文化の時代の地域デザイン
毎日新聞No.395【平成25年9月20日発行】
9月上旬夏季休暇をいただいてパリとその近郊を訪ねた。この時期は、長いバカンスが終って普通の生活に戻るころであり、観光客にとってはオペラ座の興行がまだ始まらない端境期である。にもかかわらず街はどこも人人人。ルーブルもオルセーも、オランジュリー美術館も開館前から長い行列である。400キロも離れたノルマンディ地方にある世界遺産モン・サン・ミッシェルは海に浮かぶ小さな岩山に建設された聖地だが300段以上もあろうかという迷路と石段は数珠繋ぎで、夜、懐中電灯を照らして登るという有様である。
人の集まるところに文化が生まれるというが、人々を惹きつける魅力は一体何か。 歴史、宗教、芸術、ショッピングなどいろいろあろう。歴史都市、科学技術都市、芸術都市、創造都市といった概念もあるが、パリの賑わいは一言でいえば文化力ではないだろうか。ブランド品に群れをなした時代から文化の時代への転換である。帰りの空港では2020年の東京オリンピック招致決定のニュースが流れ歓声があがっていた。
さて、われわれはどのように地域をデザインし、どのような魅力を創造していくのか。世界文化遺産に登録された富士山は自然環境はもとより文化的な魅力づくりにも磨きをかけていかねばならない。走行実験が再開されたリニアモーターカーについては、輸送手段であり需要創造型事業ではないが、オリンピックに合わせて品川~甲府間の部分開通に取り組めば新時代への兆しが見えてくるかもしれない。
県都甲府の街づくりは、北口再開発が一段落し、甲府城の整備も進み、県防災新館、甲府市庁舎の完成、残るは天守閣とお城フロントのまちづくり、甲府駅南の修景、リニア新駅周辺の土地利用などが俎上にのぼっている。年間開催となった国民文化祭ともあいまって県民市民のまちづくりへの機運は盛りあがってきておりチャンス到来である。
だが、まちづくりの議論には成長の時代とは異なるデザインが求められる。リニアによる通勤や通学と併行してシルバーカー生活の常態化など生活スタイルの変化をどう読むか。工場の海外移転や支店・出張所経済の縮小が予想されるなかでインバウンド観光や新分野への取り組みによって新たな雇用を生み出せるか。右肩上がりの時代の価値観を前提にすると次代に大きな負の遺産を残すことにもなりかねない。
(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)