碑(いしぶみ)に想う


毎日新聞No.419【平成26年9月19日発行】

 この夏、地元自治体関係者との研究会の為に大菩薩峠の麓にお邪魔した。かつては神金、玉宮、大藤といった村々があった地域で、甲州切妻の民家や石造物が点在する様子は、当地の歴史の深さを感じさせるものであった。
 道中には先人の遺業を称える顕彰碑もあった。産業の振興や、道路の改修・・・、どれも現在の当地を形作る過程に於いては欠かせなかったものである。このような先人の努力は、県内至る所で為されてきたであろう。こうして、新しい建物やサービスが次々と出てくる事によって生活が改善し、便利になる事で進歩を感じてきた面が多分にある。

 現在、「人口減少」といった話題が流布されている。これまで人口や施設が増加してきたものが減少に転じる事になる。将来的にはこれまで地域の発展を体現してきた公共の道路や橋、水道といった構造物(インフラ)や建物(公共施設)も縮減することになる。
 国では「公共施設等総合管理計画」の策定を自治体に要請している。これは、過去に建設された公共施設等が、厳しい財政状況の下で大量に造り替えの時期を迎える事と、人口減少・少子化等により今後の公共施設等の使われ方が変わってくる、という見通しに立ち、公共施設・構造物を、築造から管理に至るまでの費用を極力抑えながらの造り替えや、そのタイミングでの統廃合などを、スケジュールを区切って取り組もうとする計画である。
 とはいえ、紋切型に廃止・取壊しを進めるのではなく、取り組みの先に「地域がどうやって生活の場として続いていくか」を見ることが必要だ。たとえ「人口減少」であっても、何世代にもわたり人々が暮らし続けてきた佳き処を未来につなげる為に「だからどうする」を考える事は、進歩であるに違いない。

 かの先人達は、自身の行動がより良い未来を創るとの一念で取り組んだはずだ。数世代経った後に「あの時の選択がなかったら今の暮らしがなかった」と振り返って評価されるような、取り組みを始める時である事は間違いない。今こそ、地域の明日を想い、新たな進歩へ向けて、住民、自治体はもとより、学術・建設・金融に代表される専門性のある主体が力を合わせ、「オール山梨」で踏み出す時である。

(山梨総合研究所 主任研究員 佐藤 史章)