ものづくり革命
毎日新聞No.388 【平成25年6月7日発行】
ものづくり革命という言葉をよく目にするようになった。アメリカでは、オバマ大統領が2月の一般教書演説で3Dプリントについて取り上げるなど大きな流れとなってきている。
筆者は、このものづくり革命には、2つの側面があると考えている。1つ目は、今まではものづくりをしてこなかったような人々がものづくりに取り組むようになる、という側面であり、2つ目は、既存の製造業における製造工程やビジネスモデルの変化という側面である。
この2つは相互に関連しているものではあるが、本稿においては1つ目のより多くの人々がものづくりに取り組むようになるという点を中心に考えてみたい。
この流れをもたらしている大きな要因として、パソコンと接続して材料を切り出したり、立体的に樹脂を造形する装置の低価格化があげられる。溶かした樹脂を少しずつ積み上げて立体をつくる3Dプリンタは、家庭向けのものであれば数万円で手に入るようになった。
また、立体を作成するために必要なデータがインターネット上で公開され、情報交換が行われ、改良されている。そのため、作りたい立体のデータをゼロから作る必要がなくなり、これがさらに敷居を下げて利用者の拡大をもたらしている。
では、これによって私たちの生活はどのように変わるのであろうか。恐竜が好きな子どものためにちょうど良いサイズの人形を作ったり、自分の好みにあったスマートフォンケースを作ったりできるようになる。欲しいと思っていたけど、なかなかちょうど良いものが見つからない場合に、非常に重宝しそうではある。
しかし、筆者の想像力では、生活が劇的に変わるという具体例はなかなか思いつかない。
この数十年のデジタル化の流れの中で、まず文字がワープロによって家庭でも自由に印刷できるようになり、その後も画像、音声、動画とその範囲が拡大してきた。それとともに、ブログや動画共有サイトなど新しい文化が生み出されてきた。
デジタルによるものづくりで作られたものは、どのような文化を作っていくのだろうか、注目していきたい。
(山梨総合研究所 主任研究員 進藤 聡)