Vol.190-1 甲府市中心市街地の活性化に関する一考察


 【(株)小野不動産鑑定 不動産鑑定士 小野 淳一】

 

1.はじめに

 「コンパクトシティ」という概念は、既に都市政策のメインテーマとなっており、2008年に甲府市が策定した都市計画マスタープランにもこの概念は色濃く導入されている。そもそも「コンパクトシティ」とは、「都市活動(居住、業務外)の密度が高く、効率的な空間利用がなされた、自動車に依存しない交通環境負荷の少ない都市」であるとされている。そして、甲府市が提唱する甲府市中心市街地活性化基本方針は、まさに甲府市中心市街地において「コンパクトシティ」を目指す内容となっている。
 しかし、人口が減少し、地域経済の疲弊が長期化している現在、既に出来上がってしまった都市の外延的発展を抑え、中心市街地に都市機能を集約していくことは可能なのだろうか。甲府市が提唱する中心市街地活性化基本方針は、経済の原理や市民の選好と調和したものだろうか。不動産鑑定士として長年に渡り、地価水準に向き合っていると、行政の効率性と個人の選好性は必ずしも調和せず、効率性だけでは説明できない多くの土地取引を垣間見る。そこで、本稿においては、甲府市における「コンパクトシティの現状」を不動産鑑定士の視点から掘り下げてみたいと思う。

 2.甲府市中心市街地活性化基本方針について

 甲府市は、中心市街地における課題、「中心市街地活性化基本方針(骨子)」などを踏まえ、中心市街地活性化実現のために3つの基本方針を定めており、その概要は以下の通りである。

【基本方針①】買い物の場として楽しめる中心市街地の再生

 甲府市は、中心市街地の活性化には、商業の活性化、商店街の再生が最重要課題と考え、商業活性化の方向性を「住む人にとっての近隣商業としての役割を維持しつつ大型店を核とした都心型商業を再構築する」としている。

【基本方針②】歴史や文化にふれることのできる中心市街地の再生

 甲府駅北口及び南口の整備事業等により多くの人々が集まる場を創設し、中心市街地に集まる人々が歴史あるまちと新しいまちに同時ふれることができ、充実した時間を過ごせる中心市街地の再生を目指している。

【基本方針③】定住の場所として選ばれる中心市街地の再生

 歩いて暮らせるまちを目指して、これまでの基盤整備により既存ストックの充実した中心市街地において、暮らしやすいまちづくりを推進する。具体的には、公共交通の充実、バリアフリーの実践等により全ての人にやさしいまちづくりを目指すと同時に、購入費補助等によってこれから住もうとする人たちにとっての更なる魅力向上を図るとしている。

3.市街化調整区域の発展

 2008年以降、甲府市中心部では、ココリをはじめとして甲府市役所新庁舎や山梨県庁防災新館など複数の大型建設事業が実施されている。こうした大型建設事業が中心市街地活性化に対して与えた影響については、議論の分かれるところであるが、一市民の実感として賑わいが戻ったというイメージはない。中心市街地の現状については、既に様々な意見が発表されているため、ここでの記述は割愛するが、郊外の動向については注目する必要がある。
 現在、山梨県内で最も勢いのある地域は昭和町イオンモール周辺であることは周知の通りであるが、甲府市内で最も発展傾向が顕著なのは東部市街化調整区域の下図赤線枠内である。

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 まず、当該エリアでは、国道20号線甲府バイパス、和戸通り及び城東バイパスといった幹線道路沿いに商業集積が進んでおり、最近でもケイヨーデイツー甲府向町店、ヤマダ電機テックランドNew甲府店といった大型店舗がオープンしている。
 宅地開発については、南部市街化調整区域の「あさひリニアタウン」(全170区画)が注目を集めているが、東部市街化調整区域内でも上図青線枠内で大規模な宅地開発が行われている。一団の分譲地を複数の開発業者に分けて開発が進められているため、その規模が話題に上ることは少ないが、概ね「あさひリニアタウン」(全170区画)と同規模程度であると推測される。販売価格は、東部市街化調整区域の方がやや高く設定されており、売れ筋は画地規模70坪程度で総額1,000万円前後(坪単価14万円前後)となっている。この水準は、中心市街地周辺の宅地相場が坪16~17万円程度であることを考えれば、割安感のある価格水準と言える。
 甲府市の中にも発展傾向にある地域が存在することは、喜ばしいことではあるが、問題はそれが中心市街地ではなく、市街化調整区域であることだ。このため、次節では何故、市街化調整区域が発展していくのかについて考察してみたい。

4.市街化調整区域が発展していく理由についての私見

 本来、土地の利用形態については、都市計画法により制限が加えられており、土地所有者が自由に利用形態を決定できる訳ではない。甲府市は、中央市及び昭和町と共に甲府都市計画区域に属しており、平野部を中心に土地の有効利用度の高い地域が都市計画区域に指定されている。そして、この都市計画区域は、優先的かつ計画的に市街化を促進すべき市街化区域と市街化を抑制すべき市街化調整区域に線引きされている。即ち、甲府市においては、市街化を抑制すべき市街化調整区域が発展傾向にあるという矛盾が生じていることになる。この矛盾が生じる原因は、複数の要因が複雑に絡むものであるが、不動産市場から見た要因は次の通りである。

(1)不動産市場の特性

 中心市街地の土地は細分化され、かつ権利関係が錯綜している場合もあり、社会的なニーズの変化に対応して敷地を統合して土地を効率的かつ機能的に利用することは困難である。さらに、国土調査が進んでいないため、隣接地との境界が曖昧であったり、地積(面積)が不正確であることもこの傾向に拍車をかけている。

(2)行政的要因

 市街化調整区域は、本来、市街化を抑制すべき地域であり、同じ甲府都市計画区域に属する中央市や昭和町では厳しい開発規制が行われている。これに対して甲府市では、2001年策定の都市計画マスタープランにおいて市街化調整区域の宅地化促進を盛り込んだ結果、開発規制が著しく緩和されている。2008年に都市計画マスタープランが変更され、「コンパクトシティ」を目指すことになった後も、開発規制は緩和されたままであるため、甲府市内の市街化調整区域は大規模開発が行いやすい地域となっている。

(3)需要者の選好性

 住宅の需要者については、戸建需要とマンション需要の2つの選好性があり、甲府市は戸建需要の強い地域と言える。中心市街地で供給されるマンションは、3LDKファミリータイプ(床面積80㎡程度)が主流となっているため、富裕層にとってはやや貧弱であり、構成員4人以上の家族にとっては手狭である。さらに、駐車場に関する不満もある。このため、こうした需要者にとって、郊外の分譲戸建住宅は依然として魅力的な選択肢となっている。

5.まとめ

ここまで、甲府市のコンパクトシティ構想に批判的とも思える記述をしてきたが、基本的に私はこのコンパクトシティ構想には賛成である。人口減少・超高齢化社会の到来を考えると、拡散型の都市構造では住民自身がインフラ整備や維持管理コストを負担しきれなくなるからだ。そこで、稚拙ではあるが、中心市街地活性化に関する私なりの提言をもって本稿のまとめとしたい。

(1)税制面での優遇措置

 郊外のインフラ整備等に要するコストは、郊外の住民が負担するのが本筋であるが、郊外住民の固定資産税・都市計画税を引き上げることは困難であろう。そこで、中心市街地住民の固定資産税・都市計画税に優遇税率を適用することを検討すべきである。購入費補助による一時的な助成に加えて、中長期的な優遇策を実施することでまちなか居住の促進が期待される。

(2)公共料金の割引

 住宅地域が郊外に拡散していくと、それにつれて行政コストも増大する。山城小学校が拡張を余儀なくされたのは、その典型的な例と言えるであろう。これに対して中心市街地では、既存のインフラを効率的に活用することができる。そこで、中心市街地の居住者に対して上下水道料金等の公共料金の割引を実施するのも有効な施策と考える。

(3)開発規制の強化

 緩和された現在の開発規制を、中央市や昭和町並みの開発規制に戻すべきである。市街化調整区域の開発に一定の歯止めをかけない限り、中心市街地活性化への道のりは遠のくばかりである。