるほか、最近では年次の更新を行う自治体[3]も出てきている。白書の作成自体が目的化して「作りっぱなし」とすることなく、「公共施設のあり方を考える」共通のプラットホームとして、市民への分かりやすさと情報の即時性、網羅性、正確性を備えていくことが肝要であるといえよう。

 ②資産の有効活用

 また、保有資産の有効活用についても、地域性等の理由で取り得る資産活用策には自治体間での相当な幅があり、手法はたくさんあったとしても地域実態に即した場合、先進事例として紹介されている手法やツールが全てその他の自治体で適用できるわけではない。しかし“環境が整わないからできない”では改善は全くない。例えば、流山市でミニFM(ファシリティマネジメント)と称して行われているような取り組みなどを参考にしつつ、地域に根差した息の長い取り組みについて考えていきたい。

5 おわりに

 本項では深く触れてはいないが、現今の自治体の財政状況下では公共施設の維持更新そのものが限界に達し、公共施設の整理統廃合が不可欠になっているケースも見受けられる。こうした点から行政・市民が白書に基づき公共施設を見直すことが求められる。
 すべての公共施設のオーナーは「一人ひとりの市民」(富山市『公共施設の利活用に関する報告書 本編』p.24)であるとの立場に立てば、この論点は行政関係者のみならずすべての市民に関わるものであり、公共施設ひいては生活基盤との関わり方についてそれぞれの立場で考えなければならない時である。

※ 本稿は執筆者の私見を表明したものであり、公益財団法人山梨総合研究所の公式見解を示すものではありません。

【引用・参考文献等】

  • 勝目康 「更新時代における公共施設の効率的利用」『都市問題』
    後藤・安田記念東京都市研究所 2012年11月 pp.66-pp.77
  • 土屋直也「公共施設白書の作成相次ぐ」『日経グローカル』」(2011年9月19日)
  • 根本祐二 『朽ちるインフラ』 日本経済新聞出版社 2011
  • 社団法人日本ファシリティマネジメント推進協会『公共施設戦略―公共施設は
    生き残れるか?―Part 2』社団法人日本ファシリティマネジメント推進協会 2004
  • 東洋大学PPP研究センター『公民連携白書2012-2013』時事通信出版局 2011
  • 「公共施設白書等」発行自治体ウェブサイト(自治体名・図表2の通り)
  • 志村 高史『秦野市の公共施設更新問題への挑戦』(岐阜県関市サイト掲載分
    http://www.city.seki.gifu.jp/info2/fileopen.cfm?id=1448&filename=/241010)
  • 総務省統計局「e-stat」(http://www.e-stat.go.jp)
  • 『公共事業に「隠れ負債」』日本経済新聞 2010.3.28 朝刊 3p

[1] 『伊丹市公共施設マネジメントに関する調査研究』伊丹市・財団法人地方自治研究機構(p.18)

[2] 東京都中央区・豊島区・葛飾区・杉並区・中野区・多摩市・八王子市などが挙げられる。

[3] 千葉県佐倉市、静岡県浜松市などが挙げられる