Vol.188-1 同性婚のこれから
山梨学院大学法学部政治行政学科
専任講師 清水 知佳
はじめに
あなたは異性愛者ですか、同性愛者ですか。この問いは、こうした直接的な言い方ではないにせよ、これまでに形を変えて幾度となく繰り返されてきました。その度に、同性愛者は難しい選択を迫られ、セクシャルマイノリティ(性的少数者)としての自身の立場を意識せざるを得なかったでしょう。同性愛者間の婚姻である「同性婚」は、そうした問題のひとつです。
一般に、多くの国々では、婚姻制度とは異性愛を前提とするものであるとみなされてきました。日本においても同性婚は認められていません。他方で、米国では最近、連邦最高裁が同性婚を認めるはじめての判決を下したことを契機として、同性婚への支持が広まっています。本稿では、同性婚をめぐる日米両国の現状を簡単に説明させていただきます。
1.日本と同性婚
日本国憲法第24条1項は、「 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」とし、同条2項では、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と定めます。このように憲法は原則として、婚姻は夫と婦、異性(両性)間に成立するものであると定めますが、その一方で、憲法は法律によって同性婚を認めることを否定するものではないという解釈も可能であるとされています。
2014年3月現在、日本では同性婚を認める法律は制定されていません。国会議員のなかには、自身が同性愛者である旨を公表する方も当選していますが、かかる内容の法律を制定するには至っていないというのが現状です。これについてはさまざまな理由が考えられますが、そのひとつには、養子縁組制度が日本に広く浸透していることが挙げられます。というのも、日本においては、生年月日が一日でも異なれば養子縁組が可能であるとされ、比較的多くの同性愛者が同制度を婚姻に代わるものとして選択しているのです。
この制度の下に、同性愛者カップルは、財産を相続させることや、同じ姓を名乗ることなどが可能となります。但し、養子縁組制度下における同性愛者カップルは、「夫婦」という形ではなく、「家族」という形で婚姻生活を営むこととなるため、両者の間に、貞操義務等の夫婦としての権利義務関係は生じません。
2.米国と同性婚
それでは、米国では同性婚は認められているのでしょうか。これについては、それぞれの州を調べてみないとわかりません。なぜならば、米国は各州が強い自治を有する連邦制を採用しており、同性婚を認めるか否かについては州政府の権限となっているからです。したがって、同性婚の是非をめぐり、州ごとに異なる判断が行われているといえます。たとえば、ニューヨーク州は同性婚を認めていますが、ユタ州などの保守的な州は同性婚を禁じています。
国民レベルにおいても同性婚問題は高い関心を集め、これまでに活発な議論が繰り返されてきました。その議論を整理すると、まず、同性婚を認める理由としては、「人間として当然の権利である」、「財産分与の面において必要となる」などがよく主張されています。これらの理由は、日本の同性婚支持者が主張するものとほぼ同様のものといえるでしょう。他方で、同性婚を否定する理由については、「子供の教育上、悪影響を与えかねない」などに加えて、「宗教上のタブーである」という点がとりわけ強く主張されます。これは、同性婚がキリスト教の教えに反するという見解であり、キリスト教信者が大半を占める米国に特徴的であるといえます。
同性婚をめぐる上記議論は、論点が尽くされた感はありましたが、支持者と反対者の間には依然として激しい対立がありました。そんななか、2013年6月26日、連邦最高裁が異性愛者と同じ権利を同性愛者に認める旨の判決(United States v. Windsor , 570 U.S._(2013))を初めて下し、米国全土に衝撃を与えたのです。
本事件の原告は、エディス・ウィンザーという同性愛者の女性です。タイム誌が2013年度の「今年の人」(person of the year)として彼女を表彰したことからも、ご存じの方は多いのではないでしょうか。彼女は、長年連れ添ったテア・スパイヤーという名の女性と2007年にカナダで正式に結婚しました。その後、二人はニューヨークにて幸せな結婚生活を送っていましたが、2010年にはテアに先立たれてしまいます。このときテアはエディスに不動産を遺したため、エディスは、通常、配偶者に認められる遺産に関する連邦税の控除を申請しました。ところが、連邦政府はエディスの申請を、1996年婚姻防衛法(1996 Defense of Marriage Act)という連邦法に基づいて却下します。というのも、この法律は、第3条において、婚姻は男女間に限ると定めているからです。これを不服として、エディスが、連邦政府に対して婚姻防衛法の違憲性を争ったのが本事件です。
全米が注目するなか、評決は5対4となり、エディスの勝利となりました。最高裁は、婚姻防衛法が、州法上の婚姻の一部を区別して不平等に取り扱っていること、同法の下に同性愛者が税法上さまざまな不利益を被っていることなどを理由として、その違憲性を認めたのです。
この判決は、同性愛の歴史的な勝利として刻まれたのですが、注意しなければならないのは、これはただのはじまりにすぎないということです。すなわち、本判決において決定したのは、婚姻防衛法が違憲であることにすぎず、同性婚を認めるか否かは依然として州の判断であり続けるのです。そこで、現在では全米のすべての州において同性婚を認めるべく、活発な運動が繰り広げられています。今後、日本が同性婚についてどのような結論を下すかはまだわかりませんが、国民全体の関心事として、徹底的な議論を行うことは私たちがアメリカから学べることといえるでしょう。