通過点から「目的地」へ


毎日新聞No.387 【平成25年5月24日発行】

   趣味で自転車に乗るようになって10年以上になるが、富士川町鰍沢の国道52号の旧道を通った際、ずいぶん走りやすくなったと感じた。通る自動車が少ないからだ。以前は国道52号沿いの鰍沢商店街というと、車が絶え間なく走り、特に大型車の通行が多く、自転車で車道を走行すると身の危険を感じるようなことが多かった。
  交通量の減少は、国道52号のバイパスである甲西道路が2007年に全線開通した影響である。道路交通センサス(調査)をみると、旧鰍沢町役場前を通る平日の自動車類の合計は05年度に1万4726台だったが、バイパス開通後の10年度には6278台と、半数以下に減少している。
  甲西道路が開通する前、旧鰍沢町民から「バイパスが完成すると商店街が寂れてしまう」と不安の声を聞いたことがあった。だが輸送を目的とする大型車(普通貨物自動車・バス)の通行が2935台から396台に激減したことから推測できるように、減ったのはもともと鰍沢を通過していた車で、バイパスが商店街の売り上げに大きく悪影響を与える理由にはならなかったと考えられる。

  その鰍沢の旧国道52号を中心に4月下旬、第28回国民文化祭の一環として「山車巡行祭り」が行われた。鰍沢商店街を含む旧国道1・5㌔は車両通行止め。長さ7㍍ある山車4台が繰り出し、旧国道の真ん中を大勢の見物人が行き来した。山車の上では伝統ある「鰍沢ばやし」が奏でられ、普段は静かな商店街が大いににぎわった。
  鰍沢の山車巡行は富士川舟運に由来する歴史あるもの。ここ20年では2回行われたのみだが、江戸時代の作とされる山車が住民に引かれて進む勇壮な姿は、何台もの自動車が往来する光景よりずっと町を活気づけるもので、かつて舟運の要衝として栄えた鰍沢にふさわしく見えた。
  たくさんの車が昼夜を問わず通行していた以前に比べ、現在の鰍沢商店街は歩行者や自転車が安心して通行でき、旧国道を使った行事が行える環境にある。これは地域のまちづくりを考える上で、大きなメリットだと思う。

  車は目的地まで移動する手段にすぎない。大勢の人に車から降りて歩いてもらえる魅力づくりを進めてはじめて、地域はただの通過点ではなく「目的地」になれるのだろう。


(山梨総合研究所 主任研究員 河住 圭彦)