Vol.183-2 石和温泉の活性化に向けての一提案
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 千野 正章
【はじめに】
公益財団法人 山梨総合研究所では、毎年県内の自治体と1つの地域課題をピックアップして、解決策について意見交換を行う検討会を実施している。
本年度は、「石和温泉の活性化」をテーマに選定し、笛吹市の担当者を交えて9月24日に検討会を実施した。
当日は、笛吹市の倉嶋清次市長をはじめ、経営政策部や産業観光部の職員の方に御出席をいただき、笛吹市側から1つの発表、総研側から2つの発表を行い、活発な意見交換が行われた。
以下は、私が行った発表の要旨である。
【石和温泉の概要】
まず、石和温泉の概要について、以下のようにまとめた。
○地理的な条件
- 新宿駅から石和温泉駅まで電車で90分程度と意外と都市部から近い
- 近隣のICから車で15~30分程度
- 新宿駅と石和温泉駅の間を22本/日の特急が走っている
- 石和温泉駅から温泉地までは、徒歩5分ぐらい
○歴史
- 昭和36年 石和温泉湧出
- 昭和38年 石和ぶどう温泉観光協会設立
- 昭和62年 新日本観光百選にて3位
- 平成14年 67度の新たな源泉の採掘
- 平成19年 石和源泉足湯ひろば誕生
○周辺の観光客の推移
- 周辺観光客 4,398,691(H15、100%)→3,421,240(H24、78%)
- 石和温泉宿泊者 1,179,882(H15、100%)→9,23,536(H24、78%)
観光客は10年前の80%程度に減少し、バブル時と比較すると半減しているが、全国の他の温泉地も同様の傾向である。
【石和温泉の課題の抽出と考え方】
検討会に前もって、行政関係者、周辺施設の担当者らにヒアリングを行い、石和温泉の現状に課題を以下のように3つ課題としてとりまとめた。
○課題
- 観光客確保について関係者全体で問題意識を共有できていない
- なので、行政的な支援の方向性がなかなか定まらない
- また、行政の財政難もありハード的な支援は困難
これまで、山梨総研から石和温泉の今後の方向性について笛吹市に提案していたが、実施にまで至っていないことから、具体的に活動が実施できるように以下のように解決に向けた考え方を取りまとめた。
○解決に向けた考え方
- 温泉関係者が興味を持てる新しいコンテンツの提案
- 出来るところから実験的・実証的に進める
- 地元自治体の財政負担が少ない手法を導入
- 事業実施にあたっての協力者をリストアップする
【新しいコンテンツ提案に向けた石和温泉のSWOT分析】
石和温泉および周辺環境について、内的要因・外的要因ごとに、よい影響・悪い影響について分類するSWOT分析を行った。
SWOT①では、石和温泉周辺に健康関連施設が多数あることや健康・福祉・医療ニーズの増大、周辺の食材等をピックアップし、SWOT②では周辺の古墳が多数あることや都市部の墓地不足等についてピックアップした。

【実証的な提案】
これらのことから以下の3点について提案を取りまとめた。まず実施体制を整えること、次に温泉の魅力を再構築すること、最後に周辺と連動してリピーター客を確保していくことを石和温泉再活性化のプロセスとした。
①実施体制の整備
まず、実施体制の整備であるが、これまで市内の関係組織がすべて加入した大きな実施主体存在しなかった。これまでの関係団体のみだと大きな組織を形成することができないなんらかの理由があることが推測されるため、外部組織への委託による関係機関への働きかけを行い、大きな協議会を作っていくべきであろう。委託する外部組織には、例えば当財団があげられる。
②温泉の魅力の再構築
次に、温泉の魅力の再構築についてであるが、SWOT①で分析した内容から「健康と食の喜びを追及する新しい温泉の構築」を提案したい。この提案には、3つの内容を含み、それぞれ「②-1供給する食コンテンツの充実」、「②-2持続可能でエコ的な温泉地」、「②-3清潔な環境を目指した独自の衛生基準づくり」である。詳細は以下のとおりである。
②-1 供給する食のコンテンツの充実
現在、日本の肥満者の割合が男性で30.4%、女性で21.1%(H22国民健康・栄養調査)であり、また糖尿病は予備軍を合わせると国民の27.1%(H23国民栄養調査報告)となっている。健康に配慮した食事をしていくことが望まれるが、一般的に健康に配慮した食事は美味しくない場合が多い。
石和駅周辺は、大きな果樹産地があり、また高品質な野菜を周年的に生産している農業法人もある。それらの材料を活用し、例えばおいしい病院食・ダイエット食・ベジタリアン食(ハラル食)を提供することで、温泉の魅力を再構築していったらどうか。このコンセプトに対しては、食の専門家である石原隆司氏(※テレビチャンピオンで、牛肉王に輝いた肉の専門家)が全面的に協力を申し出てくれている。ベジタリアン食(ハラル食)を確保できれば、富士山に来たイスラム教徒を石和温泉に誘致する大きな力となる。
事業については、農水省の食をつかった地域おこしの事業を活用することで、地元自治体の負担が軽減できると思われる。
②-2 持続可能でエコ的な温泉地
②-1のような取り組みを推進するに当たり、環境にやさしいエネルギーを活用するとことで、取り組み全体のイメージを向上させるとともに独自性を示すことができる。
従来のバイナリー発電(※2種類のエネルギー源を取り出す発電)は、高温の熱源しか活用できなかったが、近年の技術革新により70度程度の低温の熱源でも活用できるようになってきた。石和温泉の新しい源泉の温度は70度程度であるため、この新しいバイナリー発電機の検討してみたらどうだろうか。
このコンセプトについても協力を申し出ている者がいることに加え、環境省が実施している温泉熱活用事業を活用することで地元自治体の負担は軽減できる。
②-3清潔な環境を目指した独自の衛生基準づくり
温泉地の旅館には、旅館業衛生等管理要領に基づき衛生管理を行っているが、ホテルと比較するとやや衛生さに欠ける部分があると指摘を受けることがある。
石和温泉のリニューアルに際して、通常よりも厳しい衛生管理基準を設けイメージの向上および独自性を発揮していくことで前述した取り組みとの相乗効果を得られるのではないだろうか。このコンセプトについても協力を申し出ている者がいる。
③公営墓地の設置
②で構築した新しい温泉イメージで新しい顧客を呼び込み、さらにリピーター化した石和温泉のファン達に、「終の棲家」まで温泉周辺に用意してしまおうとするものである。
SWOT②で分析したように、笛吹市は山梨県内で最も古墳が多いことに加え、現在都市部で墓地が不足している(「都内霊園における新たな墓所の供給と管理」より)ことから、周辺に公営墓地を設置することとでさらに特徴的な温泉地となろう。公営墓地を設置することで定期的な訪問も期待できる。
甲府市のある米倉山には、富士山が見える極わずかな地点があるが、そこに古墳が設置されている。富士山が見える場所に墓所をつくるというのは古くからの流れなのもしれない。そういう意味で富士山が見える石和周辺に公営墓地を設置することには大きな違和感はない。
【まとめ】
以上、石和温泉の現状を分析し、活性化に向けた課題を抽出した。また抽出した課題に対する解決策について、大きなプロセスを示し、その内容について事業や協力者を含め、具体的記述してきた。
石和温泉の活性化が進めば、石和温泉だけでなく周辺の観光施設にも好影響を及ぼし、雇用の促進等につながっていくだろう。
また温泉地の観光客減少については、全国の温泉街で石和温泉と同様の問題を抱えており、石和温泉が温泉地活性化の新しいモデルとなりうると考えている。石和温泉の関係者は、本提案について導入するよう検討を重ねていっていただきたい。