左右の区別はしっかり


毎日新聞No.407【平成26年3月20日発行】

  一日の仕事を終えると外は暗い。自転車の前後のライトをつけ、自宅へと走り出す。走るのは車道の左側。見通しの悪い交差点に差し掛かり、青信号だが声が聞こえたため減速すると、左側の道から黒い影が勢いよく飛び出す。見ると、自転車の若者が2人、横に並んで談笑しながら赤信号の交差点を走り抜けていく。ほのかなアルコールの香りを残しつつ…。
  道路交通法からみれば、信号無視(7条)、並走(19条)、無灯火(52条)、酒気帯び(65条)、そして右側通行と、違反のオンパレードで、危険なことこの上ない。ぶつかって事故になれば怪我をするし、頭を打てば死亡する可能性だってある。しかもこのケース、大げさではなく、結構よく夜間に遭遇する。

  信号無視や酒気帯びは論外として、なかなか守られないのが左側通行である。言うまでもなく、車両である自転車は車道の左側通行が原則(道交法18条)。同20条に基づき設置される自転車レーンも左。昨年12月からは、改正法(17条の2)で路側帯も左側走行が義務付けられた。いずれも違反すると3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金が科される。結構重い。
  規定がありながらなぜ守られないのか。答えは明白。例外規定があるからである。自転車通行が許された歩道(道交法63条の4)や、車道や歩道と区分された自転車道(道路構造令2条1の2)は、左側通行が義務付けられておらず、法律上は対面通行が可能、つまり右側も走れる。
  車道は自動車が多くて危険だという理由で、1970年に道交法が改正されて以来40年以上、自転車の多くは歩道を走ってきた。歩道通行が定着し、対面通行は常識となった。大人がするのだから、当然、子供もまねをする。
  しかし右側通行は正面衝突はもちろん、冒頭の例で分かる通り出合い頭の衝突事故を誘発する危険な行為である。警察庁資料によると、2014年に発生した自転車が絡む車両事故のうち、出合い頭衝突だけで全体の55・4%(7万156件)を占める。この原因が右側通行の横行にあることは否めない。
  運転免許証がいらない気軽な乗り物であるため、自転車が車両であり、法律で規制され、危険走行が大事故を招くという認識を持てない人は多い。だが自転車事故の加害者が、多額の賠償金を請求されるケースもよく耳にする。

  身近で便利な乗り物が自分や他人を傷つけ、不幸にする道具とならないように、まず左と右の区別をつける。分かっていれば、大人も子供も簡単にできることのはずだ。

(山梨総合研究所 主任研究員 河住 圭彦)