Vol.194-1 訪日外国人観光客の推移と現状


山岸旅館グループ代表取締役 VISIT JAPAN大使 外川 凱昭

◆決断する

 私は現在、1917年(大正6年)創業の山岸旅館と系列(姉妹)旅館として河口湖畔に「富ノ湖ホテル」、鳴沢村青木ヶ原樹海に「じらごんの富士の館」「じらごんの森の館」の2館、および島根県出雲市大社町日御碕に「出雲ひのみさきの宿ふじ」の合わせて5店舗の旅館・ホテルを経営しております。その内の2店舗はアジア圏の外国人観光客をターゲットにした営業を行っています。富ノ湖ホテルは河口湖の北岸、富士山と湖のビューポイントに位置しています。計画時の1998年において、新たな宿泊施設を建設するとなると、旅館・ホテルの建ち並ぶ地域に同じようなものを建て、長引く不況や少子高齢化の中、競争社会に打ち勝てるのか大きな不安を持っていました。
 当時の河口湖周辺における外国人観光客の状況は首都圏観光の一環として、アジア各国からの外国人観光客が少数いましたが、一年を通じて受入れる施設はなく、他地域での宿泊を余儀なくされていました。非常に大きな決断でしたが、来訪者数は増加傾向にあることから外国人観光客をメインターゲットにした富ノ湖ホテルを2002年に開業致しました。アジアからの外国人観光客は旅館に興味をもっているものの、料金や食事、また和室での宿泊に抵抗を持つ方も多くおりました。開業にあたり快適で安心、安全に利用できる体制と宿泊料金を意識した対応の構築、また画一的なハード、ソフトの提供により、よりメリハリのある効率の良い営業を目指しました。

◆追い風を受け

 富ノ湖ホテルは開業より順調に推移し、(※別表添付)台湾、香港、韓国、中国、東南アジア中心に、外国人比率は90%に近くに達しました。開業2年目の2003年(平成15年)、小泉内閣における「ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)」計画(2010年(平成22年)に外国人観光客を1.000万人にする計画)は大きな追い風となり、また2005年(平成17年)に開催された愛知万博を機に中国全土にビザが発給されたことで一気に需要は増え、高い稼働率を維持し繁忙期には数多くの予約を断らなければならない状況となりました。
 このような状況下、さらに目覚ましい経済発展の続く中国からの需要を見据えて2007年(平成19年)4月に富士の樹海に囲まれた緑豊かな鳴沢村に「じらごんの富士の館」を開業。翌年2月には自然保護の観点から、敷地内のテニスコート跡地等を活用し、森林伐採することなく新棟を増築し、客室を27室から108室へと大幅に増やしました。メインターゲットは富士山観光を目的とした外国人観光客。そのため富ノ湖ホテル同様、客室は101室が洋室、家族、グループ利用のために7室を和洋室としました。「自然との調和と共生」をテーマに滞在型リゾートホテルとして国内で昨今高まりを見せるエコツアーや農業体験ツアー等の体験型ツアーの需要にも対応しました。
 2008年9月のリーマンショックによる円高や2009年春に流行した新型インフルエンザなど集客に大きな影響を与える問題も起きましたが経済発展が続く中国を中心としたアジア圏からの集客は衰えず、2010年には2店舗で11万名近くまで宿泊者数が増加しました。

◆東日本大震災・原発・尖閣問題

 ところが2011年3月11日の東日本大震災と原発問題で外国人観光客は震災以降、すべてがキャンセルとなり2ヶ月余りの休業を強いられました。政府による早期の原発問題の安全宣言を切望しましたが、影響は長期に及び厳しい状況下での営業が続き、減少分を国内客で補う形を取りましたが需要は週末や繁忙期に限られるため、主力の外国人観光客の需要が回復しない限り安定した集客は図れず、宿泊客は前年比3割減の77.000名となり、開業以来の大きな落ち込みを経験しました。
 しかし回復は早く、翌2012年は原発問題に対しての不安が消え、再び訪日
旅行に対しての勢いが戻りました。中国は年初より順調に推移し、2010年並の実績を期待していましたが、9月11日の尖閣諸島の国による購入決定以降は中国人宿泊客のキャンセルが相次ぎ、9月だけで1.500名のキャンセルが発生しました。キャンセルは10月の1週目の国慶節の連休中も続き、2週目以降は全てがキャンセルとなりました。以降、訪日旅行の販売を行っている中国の旅行業者はなく、販売を再開するのは来春、桜のシーズンからではないかと言われていました。この時、国交間の問題で集客が左右される中国一国に依存するリスクを痛切に感じ、中国以外の国々にも積極的に販売をしました。例年中国の次には親日的な台湾、香港の順でしたが、タイが好調で、12.263名と初めて1万人を超え、中国に次ぐ実績を残しました。またタイ以外の東南アジアの国々伸びもあり中国の落ち込みを埋める形となりました。

◆復活への手ごたえ

 昨年2013年は大きく実績を伸ばした年でした。宿泊者数は初めて11万人を超え112.969名となりました。円安や東南アジア諸国へのビザの免除と緩和、東京オリンピック開催決定が背景ありますが、当地においては富士山世界文化遺産登録が大きな押上げ要因となりました。河口湖の宿泊地としての知名度も上がり、アジア圏だけではなく欧米からの問い合わせも増加しました。国別では中国以外の全ての取引国で昨年を上回り、特にタイは7月に観光ビザが免除された事もあり、前年比7.914名増の21.923名と好調でした。一方、中国は2月の旧正月をさかいに徐々に動き始め、前期比で9.727名減の26.891名まで回復しました。
 今年は昨年に引き続き年初より順調に推移しています。予約問い合わせも非常に多く、満室で断るケースも数多くあります。宿泊者数は昨年の実績を上回り、開業以来の宿泊者数になりそうです。また世界遺産効果により観光バス利用の団体ツアー客に加え、世界各地から個人での宿泊利用が増加しています。この状況は2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催まで続くことが予測され、営業環境は大きく改善されています。昨年尖閣問題の影響で低調だった中国は7月の時点ですでに21.713名と昨年の実績に達しており、2010年の41.703名に迫る勢いを感じています。また、新たにベトナムからの観光客も加わり、これからの観光シーズンの需要は非常に活発に動いています。幅広く取引国を増やすことで安定したリスクの少ない営業を今後も目指していきたと考えています。

◆VISIT JAPAN大使として

 私は2008年ビジットジャパン観光大使に任命されました。ビジットジャパン観光大使は訪日外国人観光者数を2010年までに1.000万人にする目標達成に向けて、「外国人旅行者の受け入れ態勢に関する仕組みの構築」と「外国人に対する日本の魅力の発信」に積極的な努力を積み重ねてきたことに対し公的評価を付与し、より一層の推進を図るために任命されたものです。
 日本の都市環境や各地の豊かな自然環境、また歴史的な文化遺産や都市文化などの観光コンテンツの豊かさを考えれば、まだまだインバウンド事業は大きな伸び代があります。2003年に政府が掲げた「2010年までに1000万人」は昨年3年遅れで達成しました。また、今後は東京オリンピック・パラリンピック開催に絡めて日本について世界中でいろいろな報道がされ、日本への期待も高まってくるでしょう。今年に入り3月から5カ月連続で月間の訪日外客数が100万人を超え、7月までの累計で750万人を突破しました。政府の訪日プロモーションと、航空便の増便およびチャーター便就航による航空座席供給量の増加、大型クルーズ船の寄港などが、好調な伸びに繋がりました。中国からは11カ月連続で各月の過去最高を記録するとともに7月は台湾、韓国を上回り、最も訪日旅行者数の多い市場となりました。台湾、香港は18カ月連続で各月の過去最高を記録しています。東南アジア諸国は、前年同月にビザ免除が開始され大幅な伸びを示したタイ、マレーシアが好調な伸率を記録したほか、インドネシアも顕著な伸びを示しています。欧米豪市場も好調で、ほとんどの市場で前年比2桁の伸びとなっています。
 今後は東京オリンピック・パラリンピック開催までの6年間、需要の伸びにどのように対処し、いかにこの勢いを持続させるかが大切です。本年6月17日の観光立国推進閣僚会議で決定された「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」及び6月24日に閣議決定された「『日本再興戦略』改定2014―未来への挑戦―」においては、2020年に向けて、訪日外国人旅行者数2000万人を目指す方針が示されました。このために必要なことは受入体制の強化充実と、観光情報の適確かつ適切な発信、交通・宿泊等の観光インフラの整備が必要です。全国的なスクラムを組んで国を挙げて推進するべきであると考えています。大規模な宿泊施設を有する都市部では一定数の受入れが可能ですが、中小の受入れ施設しかない地方の観光地にとって海外からのリクエストに対して相当数を断らなければならない現実があります。今後、希望する宿泊地に泊まれるように受入れ窓口を広げる必要がありますが、希望地域に宿泊できない状況が続くと今後の誘客活動に支障が出てきます。増加する訪日外国人団体客に対処するには地方の観光宿泊施設の整備が急務と考えています。
 昨年(平成25年)6月富士山が日本の宝から世界の宝へ世界文化遺産に登録されました。これからは一層の自然保護と文化遺産の保護が重要になると思います。自然保護・文化遺産保護と経済活動のマッチングについて充分な調査・研究の必要性を感じています。
 少子高齢化により国内の旅行者数が減少する中、外国人観光客数を増やすことは経済政策としても非常に重要です。国内、特に山梨県では富士山の世界文化遺産登録、東京オリンピック・パラリンピック開催、中央リニア新幹線開通等と良好な環境にあります。「今がチャンス!!」を生かすべき時だと考えています。「地方創生」には観光が重要だと考えます。それはヒトの移動には必ずオカネの還流がつきものだからです。しかも観光収入は全て外貨です!!まずは外国人の皆さんが訪れやすい国にする事が必要です。まだまだ日本は外国人との交流については鎖国の国だと感じています。国の行政において縦社会の弊害があると思っています。国交省(観光庁)の立場と外務省、法務省の立場の違いが非常に目立っているように思えます。ビザの緩和拡大(公安的な意味合いがあって難しいと思うが)や公共交通料金の割引(例えばエリア別のフリーパスチケットなど)また地図や電車・バス等の時刻表は行政区分や鉄道会社別ではなく、広い意味での観光圏で作成するべきだと思います。(富士五湖の場合、箱根・伊豆とのつながりが多いためお客さまに不便をかけている)さらに外国人観光客の多くがスマートフォンを利用している今日、日本の公衆無線LAN環境の整備を急ぐべきだと思います。それにはホットスポットでのWi-Fi利用が最適だと思います。「日本滞在中の役立つ情報源」として観光客の利便性を高めるために現地におけるWi-Fi環境の整備は必須事項です。あわせて多国の貨幣が両替できる両替機の設置、カードでのキャッシングが出来る両替機等の設置を早急に整備する必要があります。(特に駅構内などには必要)あわせてNHK放送をBBCやCNNのような多言語による国際放送化して「日本」を世界にPRできたら良いと思います。
 富士山の世界文化遺産登録、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催決定、中央リニア新幹線の開通等、山梨は今、観光関連分野が飛躍するチャンスです。何らかの行動を起こすべき時です。首都圏に近く、環境の良さと保安上、警備上の良さもあるので富士山麓に国際会議場、コミュニティーセンターの建設を切に望みます。
 ところで東京で外国人観光客に人気なのが根津、千駄木、谷中だと聞きます。山梨にはまだまだ田舎の雰囲気が残った所が沢山あります。歴史のあるお寺や神社、商店街など「ディスカバー山梨」を強く打ち出すべきです。旅行の楽しみ、特に海外から来るお客様にはその国の人とのふれあいが大変印象に残ります。日本人の人情味と親切さは世界のどこの国にも劣りません。山梨が観光立県ならば県民上げて外国人観光客を歓迎する心掛けが必要だと思います。行政も先に立ち啓蒙活動、観光誘致活動についての広報を切にお願いします。
 最後に観光は『平和産業』です。外交問題で激減した中国人観光客は昨年夏頃から徐々に回復しています。しかも最近の中国ツアーは安価なものではなく、リピートが望める良質なツアーへと転換してきています。観光支出世界トップの中国から観光客をうまく取り込むことを追及する価値はあると考えるようになっています。東京オリンピック・パラリンピック開催が決まってから、日本の経済がようやく復活に向けて動き出したように感じます。経営環境が大きく改善される中、これからも日本の文化である旅館の「おもてなし」を大切に将来へ継承して行く事が課題だと考えています。加えて、数多くのお客様に富士山と湖の美しい景観を満喫して頂きたいと思っています。日本の観光が大いに注目されている今年は、国内の観光業が大きく飛躍しなければならない年だと考えています。