地域の個性
毎日新聞No.410【平成26年5月2日発行】
先日、群馬県の嬬恋村を訪れる機会があった。まだ、春になったばかりの時期だったので、一面のキャベツ畑はまだ何もない状態であったが、きれいに管理された畑や間を縫って続いていく農道、ところどころに整備された施設に保管されている大型の農耕車両をみると、この地域が何によって成り立っているのか、力強く語りかけてくる。
高度経済成長は遠い過去の話となり、人口減少社会に突入した現在、住んでみたい、住み続けたい地域として活力を維持していくためには、このような地域の特徴を強化し、初めて訪れた人でもその地域の個性を感じられるような景観づくりが必要ではないだろうか。
その地域のありようであったり、目指すべきものを象徴するような景観が目の前に広がっていることは、そこに住む人々の地域に対する愛着を深め、訪れた人々は住民の愛着を感じてひきつけられる。
山梨県内でも、一面のブドウ畑やモモ畑、見上げると目に入ってくる富士山や南アルプス、八ヶ岳といった山々など地域を特徴づけている景観がある。さらに、個々の集落単位で特徴的な景観が残されている場合も少なくない。
それぞれの地域の産業や生活、歴史、文化などと密接に結びついた魅力ある個性豊かな景観を見出し、それを維持、発展させ、次の世代に伝えていくことは、地域の求心力を高めていくことになる。
地域の個性が輝くことは、地域のありように方向性を与え、そこで営まれる活動を活性化し、その土地に住み続けたい、暮らしてみたいという人々をひきつける。
戦後70年近くにわたって先人たちによって続けられてきた努力によって、すでに一定水準のインフラ整備が終わった現在では、他と比較して劣っている部分への対応よりは、こういった地域の魅力を生み出している特徴ある景観の維持、強化への取り組みが求められているのではないだろうか。
言葉を尽くした文章よりも目の前に広がる景観は圧倒的な力を持ってその地域の個性を語りかけてくる。
(山梨総合研究所 主任研究員 進藤 聡)