パブ文化を見直すとき
毎日新聞No.385 【平成25年4月26日発行】
イギリスの人々にとってパブは生活の一部である。かつては5万数千軒ものパブがあったという。どんな小さな村にも必ずパブがあって、近所づきあいの場となっている。
「Pub」とはpublic house(公共の家)の略称で、ただお酒を飲むところではない。街中にある気軽な社交場であり、情報交換やコミュニケーションの場であり、文化を生み出す場でもある。
さて、昨年12月、「峡南の歴史と文化を学ぶ会」のシンポジウムでホスピスクリニックの内藤いづみ先生とご一緒させていただいた。先生はイギリスのパブ文化について「パブは社会とつながる窓口であり、コミュニケーションの場であり、健康長寿のよりどころの一つであり、地域社会を支える役割は極めて大きい・・・」と。ところが残念なことにこのパブが次々と閉店しているというのである。
振り返ってみると、日本の喫茶店も同じような運命をたどっている。事業所統計によると、1991年に全国で約12万6000店あった喫茶店が、2006年には約8万1000店と35%も減少している。チェーン店の動きが活発化する中で従来型の小さな喫茶店の撤退が目立っている。
ちなみに、人口比で見ると、喫茶店が1000人に1店以上ある県は、高知1.79、岐阜1.06、愛知1.46、大阪1.35、和歌山1.22、兵庫1.12 、香川1.08、京都1.06で、なぜか西高東低である。06年の山梨の喫茶店数は317店、人口1000人当たり0.36で全国31位、喫茶店文化はかなり低位にある。
いよいよ団塊の世代が高齢者の仲間入りしてくる。家庭という第一の居場所では濡れ落ち葉といわれ、職場という第二の居場所は定年とともになくなり、果たして心のよりどころとなる第三の居場所はあるだろうか。フェイスブックでは無機質で物足りない。喫茶店文化が復活してくるのだろうか。無尽文化が見直されるのだろうか、はたまたイギリスのようなパブ文化がワインパブのような形で生まれてくるのだろうか。どんな文化が芽生えてくるか楽しみである。
(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)