椅子取りゲームは、「はしっこく」


毎日新聞No.409【平成26年4月18日発行】

  集団登校の後姿に、新しいランドセル。春は進学、進級・クラス替えの季節である。そういえば、クラス替えの後のレクリエーションで「椅子取りゲーム」をしたことを思い出す。
  “音”が鳴り止むまでは座る心づもりはしても実際には飛び出せない。相手の動きをちらちらと見ながら、音が止まるや否や、椅子をめぐっての争奪戦である。椅子が多いうちは「まぐれ当たり」もあるかもしれないが、だんだん椅子の数が少なくなってくると、足の速さはもとより、注意力や駆け引きといったところをまとめての「はしっこさ(機敏さ・敏捷さ」)」がものを言うようになる。

  そんな椅子取りゲームは、地域イメージの「ポジショニング」にも通じるところがあるのではないか。すなわち、
  「富士山といえば○○県」
  「健康長寿県といえば○○県」
  「リニアといえば○○県」
  今の本県は、この○○に「山梨」を入れる椅子取りゲームに加担っている(かたっている)、との見方も出来るのではないか、ということである。
  もっとも、成功例はすでにある。“「もも」・「ぶどう」といえば山梨県”だろう。
  昭和40年代にかけての養蚕の衰退に伴い、山すそに点在する桑畑を転換していく必要があった。そのような中で、夏が小雨高温で日照が得られる気候風土と、県内農家が有していた高い栽培技術が生かすことができ、なおかつ単価も高い作物が果樹であった。他方、高度経済成長や高速道路等の交通網の発達で少々高くても新鮮で品質の高いものを求めようとする需要側の条件も整いつつあった。気候風土、地勢、技術・能力をそのときの時流でとらえ直して打ち出したことが、「納得感」をもって受け入れられ、今日の果樹における山梨のポジションを築いたといえよう。
  次なる「椅子」を得るのにも、この経験は示唆的である。
  例えば、「リニアといえば」について、地域開発の方法は、商業集積、観光振興、暮らしの場としての質の向上、といった様々な方策が考えられるが、これらを「納得感」のふるいにかけつつ、スピード感を持って取り組むことで、「まぐれ当たり」ではないポジションをつかむことができよう。

  “音”の止むタイミングはいつになるか分からないが、悠長にしていられないのは確かだ。すぐに反応できるよう、「はしっこく」飛び出すイメージを描きたい。


(山梨総合研究所 主任研究員 佐藤 史章)