Vol.192-2 キャラクターを導入した農産物の販売拡大への取り組み


公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 千野 正章

概要

 農産物の消費量が減少しつつある中、農産物の販売量の確保や新たな販路拡大は重要な課題である。農産物の販売にキャラクターパッケージを用いて新たな顧客獲得に成功している例もある。
 本稿は、キャラクターの導入によって農産物の販売拡大の効果を知るため、モモ・ブドウなどの農産物の販売実験調査を行った結果を取りまとめたものである。
 県内5農業法人と(公財)山梨総合研究所が共同して、東京や神奈川等の都市部で消費者に対するヒアリング調査を行った。その結果、キャラクター導入により、一定の販売促進効果は認められたものの、より詳しい調査が必要と考えられる。今後、キャラクターは農業法人等によって導入されていくことが期待される。

1.山梨県の農業生産

1-1モモ

 平成24年度の全国のモモ栽培面積10,700ha、生産量は135,200tであり、山梨県のモモ栽培面積は3,510ha、生産量44,800tで、栽培面積・生産量とも全国の30%以上となっていて、全国第一位である(山梨県ウェブサイトより)。
 また、山梨県の平成24年山梨県農業及び水産業生産額実績90,806百万円のうち、果樹生産額は50,239百万円と全体の55.3%を占め、果樹の中でもモモの生産額はブドウに次いで2位の17,215百万円で、農業生産額の19.0%を占める。山梨県農業にとって非常に重要な作目である。
 モモは甲州八珍果の一つであり、古くから県内で栽培されていたが、戦後養蚕からの切り替えの際に、気象条件がモモ栽培に適合すること、必要な栽培技術が確立されたこと、県・農業団体・生産者が一体となって優良品種への改植ができたことなどから、昭和41年に生産量日本一になって以来、今日までモモ生産への振興が図られている。
 品種としては、ちよひめ、日川白鳳、夢しずく、白鳳、浅間白桃、川中島白桃などが導入されている。

1-2ブドウ

 平成24年度の全国のブドウ栽培面積は18,600ha、生産量は198,300tであり、山梨県のブドウ栽培面積は4,210ha、生産量は48,700tで、栽培面積・生産量とも全国の20%以上となっていて、全国第一位である(山梨県ウェブサイトより)。
 また、ブドウの生産額は果樹の中で1位の23,638百万円で、農業生産額の26.0%を占める。山梨県農業にとって非常に重要な作目である。
 ブドウも甲州八珍果の一つであり、盆地特有の雨が少なく昼夜の温暖差が大きい山梨の気候に適するため、古くから勝沼等で栽培されていた。栽培の歴史は800年とも1200年とも言われている。古くからの栽培の歴史に加え、明治期に近代的なブドウ棚が開発されたことから、山梨県におけるブドウ栽培は急速に広がり、今日まで日本のブドウ栽培の中で頂点にある。
 昭和25年農林水産省が統計調査の結果を公表してから、山梨県は栽培面積・生産量とも日本一となっている。
 県内の栽培品種は、デラウェア、キングデラ、サニールージュ、紫玉、藤稔、巨峰、ピオーネ、ネオ・マスカット、ゴルビー、ロザリオ・ビアンコ、甲州等が導入されている。

1-3野菜類

 平成24年度の全国の野菜栽培面積は488,400ha、生産量は13,799,000tであり、山梨県の野菜栽培面積は3,129ha、生産量は61,568tで、生産量ベースで全国の0.4%程度である(農林水産省作物統計)。
 また、山梨県の農業生産額90,806百万円のうち、野菜の生産額は11,462百万円で、全体の12.6%を占める。果樹と比較すると生産額は低いが、峡中や峡北地域では重要品目である(平成24年山梨県農業及び水産業生産額実績)。
 品目としては、スイートコーン、ナス、トマト、キュウリの順で多く、その他イチゴ、ホウレンソウ、ネギ等多くの品目が栽培されている。
 トマト、キュウリ等の施設園芸は減少傾向にあるが、北杜市を中心として有機的な栽培を行う農業者が増えている。そうした農業者が生産することが多いニンニクとタマネギについては、県内の生産額は133百万円となっている。ニンニクについては、県内での生産についてのデータはないが、全国では2,240ha生産されている(農林水産省統計情報)。 

1-4イチゴ

 平成24年度の全国のイチゴ栽培面積は5,720ha、生産量は163,200tである。一方、山梨県のイチゴ栽培面積は16ha、生産量は323tであり、生産量ベースで全国の0.2%程度である(農林水産省作物統計)。
 また、山梨県の農業生産額90,806百万円のうち、イチゴの生産額は366百万円で、全体の約0.4%を占める(平成24年山梨県農業及び水産業生産額実績)。
 果樹と比較すると生産額は低く、野菜の中でもマイナーな作目ではあるが、甲府市や山梨市に観光イチゴ園の団地が形成され、冬場の観光スポットとして人気を集めている。
 また、イチゴの栽培は、果樹栽培との労力分散が可能であり、果樹農家の冬場の経営品目として導入される例が増えている。
 イチゴの栽培は、秋に苗の植え付けを行い、ビニールで被覆し、保温することで冬季にイチゴの収穫を行う。そのため、イチゴ栽培にはビニールハウスといった設備投資が必要である。近年、土耕栽培に加えて、生育をコントロールしやすい水耕栽培の導入も増えているが、水耕栽培の場合はビニールハウスに加えて、水耕栽培ユニットを導入する必要があり、設備投資額はさらに増えるため、導入時には慎重な検討が必要である。

1-5コメ

 平成25年度の全国の水稲栽培面積は1,597,000ha、生産量は8,466,000tであり、山梨県の水稲栽培面積は5,260ha、生産量は28,800tで、面積・生産量とも全国の0.3%程度である(農林水産省作物統計)。
また、農業生産額90,806百万円のうち、水稲の生産額は7,380百万円で、全体の8.1%を占める。果樹と比較すると生産額は低いが、峡北地域では重要品目である(平成24年山梨県農業及び水産業生産額実績)。
 栽培されている水稲の品種としては、コシヒカリが約70%と圧倒的なシェアを占め、次いであさひの夢、ひとめぼれ、農林48号、ヒノヒカリとなっている(山梨県農政部調査)。

2.農産物の消費量と販路拡大

2-1農産物の消費

 農林水産省「果樹をめぐる情勢(H26.3)」によれば、果実全般の摂取量は、平成22年~24の平均で104.8g/人・日と10年前の124.6g/人・日より大きく減少している(図1)。

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図1 果実摂取量(農林水産省:「果樹をめぐる情勢(H26.3)」より引用)

 農林水産省「野菜の消費をめぐる状況について(H25.1)」によれば、野菜の摂取量は、平成23年には91kg/人・年であり年々減少している(図2)

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図2 野菜の年間摂取量

(農林水産省:野菜の消費をめぐる状況について(H25.1)より引用)

2-2新しい販路拡大への取り組み

 果樹においても、野菜においても消費量が減少しつつある中、販売量を確保していくためには既存の販路を維持しつつ、新しい販路を開拓していかなくてはならない。
 農産物の販売量の拡大や有利な条件での販売に取り組むに当たり、大規模取引と小規模取引とで手法が異なるため、それぞれ分けて考えていく必要がある。
 大規模取引における取引量の拡大や取引価格の向上については、産地全体で減農薬等の栽培方法の統一や、高品質化など中長期的な視点から戦略を持って進めていく必要がある。
 地域全体でフェロモントラップ[1]を導入して減農薬栽培に取り組むJAフルーツ山梨の事例が参考となる。
 小規模取引の拡大については、取り組みやすく様々な工夫の余地がある。特に「パッケージ」については、様々な工夫が見られるが、特に注目すべきは、コメ販売においてキャラクターパッケージの導入によって新しい顧客の開拓に成功している事例であろう。
 例えば、ターゲットとして「日頃米を食べない人」を想定し、成功を収めているのは、秋田県羽後町のJAうごが展開している「萌え米」の取り組みである(図3)。パッケージを美少女のイラストにすることで、20~40代の男性が米を買うようになり、年間50~100tが販売されている。また、山梨県内でもJAフルーツ山梨がテレビアニメとコラボレーションし、ブドウの販売拡大に成功している事例がある(図4)。

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図3 JAうごの美少女米

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図4  JAフルーツ山梨とテレビアニメのコラボレーション(JAフルーツ山梨HPより)

3.実験方法

 販売実験に当たって、まず各作目をその地域に縁のあるデザイナーにキャラクター化してもらい、カードやラベルを作成した。それらのキャラクターカード・ラベル付き農産物を都市部のマルシェで販売し、販売時に購入者に対して対面式聞き取りによりアンケート調査を行った(表1、図5~9)。

表1 販売実験におけるキャラクター化手法および協力デザイナー一覧

作目キャラクター化手法デザイナーイベント概要およびアンケート
モモ「モモ」をキャラクター化して、カードを作成し、カード付き農産物とする。カード裏面にモモの栽培過程を記載した。甲州市在住 ha-ru氏平成25年8月29日に新宿駅西口で開催された「甲斐の国マルシェ」において、カード有無毎に農産物を用意し、購入もしくは購入を検討した消費者に対して対面式聞き取りアンケート調査を実施
ブドウ「ブドウ(巨峰、ピオーネ)」をキャラクター化して、カードを作成し、カード付き農産物とする。甲州市在住 ha-ru氏平成25年9月29日(日)に新宿区で開催された「歌舞伎町農山村ふれあい市場」において、カード有無毎に農産物を用意し、購入もしくは購入を検討した消費者に対してアンケート調査を実施
野菜類(ニンニク、タマネギ)「ニンニク」、「タマネギ」をキャラクター化して、カードを作成し、カード付き農産物とする。北杜市農業法人での農作業経験を持つ「森基書(もりもとふみ)」氏平成25年11月24日に中目黒で開催された「中目黒村マルシェ」において、カード有無毎に農産物を用意し、購入もしくは購入を検討した消費者に対してアンケート調査を実施
イチゴ「イチゴ」をキャラクター化して、カードを作成し、カード付き農産物とする。甲州市在住 ha-ru氏平成26年3月29日、30日にパシフィコ横浜で開催された「SATOYAMA&SATOUMIへ行こう2014」において、キャラクターカード付き商品と通常の商品とを並べ、購入もしくは購入を検討した消費者に対して聞き取り調査を実施
コメ「生産者」をキャラクター化して、キャラクターラベルとしてパッケージに印刷する。甲府市在住YANAMi氏平成26年3月29日、30日にパシフィコ横浜で開催された「SATOYAMA&SATOUMIへ行こう2014」において、キャラクターパッケージ商品と通常の商品とを並べ、購入もしくは購入を検討した消費者に対してアンケート調査を実施
共通キャラクターのぼり作成  
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図5 モモのキャラクターカードと販売実験の様子
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図6 ブドウのキャラクターカードと販売実験の様子
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図7 野菜のキャラクターカードと販売実験の様子
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図8 イチゴのキャラクターカードと販売実験の様子
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図9 キャラクターラベルを付けたコメと販売実験の様子

4.結果

4-1モモ

 アンケート結果から、キャラクターカードの導入によりモモに付加価値が付くとした者は全体の23.8%であった(表2)。また、普段モモを食べない者がキャラクター導入によりモモの購入につながっており、全体の4.7%が普段モモを食べないが、キャラクターカードがあったことで購入した(表3)。

4-2ぶどう

 アンケート結果から、キャラクターカードの導入によりブドウに付加価値が付くとした者は全体の27.1%であった(表2)。また、普段ブドウを食べない者がキャラクター導入によりブドウの購入につながっており、全体の9.3%がキャラクター導入により購入した(表3)。

4-3野菜類

 アンケート結果から、キャラクターカードの導入によりニンニク・タマネギに付加価値が付くとした者はそれぞれ全体の4.3、6.5%であった(表2)。また、普段ニンニク・タマネギを食べない者がキャラクター導入によりニンニク・タマネギの購入につながっており、ニンニクは全体の8.7%、タマネギは全体の4.3%が普段ニンニク・タマネギを食べないが、キャラクターカードがあったことで購入した(表3)。

4-4イチゴ

 アンケート結果から、キャラクターカードの導入によりイチゴに付加価値が付くとした者は全体の33.3%であった(表2)。また、普段イチゴを食べない者がキャラクター導入によりイチゴの購入しており、全体の7.4%が普段イチゴを食べないがキャラクター導入により購入した(表3)。

4-5コメ

 アンケート結果から、キャラクターラベルの導入によりおコメに付加価値が付くとした者は全体の29.6%であった(表2)。また、普段コメを食べない者がキャラクター導入によりコメの購入につながっており、全体の11.1%がキャラクター導入により購入した(表3)。

表2 キャラクター導入により農産物に付加価値を見出す者の割合

作目すべての購入者A  うちカード付きの対象農産物を購入した者Bうちカードがあったから購入した者Cうちカードに対して付加価値を見出す者D合計 (A×B×C×D)
モモ (n=43)100%62.8%73.1%51.8%23.8%
ブドウ (n=53)100%81.1%58.1%57.6%27.1%
ニンニク (n=46)100%30.4%35.7%40.0%4.3%
タマネギ (n=46)100%21.7%40.0%75.0%6.5%
イチゴ (n=27)100%88.9%66.7%56.2%33.3%
コメ (n=27)100%55.6%73.3%72.7%29.6%

表3  普段対象農産物を食べない者に対するキャラクター導入の効果

作目すべての購入者Aうち普段対象農産物を食べない者Bうちカード付きの対象農産物を購入した者Cうちカードがあったから購入した者D合計 (A×B×C×D)
モモ (n=43)100%9.3%75%66.7%4.7%
ブドウ (n=53)100%9.3%100%100%9.3%
ニンニク (n=46)100%10.9%100%80%8.7%
タマネギ (n=46)100%4.3%100%100%4.3%
イチゴ (n=27)100%11.1%100%66.7%7.4%
コメ (n=27)100%11.1%100%100%11.1%

5.考察

 今回の販売実験に際して、カードやノボリの作成費は以下の表4の通りであった。カードは作成するロットにより単価が大きく異なる。実験ではカード1,500枚、ノボリ2枚、デザイン費40,000円×2点として作成した。

表4 キャラクター導入に要した経費

項目ロット (枚)単価(円)合計(円)備考
カード10014014,000
1,50033.550,250モモ、ブドウ、ニンニク、タマネギ、イチゴで作成
10,00024240,000
100,0005.5550,000
シール50019296,000コメで作成
米袋印刷6,000425,000参考
ノボリ24,5009,000すべての作目で作成
302,34070,200
デザイン費120,000~ 50,000実験では40,000円

 こうしたコストに対して、いずれの作目でもキャラクターの導入により付加価値を見出す者がおり、普段その作目を食べない者が購入行動を行っていることが示された。
 青木貞茂氏は「キャラクター・パワー」(NHK出版新書)の中で、日本人のアミニズムとキャラクターは深く結びついていることを指摘しており、今回の例では、農産物と消費者をつなぐインターフェイスとして有用であることが示された。
 このような取り組みは、組織の大きいJA単位や行政機関が導入していくのは、当初は困難である。まずは、個人農家や農業法人が試験的に導入しながら、効果測定を行っていくことが必要である。
 なお、山梨県内には、農業生産法人は122法人存在する(表5、山梨県ポケット統計)ため、そういった農業法人での活用が期待される。効果測定については、統計処理に耐えうるサンプル数を確保していくことが必要である。
 今後、このような活動の導入事例が増えることで、面的な広がりにより知名度が向上するとともに、JAうごのようにコンテンツツーリズム[2]等への発展が期待できるだろう(図10、表6)。

表5 農業生産法人の推移

年度平成20年度平成21年度平成22年度平成23年度
農業生産法人数6366105122

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図10 JAうごにおける美少女米パッケージファンの稲刈りツアー

表6 今後の広がり

項目内容キャラクター 導入戦略
キャラクターの面的な広がりキャラクター導入事例の増加により、キャラクター同士のコラボ等、面的な活動への発展により知名度向上が期待できる。諏訪市のPMOAの事例が参考となる。 行政との連携、地域ビジネスとの連携、PR活動などを戦略的に行っている。
コンテンツツーリズムへの発展面的に広がることで、ワインツーリズムのように消費者が産地を巡回するコンテンツツーリズムへの発展が期待される。

[1] 合成された性フェロモンを誘引源とし、害虫を捕獲したり、繁殖を阻害する罠のこと。

[2] 地域に「映画や小説等のコンテンツを通じて醸成された地域固有のイメージ」としての「物語性」「テーマ性」を付加し、その物語性を観光資源として活用すること。近年地域活性化手法に多く用いられる。