Vol.175-1 看護職の立場から「里親の養育支援に関する研究」への取り組み
山梨県立大学 看護学部看護学科
准教授 田淵 和子
Ⅰ.はじめに
近年、わが国においても子どもへの虐待が増加し、全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数は児童虐待防止法施行前の平成11年度11,631件に比べ、平成22年度には56,384件と4.8倍に増加している1)。対策の面では被虐待児を受け入れる施設が少なく、受け入れ先に支障をきたしている現状である。このような状況の中で、平成14年に里親の認定等に関する省令等が改正され、虐待を受けた子どものケアの場として、里親養育の望ましさが社会的に認識されてきている2)3)。 しかし、全国の認定及び登録里親数は昭和40年度に18,230世帯であったが、平成12年度には7,403世帯に減少し、平成19年度には7,934世帯と増加したが、平成21年度に7,185世帯と再度減少し4)、平成23年度末には8,726世帯5)に再び増加し、増減を繰り返しながら推移している。
一方、山梨県の登録里親数は、平成21年度に80世帯から71世帯に減少したが、平成23年3月には121世帯5)に増加している。その中でも被虐待児を委託される里親で、研修を受講した専門里親はまだ少数であるが、実際には被虐待児を養育する里親の数が徐々に増加してきている。そこで、筆者らは看護職の立場から里親への支援ができないかと考え、平成17年より里親の養育支援に関する文献検討6)や調査研究7)を実施してきた。
里親については、全国里親会や各都道府県等の里親会が組織され活発に活動されているが、社会的に広く周知されていない状況にあるため、本誌には、改正された里親の定義、平成18年に調査した関東甲信越静地区の里親の現状の一部を述べ、さらに平成24年度に筆者が日本学術振興会からの科研費(挑戦的萌芽研究)による助成を受け、看護職による里親養育の支援のあり方を検討している現況を述べることにしたい。
Ⅱ.里親とは?
平成20年の児童福祉法改正で里親の定義が改正された。里親とは養育里親及び厚生労働省令で定める人数以下の要保護児童を養育することを希望する者であつて、養子縁組によつて里親となることを希望するもの、その他のこれに類する者として厚生労働省令で定めるもののうち、都道府県知事が第27条第1項第3号の規定により児童を委託する者として適当と認めるものをいう、と「養育里親」を「養子縁組を希望する里親」等と法律上区分するとともに、平成20年度から養育里親、専門里親の里親手当を倍額に引き上げ、養育里親と専門里親について、研修を充実することが求められている8)。
里親の種類として、従来は①養育里親、②短期里親、③専門里親、④親族里親の4種類とされていたが、①養育里親、②専門里親、③養子縁組希望里親、④親族里親の4種類9)に改正された。
養育里親は、保護者のいない児童又は保護者に監護させることが不適切であると認められる要保護児童を養育する里親として認定を受けた者とすると定義されていて、山梨県の状況では、里子を養育しているほとんどの里親が養育里親である。
専門里親は、①児童虐待等の行為により心身に有害な影響を受けた児童、②非行等の問題を有する児童、③身体障害、知的障害又は精神障害がある児童、などの要保護児童のうち、都道府県知事がその養育に関し特に支援が必要と認めたものと定義されている。山梨県では、4名(平成23年度末)で、しかも、実際に養育している里親は1名(平成23年度末)である。
養子縁組を希望する里親は、要保護児童、即ち保護者のいない児童又は保護者に監護させることが不適切であると認められる児童を養育することと定義されている。
親族里親は、①当該親族里親に扶養義務のある児童、②児童の両親その他当該児童を現に監護する者が死亡、行方不明、拘禁、入院等の状態となったことにより、これらの者により養育が期待できないことの要件に該当する要保護児童を養育することが定義されている。山梨県の場合は、以前から全国調査と比較して親族里親が多い現状であり、制度が変わり親族里親も養育費が支払われるように改善されてきている。
Ⅲ.里親が求めている相談内容や専門家について
筆者が代表者として平成18年に関東甲信越静地区における里親の養育の現状について調査し、第54回日本小児保健学会(平成19年)で報告した結果7)からは、51.1%の里親が専門家に相談したいことがあり、相談したい内容が一番多かったのは、「成長・発達」49.1%、次に「しつけ」28.3%であった。里親の悩み・困難や研修内容への要望等からも「成長・発達」や「しつけ」の面が挙げられたことから、里親は「成長・発達」や「しつけ」などに悩みや困難を抱き、支援を求めていることが明らかになった。さらに、相談したい専門家として最も多かったのが、「臨床心理士」(47.2%)で、次に「医師(含:児童精神科医)」(34.5%)「児童指導員」(17.0%)の順であった。保健医療職、特に看護職へのニーズは少なかった。里親としての養育に心理面のニーズが高いといえるが、「臨床心理士」は児童相談所で比較的身近に里親に関わりが持たれている専門職である。そのため、里親のニーズには、里親からの専門職としての認知度も影響しているように考えられる。看護師や保健師、助産師のような看護職に対しては、里親のニーズに対応できる専門職として認知されていないことが考えられる。看護職が強みとしている健康面に関して里親が求めている具体的な内容については詳細が不明であり、里親からの具体的なニーズに対応するためには、里親の生の声を聴き、「成長・発達」や「しつけ」などを相談できる専門家として、諸々の専門職が支援できることで、里親のニーズに対応した支援体制が可能になることが示唆される。筆者らの調査結果7)によると、里親は専門職の支援者として「臨床心理士」を求めていた者が最も多かった。児童相談所に所属する臨床心理士は数名であり、定数の増員がされたとしても、里親のニーズに対応し、支援できるためにはかなり厳しい現状にある。一方、看護職は保健医療福祉分野に従事し、潜在看護師等も含めると有資格者としての看護職はかなりの人数となることが予測される。
里親の皆さんが看護職の存在を身近に支援を受けられる専門職として認識して下さることと、看護職の支援が提供できることになれば、里親の養育に関する支援体制が整備される一助になり得ると思われる。
Ⅳ.おわりに
現在、数人の里親の皆さんに開始したインタビュー調査からは、筆者らが実施した調査結果7)より7年間の変化と一歩踏み込んだ内容が具体的に明らかになり、新たに里親の養育に関連した健康面に関するニーズや、里親の皆さんが看護職に求められる支援のあり方を検討することで、新たな知見が得られることを期待している。さらに、里親の皆さんが看護職からの何らかの支援を経験していただくことにより、「里親を支援できる専門職」として、里親の皆さんから看護職が認識されることで、里親への支援体制をより強化でき、充実させることに貢献できることと考える。特に、最近、里親による虐待が刑事事件として報道されたが、そのような事件を少しでも予防できる一助になれるのではないかと考える。尚、山梨県里親の会の詳細については、「山梨県きずな会」のホームページ10)をご覧いただきたい。
【引用・参考文献】
1)厚生労働省HP,平成24年度版 厚生労働白書,資料編,p186.2012.
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/12-2/dl/07.pdf
2)『里親の認定等に関する省令』及び『里親が行う養育に関する最低基準』について
http://www5f.biglobe.ne.jp/~ainote/satooya/nin-kiju.html
3) 厚生労働省HP, 児童福祉法の一部を改正する法律:新旧対照表.
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv-fukushi-sinkyu.html
4)社会福祉法人 恩賜財団母子愛育会 日本子ども家庭総合研究所編,里親数・普通養子縁組・特別養子縁組の成立及びその離縁件数の推移,日本子ども資料年鑑2011,213,2011.
5) 厚生労働省HP,社会福祉行政業務報告,平成23年度 福祉行政報告例,(平成23年度末現在)児童,第49表 里親数及び里親に委託されている児童数,都道府県-指定都市-中核市別
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102708
6) 田淵和子,北村愛子,横森愛子他,子ども虐待の予防と対策に関する研究,第1報:里親に関する文献検討,平成17年度山梨県立看護大学共同研究費成果報告書,2006.
7) 田淵和子,横森愛子,小尾栄子他,関東甲信越静地区における里親の養育の現状,第54回日本小児保健学会講演集,p130,2007.
8) 厚生労働省HP,児童福祉法第6条の3.
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO164.html
9) 厚生労働省HP,里親制度等について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/syakaiteki_yougo/02.html
10)山梨県きずな会HP
http://www.geocities.jp/kizuna_kai/