フルーツ王国であるために
毎日新聞No.408【平成26年4月4日発行】
2月の未曾有の大雪で、山梨県の施設園芸は大きな被害を受けた。 一方、通常の露地栽培にはほとんど被害がないことから、フルーツ王国やまなしは今年も健在である。山梨県のフルーツは、農業者の頑張りや新規就農者の増加等で今後も生産が維持されていくであろうが、消費者のフルーツ離れが進んでいることが、深く懸念される。
農林水産省の「果樹をめぐる情勢」(H25)を見ると、フルーツの1人当たりの消費量は106.8g/日で、10年前の122.9g/日から減少している。以前から20~30歳代のフルーツ消費量は少ないが、今回の調査では40~50歳代のフルーツ消費量が大きく減少した。
消費者のフルーツ離れを食い止めるべく、多くの活動がなされている。例えば、厚生労働省の毎日果物200g運動や、学校給食へのフルーツの導入である。また、フルーツの機能性の分析もそうした消費拡大活動の一つであるが、実際には消費減少傾向は止まっていない。減少傾向を食い止めるため、中長期的には、消費者の意識や傾向を分析して日本人の食生活自体を変えていくことが必要であり、短期的にはいくつもの新たなPR・プロモーション方法を開発していくことが求められる。
山梨県内では、平成25年度に山梨大学院大学の管理栄養士を目指す学生80名がフルーツ大使に委嘱されて、フルーツの勉強や加工品開発等に取り組んでいる。学生が管理栄養士となり、フルーツの消費拡大の中核を担うようになるのはもう少し先のことだが、これは中長期的な視点から取り組むべき活動である。
その一方で、現在県内の5農業法人と笛吹市のNPO法人が消費拡大に向けて通常とは異なったアプローチを行っている。「あらゆるものに神が宿る」と感じる日本人の感性に訴えて消費拡大につなげようとする取り組みである。具体的には県産の農産物に縁のあるデザイナーにその農産物をキャラクター化してもらい、それを通じて消費者においしさや安全性を訴えかけるものである。これまで、フルーツやおコメ等5品目がキャラクター化された。首都圏で販売実験した結果を見えると、一部であるが、普段フルーツや野菜を食べない層の購入行動につながり、消費拡大の第一歩である「関心を持ってもらう」ことに成功している。
こうしたキャラクター化によるプロモーションですべて解決するわけではないが、消費拡大に向けて生産者がアイデアを出し、恐れずに実行し、結果まで得られていることを評価したい。
生産者や販売者がこうした小さなトライアルを繰り返し、課題を抽出し、改善して続けることこそ、消費拡大のベースになるものだと考える。
(山梨総合研究所 主任研究員 千野 正章)