Vol.181-1 地域を束ねるということ


農事組合法人 清栄 代表理事 浅川 豊和

【はじめに】

 平成19年2月に地域の農地、農業を守っていくため農事組合法人「清栄」を立ち上げた。法人では、私がいる北杜市高根町清里の樫山地区を中心として、主にソバと大豆を栽培している。
 耕作できなくなった農家の圃場を引き受けるため、耕作面積は毎年増え続けていて、今では大豆栽培面積12ha、ソバ栽培面積11ha、ソバの作業受託面積25haとなっている。

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【新しい取り組み①~子どもたちの受け入れ~】

 こうした活動をしつつ、以前から保育園や小学校の農業体験の受け入れを行っている。今年も、北杜市内の保育園の農業体験を受け入れていて、4種類ぐらいジャガイモを栽培して、子どもたちと一緒に先生たちにもジャガイモを掘らせるようにしている。ジャガイモはたくさん収穫できて、先生たちに「すべて持って帰ってもいいよ」といっても余ることがあるので、私が理事長をしている「そば処」北甲斐亭でてんぷらの材料として使う。
 ジャガイモの体験は好評だが、農作業が立て込んでいることも多いので、近隣で有機野菜を栽培している(農)北杜ベジファームの若い農家が保育園の農業体験を受けることも多い。
 そのほか、北杜市やJA梨北とも連携してこうした受入事業を行っている。
 小学校の農業体験も6組ほど受け入れている。せっかく来るのでいろんな体験を教えているが、引率してくる学校の先生自体が、農業に興味をあまり持っていないことが残念だ。農場に出ても、さっぱり作物が分からない。例えばアスパラガスの夏場の姿とか。子どもたちに教える先生という立場なので、もうちょっと勉強したらどうかと感じる。関心を持って、圃場をもっとよく見るべき。特に都会の先生は作物のことがまったく分かっていない。体験でくる子どもが平然と間違ったことを言っても、先生が修正しない。
 そういうものを見ると、農業の体験をしても、あまり効果がないのかもしれないと少し疑問を感じる。
 農業の体験のうち分かりやすい収穫の体験だけではなく、草取りとか間引きとか、収穫までのプロセスを一緒に提供するようにしたい。それが大切だ。

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【新しい取り組み②~都市部の企業との連携~】

 山梨県が進めている、都市部の企業と農村を結び付ける「企業の農園づくり」を平成23年から開始し、神奈川県に本社がある富士通コワーコ社と山梨県養蜂協会との間でミツバチの保護を通じた環境活動に関する協定を締結している。
 清栄の役割は、ソバの裏作にレンゲの栽培が可能か実証することで、もし可能となれば、観光にも使え、蜂蜜も採れ、緑肥にもなり、いいことずくめである。実験は3年目になり、最適な播種時期や条件等いろいろなことが分かってきた。
 レンゲに蜜が入らないことがあることが分かってきたので、今年は牧草であるクリムゾンクローバーの栽培に挑戦する。
 こんなことをやっているので、試験的に養蜂も始めた。在来種である日本ミツバチの飼育を始めたが、分蜂や農薬からの隔離等いろいろな管理作業が難しい。今年はおこもりをしながら、来年は日本ミツバチの蜜を取ってみようと思う。

 富士通コワーコの社員には、ミツバチに関連する活動のときだけでなく、ちょくちょく来てもらっていろんな体験をしていってもらいたい。

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 【新しい取り組み③~新品目への挑戦~】

 昨年は、ソバの相場が一気に落ち込んでしまった。今後ソバを補完するような作目の導入が必要だが、作型を秋から夏にずらす検討も必要だと考えている。
 例えば、北杜市内の有名なソバ屋で使っているソバの実と、北杜市内の農業者が作るソバの実を比較すると、ソバ屋の使っている実は、大きくて青みが強い。ソバを夏そばとして栽培し、さらにソバの収穫を早くして、かつ過乾燥にならないようにしていると予想している。これまで清栄は、秋そばの栽培しかしてこなかったが、今年は夏そばの栽培に挑戦して、いい成績を収めた。忙しすぎてまだ味見をしていないが。味がよければ、新しい販路を開拓できる。
 ソバ以外には、青大豆、春小麦、花豆の栽培に挑戦することとなった。当然だが、最初からすべてが順調にいかず、いくつかトラブルがある。青大豆は一部発芽不良の問題、春小麦は選粒作業に問題、花豆は労力的な問題があるが、順調に栽培できれば販路も確保されて、農業経営の一つの柱になっていくかもしれない。

【農業経営のこと】

 平成22年に山日YBS農業賞を受賞したことあるからかもしれないが、清栄には、他県からの視察が多い。
 9月にも、山形県からソバ生産者が視察にくる、昨年度ソバの単価が下がる中、清栄が北甲斐亭等をからめて、どのように農業経営を展開しているのか知りたいようだ。
 大豆についても、単価が下がる中どのように利益を確保していくか工夫が必要となってくる。
 当然だが、農業をするときには、再生産可能な価格を維持していくことと農地や農業機械等を効率的に保有し、活用していくことが大切である。
 清栄では、法人構成員の畑を法人がすべて借り上げている。法人として大きな農業機械を装備してその畑を耕作しているので、効率よく法人経営ができていると私は考えている。
 また、法人の会計は、構成員にはフルオープンにしてある。だれでも見えるようして、不透明なことがないようにしている。剰余金が出ることもあるが、余ったお金は、必ず一部を再投資に回している。

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【地域の歴史と若い世代への期待】

 私の家は代々この地域で暮らしてきた。父は、前町長と縁があり、議員(議長)や地域の農協の組合長等をつとめ、清里地域の立ち上げ時の経営が苦しい時代に、ジャージー牛の導入等に必要な資金繰りを支援した。
 私はそんな父の背中を見ながら清里の地で育つ中、峡北高校を昭和36年に卒業して以来、地域農業に携わってきた。
 当時お勤めで得られる年収が100万円時代、コメ150俵を収穫できた我が家では、お勤めよりも収入がよかったのかもしれない。
 当時手植えが中心だった田植え作業に、地域で初めて田植え機を導入し、効率化を図った。さらにその後、過リン酸石灰の散布などで、労力がかかった施肥についても省力化するため、田植えと同時に施肥ができる田植え機を導入した。
 父が60歳で倒れた後、私はずっと地域活性化の取り組みを行っている。例えば、現在も中山間直接支払い制度の代表者、地域の財産区の理事長、土地改良区の理事長、清栄の組合長、北甲斐低の組合長、農地・水保全管理支払交付金の取り組みのトップもやっている。
 これまで、こうした取り組みの中で、地域に花を植えたり、農地を集約したり、公民館を立て替えたり、様々な活動を行ってきたが、70歳を超えたこともあり、そろそろ若い世代に活躍してほしいと思っている。
 地域活動は、自分たちで工夫して、汗をかいて進めていかないとうまくいかない。若い世代は、地域全体の活動を面倒くさがる傾向があり、お金で済ましてしまおうとすることが多い。それでは、地域がまとまらない。リーダーは、自ら汗をかかないとダメだ、と私は考えている。
 よく口ばかりきいて、手を動かそうとしない人や明らかにお金目的の人もいるが、そういう人は地域の信頼が得られない。
 地域活性化にはリーダーが必要だが、繰り返しになるが、そのリーダーは、自ら先頭に立って汗をかく人でないとだめである。
 このことは、農業にも通じる。畑を見れば、管理している人やリーダーの性質や考え方がにじみ出ている。地域の人たちは、それを見ているので、しっかり耕作されている畑を管理している農家には、農地がどんどん集まっていくものである。