Vol.192-1 山梨の景観における屋外広告物のこれからについて


【株式会社サンニチ印刷 サイングラフィックス部長 萩原幸人】

1.屋外広告物とは

 屋外広告物とは、屋外の公共空間において継続して表示される看板等のことで、店舗看板、壁面・屋上看板、はり紙、のぼり旗等その範囲は広い。広告や店舗看板といった営利的なものだけではなく、公共施設の案内看板等の非営利的なものであっても、屋外広告物として位置づけられている。
 屋外広告物は時代とともに変貌し、新素材の開発や技術の進歩により、様々な色や形で街に溢れている。視認性が高いメディアとして、その役割は大きいが、一方で景観の阻害要因として問題提起されるケースも多い。

2.山梨県における屋外広告物の現状

 屋外広告物は山梨県屋外広告物条例(平成3年全部改正)によって、高さ及び面積、色彩等の設置基準が定められており、面積によって定期的な許可申請と申請手数料が必要となる。しかし、従来は施行における実効性が伴わず、条例に反した屋外広告物を散見するのが現状であった。
 平成16年に景観法が施行され、地域にあった良好な景観形成を図ることとなり、平成24年に山梨県屋外広告物条例も改正され、新たな基準の見直しが行われた。現在、県及び県からの許可手続業務の事務移譲を受けた9市町村では屋外広告物の設置等に関する指導強化が積極的に行われているが、案件毎に施主及び事業者からの理解を得るには大変な苦労を伴うと思われる。また、新たに設置される条例に則さない屋外広告物への対応等も含めると条例を遵守した「良好な景観形成を図る」には多大な時間を要するだろう。

3.屋外広告物への取り組みについて

地域特性にあった基準づくりのために

 今回の条例改正では「特別に規制の強化・緩和を行うことができる制度の導入」(第7条の2、第7条の3)として、次の2地区の区分けが盛り込まれた。

■景観保全型広告規制地区
(良好な景観を保全するため、広告物に対する規制及び統制が特に必要と認められる地区)

■広告物活用地区
(広告物を積極的に活用する必要があると認められる地区)

 この改正で、地域特性にあった規制の強化並びに緩和が可能となり、従来の条例では困難であった地域の特性を考慮したメリハリのある基準づくりが可能となった。今後は更に県から市町村へ屋外広告物の許可手続業務の事務移譲が進み、市町村の役割がますます重要になってくると思われる。一方、県も広域的な視点から、景観を守るために、より一層配慮が必要な地区、商業活性化地域として屋外広告物の積極的活用が求められている地区等、それぞれの現状調査・検討を行う必要がある。特に幹線道路沿いの屋外広告物は全国にチェーン展開している企業によるものが多いため、県が主体となって方針を示すことが重要であり、そのような県の市町村に対する積極的な後押しがなければ改正条例の実効性が弱まってしまうことも懸念される。

4.眺望保全のため商業地区沿道の街路樹の低木化

 県は世界文化遺産登録により富士山眺望の保全地区として、富士山北麓地域の幹線道路沿いに屋外広告物の規制を強化する地区を定め、次のような基準を打ち出した。

使用可能色数:3色    屋上広告物:設置不可
高さ5m以内 (現条例10m~15m)
表示面積4㎡以内(現条例10㎡~60㎡)
既存看板(許可済):現状ママ

 眺望保全のためには対象物に対する視界を確保する必要がある。しかし幹線道路沿いには、街路樹、電柱・電線、街灯などの視界を遮るものが多いために、現状では屋外広告物はでき得る限り高い位置に大きな広告を設置することになってしまう。今、屋外広告物だけに「低さと小ささ」を求める厳しい規制を加えることは、広告にとって最も重要である視認性の低下を招き、メディアとしての機能を失いかねない。
 景観は様々な要素が関連して成り立っており、こういった場合には街路樹の低木化、電柱・電線の埋設化等にも同時に取り組む必要性を感じる。規制区域内の幹線道路沿いにも商業地域があり、屋外広告物の役割は大きい。それらの地域において基準遵守を求めるならば、少なくとも街路樹の低木化を同時に行い、屋外広告物としての機能を保全する取り組みを検討すべきである。また、今回の新基準では、「既存の看板については現状ママ」という方針が示されている。高さ15mの既存看板が存在している中で、新規設置については5m以内といった、新基準による規制は施主及び事業者からの理解を得るのは非常に困難である。既存看板についても移行期限を設け、新基準への対応を求めるべきである。

5.景観シミュレーションを活用した整備計画

 現在では、PCを利用して対象地域の景観シミュレーションを容易に行なうことができる。実際の写真を用いることにより、様々な要因が関連して、その地の景観を構成していることがよく分かる。下の写真1、2はその好例である。現状から高木の撤去及び電線・電柱の埋設化により景観は一変し、広告物は低く抑えても十分な視認性を確保している。
 このようなシミュレーションを行なうことにより、構成要素の関連性が明確になり、対策をより具体的に示すことができる。これを用いてそれぞれの要因についての総合的な整備スケジュールを示し、その上で基準を決めることを提案する。

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写真1:現状写真写真2:シミュレーション画像

6.行政と事業者との連携

 当社も所属する「山梨県広告美術業協同組合」(県内看板製作会社30社で構成)では平成21年から、「山梨県における屋外広告物のあるべき姿」について研究を進めている。県の推薦をいただき国土交通省「住まい・まちづくり担い手事業」の認定を受け3年間の活動を行ってきた。

主な事業内容は以下の通りである。

  • 地域の現状と把握(甲府市内 3地域)
  • 地域特性を見つめ直す住民ワークショップの実施(甲府市 3地域)
  • 屋外広告物研究会の開催(行政担当者とのワークショップ)
  • 危険屋外広告物の調査・研究(調査票作成と活用検討)
  • 屋外広告物フォーラムの開催(3回実施)
  • 屋外広告物ハンドブックの作成(屋外広告物についての簡単な解説書)
  • 先進事例の視察(小田原市へ視察・講習)

 この事業の中で、「屋外広告物研究会」として行政(県・市町村担当者)とのワークショップや先進地視察を行い、屋外広告物の問題点を共通認識し、互いの考え方への理解を深めることができた。しかし、その後の行政担当者の人事異動等により、現在は残念ながら協議は行なわれていない。
 事業者としては、行政に違法看板に対する徹底した指導を求めたい。条例を遵守している施主及び事業者が不利益とならない環境を切に望んでいる。施主のニーズや現場の状況を把握している事業者と基準遵守を推進する行政が連携し、互いの問題を認識することは必要不可欠である。

7.まとめ

 景観はそこに暮らす人の心を表しているといわれる。今後、人々の中で「空間の公共性」の意識が高まり、街の姿はより良く変わっていくと思われる。
 屋外広告物を製作している私たちは、素材・デザイン・機能を追求し、お客様にとって効果のある看板の製作・施工に携わってきたが、これからは環境や周辺との調和についても考える必要があり、景観を構成している大きな要因を担っている意識を高く持たなければならないと感じている。これからも山梨県の景観における屋外広告物のあり方について研究を重ね、美しい街づくりに努めていく所存である。