郷土愛を大切に
毎日新聞No.383 【平成25年3月29日発行】
今から22年前の1991年6月、国際オリンピック委員会サマランチ会長(当時)が98年に開催される冬季五輪開催地を「NAGANO」と読み上げた。その時、五輪開催とは無関係に思える善光寺に集結していた数千人の長野県民が、万歳をしながら異様な盛り上がりを見せていた。
長野県には、「信濃の国」という県歌がある。県民が誇りとする著名人や名所などの歌詞が続く。自然と郷土愛が溢れるような歌を、長野県で育った県民なら誰でも歌うことができる。また他ではなかなかお目にかかれない蜂の子、お葉漬(野沢菜漬け)、おやきなどの食材が当たり前のようにスーパーに並んでいて、県民は、自然と地元の食文化に触れている。このように、長野県民は、常に郷土愛を育む環境下で生活を送っている。そのことが、五輪開催地決定時、喜びを分かち合う場所として、県民が誇り親しんできた善光寺が選ばれたのであろう。
ブランド総合研究所が2010年に発表した郷土愛ランキングで、山梨県は全国第41位、「ふるさとに誇りを持っているか」というランキングでも同37位と全国下位に沈んでいる。長野県は、郷土愛ランキングで全国第6位、誇りについても同4位となっている。山梨県と長野県の環境(自然、食、文化、交通アクセスなど)を比べた場合、県民意識にここまでの大差がつく違いは見出せないはずだ。
3月25日、JR甲府駅北口に甲州夢小路がオープンした。郷土愛に満ちあふれた関係者により、山梨県民が忘れてしまっている本県文化(誇り)の再興を目指した取り組みが始まっている。また、甲府鳥もつ煮(みなさまの縁をとりもつ隊)など、心から郷土を愛していなければできない関係者による取り組みもある。地域の活性化や街づくりは、その場所をいかに愛しているかにかかっている。この意識無くしては、活性化や街づくりに向けた取り組みは無に帰す。
山梨県には、長野県に劣ることのない魅力ある資源が多くある。強烈な郷土愛を持つ一部の取り組みを眺めるだけでなく、県民の多くが郷土を見つめなおし、郷土愛を持つことが地域活性化の第一歩である。
(山梨総合研究所 主任研究員 古屋 亮)