Vol.178-1 災害時における「情報」の考察(後編)
山梨県企画県民部情報産業振興室
室長補佐 広瀬 信吾
5.震災支援ソーシャルメディアの事例
東日本大震災において、ソーシャルメディアで流れた情報をストックして活用する様々なサイトが立ち上がり、被災者支援や被災地からの情報ニーズに応えている。
出典)NRIパブリックマネージメントレビュー(May 2011)野村総合研究所を元に作成
5_1 ソーシャルメディアの類型
野村総合研究所によると、震災支援におけるソーシャルメディアの活用方法は、以下の3種類に分類される。
「フィルタリングモデル」:
ツイッターなどでの発言を、テキストマイニングなどの機械的なフィルターを通した上で情報共有の場におくモデル
例:[anpiレポート]、[震災の声分析レポート]など
「共同作業モデル」:
共通のプラットフォーム上にデータを持ち寄り、共同作業によりブラッシュアップしていくモデル
例:[パーソンファインダー]、[sinsai.info]
「情報源特定モデル」:
特定された情報源から集めたデータを整理して共有するモデル
例:[消息情報チャンネル]、[自動車通行実績情報]
6.災害情報とその伝達手段
6_1災害情報の分類
災害には地震の他にも、噴火や台風などによる風水害などがあり、それぞれにおいて災害情報の内容は変わってくる。
災害時における情報を目的ごとに分類すると、災害因や被害情報などの「現状把握情報」、警報や避難情報などの「避難情報」、すぐに取るべき行動を支持する「安全確保情報」、生活を維持する上に必要となる「生活確保情報」、家族や知人の安否を知るための「安否確認情報」、救援物資やボランティアなどの支援に関する「救援情報」などに分類できる。
一般市民に必要な災害情報の種類(災害直後)
情報の目的 | 情報の種類 | 地震 | 噴火 | 風水害 |
現状把握 | 災害因 | 震度・震源・マグニチュード | 噴火の場所/規模各種 観測データ | 台風情報/雨量/風速/河川水位 |
被害情報 | 死者/けが人数/建物/ライフライン | 死者/けが人数/建物/ライフライン | 死者/けが人数/建物/ライフライン | |
避難 | 危険度/警報 | 津波情報/余震情報 | 火山情報 (緊急/臨時) | 気象情報・注意報 河川洪水警報 |
避難情報 | 避難指示/勧告 避難場所/経路 | 避難指示/勧告 避難場所/経路 | 避難指示/勧告 避難場所/経路 | |
安全確保 | 行動指示 | 火を消す、海岸から避難等 | 火砕流に近づかない等 | 早めに避難 土砂災害の前兆等 |
生活確保 | 生活情報 | 避難所、物資配給、交通、医療機関、ライフライン普及 | 避難所、物資配給、交通、ライフライン普及 | 避難所、物資配給、交通、ライフライン普及 |
安否確認 | 安否情報 安否関連情報 | 家族/知人の安否 物的被害/避難先 | 家族/知人の安否 物的被害/避難先 | 家族/知人の安否 物的被害/避難先 |
救援 | 救援物資 ボランティア | 必要な物/場所/必要な仕事/方法 | 必要な物/場所/必要な仕事/方法 | 必要な物/場所/必要な仕事/方法 |
6_2 被災者が必要とする情報ニーズ
1995年1月17日に発生した「阪神淡路大震災」における被災者の「情報ニーズ」(東京大学社会情報研究所)を参考に、本県で想定される情報ニーズを整理すると以下のとおりである。想定する情報ニーズは地震災害のみならず、風水害や火山噴火など一般的に起こりうる災害にあてはめて整理した。またそれぞれの情報について、「情報を主に入手したい主体」、当該「情報の発信者」についても整理を行った。
分類 | 情報の種類 | 情報を入手したい主体 | 情報の発信者 |
現状把握 | 1.災害原因と今後の見通し | 全て | 気象庁 |
2.災害の規模や発生場所 | 全て | 気象庁、広域自治体 | |
3.災害の被害状況 | 全て | 気象庁、広域自治体 | |
安否確認 | 4.家族や知人の安否 | A、B | 被災者 |
避難情報 | 5.避難勧告・指示 | A | 基礎自治体 |
6.一時避難所設置情報 | A、C、D、E | 被災者、基礎自治体 | |
7.避難所に関する情報 | A、C、D、E | 基礎自治体、広域自治体 | |
安全確保情報 /救援情報 | 8.自宅の安全性 | A | 気象庁、広域自治体 |
9.危険な場所の情報 | A | 被災者 | |
10.救急・救命、火災の状況 | E | 広域自治体、基礎自治体 | |
11.けが人の救急や病院の受入れ状況 | A、C、D、E、F | 広域自治体、基礎自治体 | |
12.渋滞情報 | A~G | インフラ事業者 | |
生活確保情報 | 13.援助物資充足情報 | 全て | 被災者 |
14.交通機関や道路の開通状況 | A~F | インフラ事業者 | |
15.水・食料、生活物資の配給場所 | A | 広域自治体、基礎自治体 | |
16.入浴に関する情報 | A | 広域自治体、基礎自治体 | |
17.開店している店の情報 | A | 個々の事業者 | |
18.電気・ガス・水道などの復旧見通し | A | インフラ事業者 | |
19.公衆電話の設置場所 | A | インフラ事業者 | |
20.職場、学校の情報 | A | 広域自治体、基礎自治体 | |
21.ガソリンスタンドの情報 | A | 個々の事業者 | |
22.銀行・金融機関の情報 | A | 個々の事業者 | |
23.公衆トイレの場所 | A | 広域自治体、基礎自治体 | |
24.医薬品に関する情報 | A、D、E | 政府 | |
25.保険の情報 | A | 政府、広域自治体 | |
その他情報 | 26.遺体の収容に関する情報 | A | 広域自治体、基礎自治体 |
27.流言に関する情報 | A | 政府、広域自治体 | |
28.宿泊施設に関する情報 | A、G | 個々の事業者 | |
29ボランティア情報 | G | 広域自治体、基礎自治体 | |
30.義捐金情報 | B、H | 政府、広域自治体 | |
31.防災情報 | 全て | 広域自治体、基礎自治体 | |
|
| A:被災者 B:被災地に家族や知人がいる人 C:政府、自衛隊 D:広域自治体(県) E:基礎自治体(市町村)、消防 F:近隣自治体 G:被災地ボランティア従事希望者 H:被災地から離れたところに住む人 |
出典)山梨県災害情報ワーキンググループ 2012
6_3 災害の時系列に沿った情報ニーズ
災害の発生時から時間の経過に伴い、求められる情報は変わってくる。災害が発生した直後である「発災期」、発災後数時間~1日の「被害拡大期」、発災後2~3日(1週間)の「救出・救護期」、発災後1週間~1か月の「復旧期」、発災後1か月~「復興期」それからほぼ復興が完了した「平常期」と分類される。
発災期から平常期までのあいだに時系列で求められる具体的な情報ニーズ項目は以下のとおり整理できる。
山梨県災害情報ワーキンググループ 2012
6_4 情報メディアの特性
それぞれの情報ニーズを満たすために利用可能な情報メディアについて、媒体の種類と「対象とする範囲」、「媒体としての特性」を整理すると以下のとおりとなる。
山梨県災害情報ワーキンググループ 2012
- 「ワンセグ」:携帯電話、移動体端末向けの1セグメント部分受信サービス
- 「防災情報専用メール」:「市町村防災行政無線」で放送する内容を、当該自治体に居住する住民の携帯電話メールにテキストデータで配信する仕組み
- 「緊急速報メール」:気象庁が配信する緊急地震速報や津波警報、地方公共団体が発信する災害・避難情報などを受信することができる携帯電話向けサービス
- 「災害用ブロードバンド伝言板」(web171):全角100文字以下の文字メッセージのほか、静止画、動画、音声ファイルも登録できる(サイズ制限あり)災害用伝言預かりサービス
6_5 情報ニーズに適したメディア
情報ニーズごとに、被災者が情報を得たり、情報を発信する観点から、もっとも適した媒体について考察すると以下の表に整理される。
本レポートの研究テーマである「ソーシャルメディア」について、自治体によるSNS(twitterなど)を使った情報発信で有効と考えられるものは、「避難情報」や「安全確保情報」、「生活確保情報」などの情報で、災害に直面している人、災害のリスクが迫りつつある人らへの注意喚起である。例えば「避難勧告・指示」は、「市町村防災行政無線」や「広報車」、場合によっては「エリアメール」などで行われるが、これらは、いわば最後通告的であり、これに至る過程を伝える上での有効なメディアとして、ソーシャルメディアは機能するものと考えることができる。
7.災害情報ワーキングからの提言
災害情報ワーキングは、これまでの考察に基づいて以下の提言を行った。
提言1 災害時における情報伝達方法は、ハードウェア、ソフトウェア両面において、冗長化、多重化、多手段化(クロスメディア)をはかり、情報空白をできるだけ起こさない備えをすべきである。
提言2 平時に使われない情報メディア(インターネットメディア、ソーシャルメディア)は、緊急時には絶対に使わない(使えない)。平時においてこうした、メディアを使いこなし、できるだけ生きた言葉で情報を発信して、住民との日常的なつながりを確保しておくことが重要である。
提言3 障害者や、高齢者など、防災行政無線が聞こえなかったり、インターネットや電子機器に不慣れな情報弱者に対しても、必要な情報が適切に届くための手段の研究を行うべきである。防災行政無線をテキスト化して伝える携帯向け防災メールや、通信事業者の整備しているエリアメールの自治体登録などを進めるべきである。
提言4 災害時にテレビ・ラジオの果たす役割は大きい。特に地域を絞って情報を伝えることができる、コミュニティ放送と市町村などの自治体の情報連携を強め、コミュニティ放送を通じた情報伝達の備えを進めるべきである。
提言5 大規模災害時に、被災者の声をできるだけ多く聞き取るために、自治体は日常からソーシャルメディアによる情報収集に習熟すべきである。
提言6 大規模災害時に必要となる情報については、情報の種別ごとに適切な情報メディアを用いて伝えることができるよう、情報面に着目した訓練も行っていくべきである。
提言7 行政機関においてソーシャルメディアにおける情報の伝達者(ライター)の養成は重要である。そのための人材の確保、組織への配置を行う必要がある。ライターは平時において様々な情報発信し、フォロワーを確保していく。災害時には伝達文のテンプレートを事前に作成しておき、必要十分な情報伝達を人が変わっても行うことができるよう準備を行うべきである。