有機農業の推進
毎日新聞No.420【平成26年9月19日発行】
スーパー等で野菜を買う時に「JAS」や「有機農産物」等の表記を見ることが増えてきたのではないだろうか。
農林水産省の「有機農業の推進に関する現状と課題」(H25.8)によれば、日本における有機農業の割合は全栽培面積の0.4%程度(H21)であり、有機JAS認証に限れば0.2%である(H23)。平成19年におけるJAS認証面積割合の0.1%と比較すれば増加しているものの、有機農業の面積が8.6%のイタリア(H23)や6.1%のドイツ(H23)等のEU加盟国や、面積が概ね1%前後の北米のアメリカ・カナダや東アジアを比べると、日本における有機農業の遅れがやや目立つ。
こうした中、農林水産省では「有機農業の推進に関する基本的な方針」(H19)を定め、平成30年までに有機農業の面積を倍増させることを目指している。これを受けて、八ヶ岳南麓を中心に有機農業が盛んな本県においても「山梨県有機農業推進計画」(H21.3)が策定されるとともに、消費者に支持を得る有機農業を目指して全国の有機農業者を集めた「やまなし発・有機の郷交流大会」を開催している。3年目となる今年も10月20日に大会が開催される。
消費者の理解を得ていくことについては、平成18年に制定された「有機農業の推進に関する法律」、同方針、県計画のいずれにおいても位置付けが行われおり、有機農業の推進には消費者の理解促進が必須であることが分かる。
しかし、同法等に位置付けられている有機農業の価値は「自然循環機能の増進」・「環境負荷低減」である一方で、消費者がもつ有機農業のイメージは「安全・安心」72%、「健康によい」53%、「環境によい」46%である(日本有機農業研究会報告書、H23.3)。
有機野菜の品質評価に関する既存の研究を取りまとめた報告(藤原、園学研、H18)等によれば、有機農産物と慣行栽培農産物では、栄養成分や食味等での違いが明確ではなく、安全性についても現状の多くの研究では差がないとされている。
つまり、現状では、消費者は有機農業に対して大きく誤解している可能性が高い。
今後、有機農業を推進するためには、まず消費者に有機農業についての正しい知識を周知し、明らかとなっている価値を共有していく仕組みを構築しなくてはならない。
その上で、環境保全等の面から有機農業特有の新たな価値や優位性を明らかにし、構築した仕組みの中で
消費者と価値観を共有しながら有機農業を推進していくことが望まれる。
(山梨総合研究所 主任研究員 千野 正章)