turbo復活


毎日新聞No.399【平成25年11月15日発行】

 バブル華やかりし1980年代末、勢いのある、きらびやかな時代を反映して、自動車業界の中では「パワー競争」ともいえる開発競争が繰り広げられていた。
 その力強さを実現するために、それこそ高級車から軽自動車に至るまであらゆる車種にラインナップされた装置がターボチャージャー(turbo charger)である。これは、エンジンでガソリンを燃やして必然的に出る「排気」の力を次のガソリンを燃やすために使うことで、より大きな力を得ようという装置である。
  車両前後部のロゴについていえば、現在の主流は青や緑字のECO、CLEAN云々であるところが、当時は赤字のturboだった。計器類でいえば惰性で走ると点灯するECOランプであるところが、往事のターボ車だとアクセルを踏み込むと引っ張られるような加速と共にパイロットランプが点灯する仕掛けがあった。筆者自身が子どもながら、親が運転する車のturboランプが点くのをわくわくしながら見入っていたことも思い出す。

  ただ、当時ではこの装置を稼働させるために、普通より多くのガソリンを消費することもあって、その後の「不景気」や「エコ」の進展とともにターボは燃費にも環境にも“やさしくない”不経済な存在として敬遠され、時代の流れの中で急速にラインナップから姿を消した。代わってハイブリッドカーなどの環境技術を全面に出した車がもてはやされるようになっていったわけである。
  ところが、ここ数年、再びターボに日の目が当っているようだ。技術開発が進んだことで欠点だった燃費改善に成功し、むしろこれまでよりエンジンを小さくしても、ターボで力を補うことでそれまでと同じ出力を得つつ、なおかつ“活きのいい”走りが実現できるようになったという。

  一度は無駄とみなされて消えかけたものの、技術開発が進んだ結果、ふたたびスポットライトを浴びることになったturbo。ここ二十年ほどのたどったあとを振り返ると、繁栄の中に衰退の芽があった、でも衰退の中に次なる繁栄の芽がある話として、聞いていて前向きになれるストーリーが読み取れる。
 国レベルでも、また読者諸氏の周りにおいても、こんな「復活」を伝える話が、もう少し出てくるようになれば、もっと人の心と世の動きに力がこもるはずだ。

(山梨総合研究所 主任研究員 佐藤 史章)