森を歩こう
毎日新聞No.412【平成26年5月30日発行】
万緑の季節、山道を歩くのは気持ち良い。心地よくひんやりとして適度な湿度の中、木々の生命力を感じることができる。自分のペースでゆっくりと、時々岩の上に腰を下ろして大きく深呼吸でもしてみる。身体全体がリフレッシュする感覚に包まれる。
先日甲府市北部、千代田湖畔の県立武田の杜保健休養林(健康の森エリア)が、森林セラピー基地としてグランドオープンした。森林セラピーとは、1982年に林野庁から提唱された森林浴構想を始まりとした、森林が身体に与える影響を科学的に計測・評価し、心身の健康維持・増進、疾病の予防を目的とした森林内での保養活動を言う。
独立行政法人森林総合研究所が都内大手企業に勤める37-55才の12名の男性を被験者として行った実験では、3日間の森林浴によりNK細胞(がん細胞やウイルス感染細胞などを攻撃するリンパ球。人体の自然免疫に重要な役割を担うと考えられている)数が増加し、同時に細胞内にある抗がんタンパク質(パーフォリン・グランザイム等)も増加することが明らかとなった。NK活性が高まれば、生体の抗がん能力も高まると考えられている。これらの効果の要因のひとつとしてフィトンチッドがあり、針葉樹林帯のαピネン、広葉樹林帯のイソプレンが代表的なものである。フィトンチッドは有害な微生物や昆虫からの自己防御手段として植物自体が発散しているものであるが、人体にとっては有効に機能し、神経系、内分泌系、免疫系のトライアングル機能を高めていると思われる。
現在全国で57か所の森林がセラピー基地として認定を受けており、本県においては武田の杜と山梨市の西沢渓谷が認定を受けている。それぞれの基地では、森林セラピスト(資格検定試験合格者)が森の中の地形を利用した歩行や運動、レクリエーション、休息等のプログラムを提供し、同時に森林ガイドも行うシステムになっている。本県は「森の国」でもある。すばらしい地域資源を県内外広く認知してもらい、大いに活用して欲しいと願う。
ちなみにフィトンチッドの放出は6-8月に最盛期を迎える。αピネンは夕方から深夜にかけて、イソプレンは日中。早朝に針葉樹、夕方に広葉樹の森の散策をお薦めする。
(山梨総合研究所 主任研究員 末木 淳)