若者のコミュニケーション
毎日新聞No.386 【平成25年5月10日発行】
普段、若者の会話・コミュニケーション行為を見るにつけ不思議に思うことが有る。テーブルを挟んで座っているのだが、その空間に会話が無いのである。どうしたことかとのぞき込むと、其々がスマートフォンを操作している。成程!これでは、相手の目を見ることも、身振り・手振りも不要である。彼らの話し相手は液晶画面の先にある見知らぬ人であるかもしれない。果たしてこれで意思や感情を伝え、親密な間柄を作り出すことができるのだろうか。真のコミュニケーションが取れているのだろうかと訝ってしまう。
研究社の新英和大辞典によると「コミュニケーションとは、言葉・記号・身振りなどによる情報・知識・感情・意思などの交換過程」と説明されている。つまり自分の考え、想い、感情を正しく相手に伝え、親密な関係・間柄を築くことがコミュニケーションである。この時、大切なことは相手の目を見、言葉と表情と身振りを交えて意思の疎通を図ることであろう。
確かに情報と知識は文字によってスマートフォンでも相手に伝わる。しかしコミュニケーションに欠くことのできない人の感情は決して伝わらないのではないか。とすると、日頃こうした訓練が為(な)されていない当世若者にとっては、コミュニケーションの半分しか果たしていないことになる。
こんな折、年1回の人間ドックに入り「意思の疎通とはこういうことか」と合点がいく愉快な経験をした。検査と検査の間の待ち時間は、いかにも退屈してしまうのがこの人間ドック。ところが今回は違った。見ず知らずの方に少しの手助けを行い、それに対するお礼がきっかけとなり話が弾んだのである。「煩わしいな」と思いながらも、相手の方がとても表情豊かに、丁寧な言葉づかいで、ゆったりと話しかけてくれるものだから知らぬ間に引き込まれ、退屈な待ち時間が楽しい時間となったのである。
電子媒体に慣れ親しんだ当世若者は、就職面接すらパソコンを媒体とした選抜が行われていると聞く。面接試験では、個々の学生の感情・情熱が言葉や身振りを通して面接官に伝わることが大切であろう。私たちには、生まれながらに備わっている真のコミュニケーション術が有る。是非そうした話術をお勧めしたい。
(山梨総合研究所 専務理事 福田 加男)