Vol.188-2 公共施設白書の公表状況と必要性、今後の展望について


公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 佐藤 史章

1.公共施設白書とその公表状況について

 公共施設白書とは、”公共施設の建築年、面積、構造など建築物の保全管理に必要な静的な情報だけでなく、施設の管理運営に要するコスト、利用状況といった動的な情報も含め、データの把握や施設間比較を可能にすることで市民と行政が施設の存続・統廃合の判断、運営体制の見直しなどの議論を共有化して、公共施設の更新優先順位、再配置計画の検討を行うためのデータブック”[1]とある。

■公共施設白書・期待される効果と展開

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(資料)筆者作成

 「白書」を取りまとめる背景には、人口減少と自治体の財政悪化が同時に進行する中で高度経済成長期に多く建設された各種公共施設が徐々に建替えの時期を迎え、かつ市町村合併等によって遊休施設が増加する状況がある。このような中、施設に関する情報をファシリティマネジメント[2](以下、「FM」とする)の考え方等を用いて整理し、行政はもとより市民とともに、未来に向けた公共施設を含めた行政サービスのあり方を検討していくための情報共有ツールとして公共施設白書が求められている。

■公共施設白書の公表状況(25年8月)

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(資料 NPO法人日本PFI・PPP協会 植田和男, 第595回建設技術講習会資料 地方自治体経営の危機と官民連携の果たす役割www.zenken.com/kensyuu/kousyuukai/H25/595/595_ueda.pdf‎ 2014.1.12アクセス をもとに筆者作成 )

 本図は、日本PFI・PPP協会が取りまとめた公共施設白書の最近の傾向(全国107市町村・25年8月現在)である。縦軸に都道府県、横軸に時間(年)をとり、作成時点を当該自治体が属する都道府県ごとに点描したものである。白書策定の動きが近年になって増加し、かつ地方部での作成が進んでいることが読み取れる。

2.国による支援の状況

 国からは「インフラ長寿命化基本計画」(25年11月)の行動計画たる「公共施設等総合管理計画」策定へ向けた指針が示される見通しとなった[3]。これにより取組の段階はこれまでの「施設の現状把握への取組を始めるか否か」のところから、国が音頭を取って「取り組むこと」が前提となった全国的な取組へと”半歩”は進むといえる。
 ”半歩”としたのは、データを集めて仮に白書として公表したとしても、それだけでは道半ばということを強調したいためである。公共施設等総合管理計画では、現状把握に加え、施設の更新や廃止、統廃合などの将来的な方向性を盛り込むことになっているようではあるが、仮に書面上でこれらの内容を取りまとめたとしても、実際の動きへとつながらず、白書を「作る・作らない」にかかわる温度差が、白書を「活用する・しない」の温度差へと繰り延べられるだけの状況につながりかねないのではないか、という点が懸念される。

3.「公共施設・構造物の維持・更新に関するアンケート」から

 25年9月に弊財団が実施した「公共施設・構造物の維持・更新に関するアンケート」では、山梨県内27市町村中23市町村から回答を得た。その中で、白書作成へ向けた状況は”作成済・作成中・検討中”の合計(40.7%・11自治体)が、”作成に取り組む予定はない”(44.4%・12自治体)の割合を3.7ポイント(1自治体)下回っている。

■アンケート結果

(1)白書作成に向けた状況(SA)

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(2)施設情報の管理方法(MA)

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 また、白書作成の目的の一つである庁内での一元管理に関連して、施設情報の管理方法についての質問したところ、システム管理がなされる一方で、共有に適さない方法(Excelなどの汎用のデータソフトや紙ベースの台帳)によっているとの回答がそれを上回った。
 庁内にあっても情報の一元化が進んでおらず、統合的に施設の状況が把握できない状況では、施設の今後を考えようにもできないはずであり、まして市民レベルとなれば尚のことである。
 データを収集、整理、共有した結果を、行政資料ではなく、誰が見ても分かる形で共有する「白書」への取組は、不可欠なものだが、時にこの手の取組は「手段が目的化」してしまいがちである。白書を何十年といった時間軸で地域での生活と公共施設のあり方を考え、取り組む端緒とするためにも、「手段を目的化させない」ことは携わる全員が持ちたい意識である。

4.持続的な自治体運営のために

 白書作りが進めば、「更新のピークはいつか」、「老朽化した施設の利用度」、「施設関連経費の見通し」といったデータが収集される。その後の取組、白書を踏まえていつまでに何をすべきか、という公共施設のあり方を検討する工程表作りや、施設の評価に必要なデータが出そろうこととなる。
 これらのデータを具体的な取組につなげるかどうかは、発刊者たる行政サイドのスタンスによる部分が大きいが、数値をもとにしたコミュニケーションは、問題の所在をあぶり出すことから、従前の経緯や、その後の市民生活への影響の大きさ、合意形成の困難さ等を考えると二の足を踏む事情も十分にあり得る。極論を言えば、現時点においては「施設白書を見て、喜ぶ者はいない」かもしれない。
 とはいえ、このまま無策で時が流れれば対応を取る機会すら失われるかもしれない。行政として、公共施設の維持更新への取組を通して何を実現するか。健全な財政運営をすることや、安全に施設を利用させることはもちろん大事だが、そもそも一番大切なのは「この地を生活の場として次代につなげる」ということではないか。
 そのためには、公共施設白書を介して行政と市民が情報共有し、議論を重ねるというプロセスは通らねばならぬ道筋である。現時点では困難な取組ではあるが、後から振り返ってみれば、持続可能な自治体運営を可能にした取組として評価されるに違いない。

5.当地におけるFMについて

 では、具体的にどのように考えてこの施設の状況把握に取り組むのか。参考とされるのが前掲のFMの考え方である。最近では施設の管理手法や自治体FMについてまとめた資料が公表[4]されてきている。
 ただ、公共施設の維持更新問題については都市部での着手が早かったことから、全国的にフロントランナーとして知られる事例地には都市部のものが多い。先駆的に本分野への取組を進めてきたことで手法や考え方の蓄積には大いに学ぶべきところがあるとはいえ、先ほど指摘した資産の利活用の背景などの面では異なる点も多く、事例をそのまま導入するには難があるのも事実である。
 再度、弊財団実施のアンケート結果を取り上げると、公共施設を持続可能な形で維持継続するための対応として最も多く挙げられているのは、「老朽・低利用度施設の利用中止・除却・取壊」である。都市部で多く取り入れられ、事例集でも紹介される代表的な施策である「余剰施設・スペースの賃貸による収入増」との回答はなかった。

■公共施設を持続可能な形で維持継続するための対応(MA・3つまで)

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 FMを考える場合、発想の視点は当然に建物の有効利用(ファシリティ「を」マネジメントする)という点からとなり、そうした流れの中で事例紹介がなされているが、自治体経営においてはそこからあぶれる部分、例えば施設再配置が必要との結論に至った場合、施設が廃止される地域における行政サービスのあり方にも配意する必要があるのではないか。そうした視点や見通しを持った取組、”現有施設の利活用”に加えて”施設保有の有無”を含めた、”ファシリティ(のあり方)「で」(地域を)マネジメントする”視点が必要ではないか、という点は提起しておきたい。
 具体的には、「有効活用ができないから、これ以上は手が打てない」とか、「施設の利用度が低く、老朽化が進んでいるから廃止し、あとは別途考える」という姿勢ではなく、そのような状況を含みながらも、地域での行政サービスをどのように組み立て行くのかを検討の過程において議論することが重要だということである。例えば、ソフト面での仕掛け作りが考えられるが、施設のことは施設のこと、ソフト事業はソフト事業、と切り分けずに、地域づくりの観点から一体的に取り組む視点は持ち続けたいところだ。
 また、白書作りに取り組んでいる地方部、特に市町村合併を経た自治体のその後の推移も含めて丁寧にフォローしながら、我がまちへの示唆を注意深く読みとりたいものだ。

■「白書後」の展望・・・ソフト事業の一例

  • 行政サービスの委託・・・流通業者、郵便局(事業者の持つネットワークに着目)
  • 定住支援・・・就農支援、子育て世代、田舎暮らし希望者の誘致
  • 移動支援・・・デマンドバス、タクシー料金助成  等

(資料)筆者作成

■地方部での白書への取組の一例

福井県坂井市:個々の施設の有りようにまで踏み込んだ白書を取りまとめた。(H24.3)

栃木県日光市:山間部の町村との合併で市域が広大になったことで早期の白書作成に着手した。(H24.6)

(資料)筆者作成

6.まとめ

 これまでみてきたように、公共施設白書のとりまとめに始まる、公共施設の維持更新への取組は、市町村政を「公共施設」という目線から眺め直した時に、どんな風景が見えるか、どんな風景にしていくかという、全庁横断的に取り組むべき課題であり、自治体そのもののデザインに関わる重要なテーマである。
 その遂行にあたっては、永く地域に根ざし、知恵や実行組織を備えている地域の専門的な主体との緊密な連携が重要である。具体的には、乗り越えるべき課題や検討の段階によって、地域デザインの理論については大学等の研究機関、建物そのものについては建築関連の事業者、財務面については金融機関といったところが挙げられる。
 更に、こうした主体の間を、地域行政のエキスパートである各市役所・町村役場がつなぐことで、この地が住民の暮らしの地として永続するような、新たな地域の姿を創造していくのだ。私ども山梨総研としても全国レベルの最新手法と、地域の故由をひも解き、実情を直視するスタンスで、地域における連携の輪を広め、絆を強めるために力を尽くしていきたい。
 地域に関わる誰しもが、地域の未来に責任を負っている。答えは地域の中にあるはずだ。

※ 本稿は公益財団法人山梨県市町村振興協会編『自治の風vol.35』(平成26年3月)http://www.ympa.or.jp/wp-content/uploads/2014/03/jichi35_1.pdfに寄稿したものを一部改編したものである。


 

[1] 『公民連携白書2013-2014』,東洋大学PPP研究センター 編による

[2] ファシリティ(英 facility)とは、設備や施設の事をいう。ファシリティマネジメント(FM)とは、(公財)日本ファシリティマネジメント協会によると「企業・団体等が保有又は使用する全施設資産及びそれらの利用環境を経営戦略的視点から総合的かつ統括的に企画、管理、活用する経営活動」と定義されている。また、FMにおいて管理の目標とするものは、「財務」(施設等の経済性)、「品質」(施設自体の利便性・快適性)、「供給」(利用度に応じた施設整備)という3つの要素である。

[3] 本稿は26年1月末に執筆した。

[4] 一例をあげると、ふるさと財団 平成24年度PFI/PPP調査研究会報告書『公共施設マネジメントのあり方に関する調査研究』はマクロ的なとらえ方や公共施設マネジメントの取組フロー、具体的なファシリティマネジメントの事例に至るまで網羅的な記述がなされている。