Vol.194-2 人口減少社会(2)


公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 進藤 聡

1 はじめに

 前回(1)で今後どのように人口が推移していくのか、そして少子化となった要因としてどのようなことが考えられるのかについて述べた。今回は日本創成会議が示した推計の考え方や、そこから考えられる対応策について考察を行う。

2 消滅可能性都市 ~日本創成会議による推計の考え方~

 5月に増田寛也元総務大臣(元岩手県知事)が座長を務める日本創成会議が「ストップ少子化・地方元気戦略」を発表した。そのなかで、出産を担っている20歳から30歳代の女性の人口「若年女性人口」に着目し、独自の推計を行い、若年女性人口が26年後の2040年に50%以下になる市町村を消滅可能性都市とした。
 図1は前回紹介した国立社会保障・人口問題研究所の推計と日本創成会議が行った推計を比較したものである。2010年から2040年にかけての増減比をみると、日本創成会議の方がより人口減少が進むような推計になっている。その理由として、国立社会保障・人口問題研究所は人口移動が2020年には現在の半分まで減少するという前提で推計したのに対して、日本創成会議は将来の人口移動の水準が現在と同じ水準で推移するとして推計しているため、このような結果となった。

図1 人口推計結果の比較(単位:人、%)

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各推計結果から山梨総研作成

 この増減比の違いをもたらしている人口移動と少子化の関係を、若年女性人口の増減率と合計特殊出生率の関係から示したのが図2である。横軸を2005年から2010年にかけての若年女性人口の増減率、縦軸を2010年の合計特殊出生率として都道府県別の分布状況を示している。
 その関係をみると、点線で囲まれている若年女性の増加率が高い都道府県では合計特殊出生率が低い傾向がみられる。一方、山梨県などの若年女性が減少している都道府県は相対的に合計特殊出生率が高い都道府県が多い。つまり、出生率の高い地域から、出生率の低い地域へと若年女性人口が流出してしまっているということであり、このような人口移動が将来も続けば、人口減少を一層加速させることとなる。その結果として、日本創成会議による推計は2040年の人口が全国で120万人、山梨県で2万6千人少なくなった。

図2 若年女性人口の増減率と合計特殊出生率の関係

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日本創成会議資料等から山梨総研作成

 県内の市町村については、唯一人口が増加する昭和町を含めた全ての市町村で若年女性人口は減少する。日本創成会議による推計の場合は16市町村が消滅可能性都市となっている。一方、甲府市、昭和町、富士河口湖町の3市町については、若年女性人口の流入がみられるため減少率は緩和されている。

図3 県内市町村の若年女性人口の増減率

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日本創成会議資料から山梨総研作成

3 人口減少社会への対応 ~これから目指すべき方向~

 このような認識のもと、日本創成会議の提言の中では、人口減少社会への対応のための基本目標を、

  • 第一の基本目標:「国民の『希望出生率』の実現」
  • 第二の基本目標:「地方から大都市へ若者が流出する『人の流れ』を変えること」

 として、整理を行っている。
 山梨県においても目指すべき方向については、上記の2つの基本目標の方向であると筆者は考えている。しかし、図2にあるように現在の状況は都道府県によって様々であり、どのような取り組みを進めていくべきかについてはそれぞれの状況に応じて考えていく必要がある。ここでは、山梨県においてどのような取り組みを進めていくべきかという点について、筆者としての考えを整理してみたい。
 まず、第二の基本目標である人の流れについて、どのような取り組みが考えられるのかについて考えてみる。図2の右側に位置する東京都や東京近郊の県などにおいては、第一の基本目標である出生率の向上への取り組みが重要となるが、若年女性人口が減少している本県においては、まず人の流れを変えていくことが重要となる。
 図4は、平成24年度に山梨総研が山梨県知事政策局と行った県民意識調査[1]において、定住人口の確保のため行政に求めることが何であるについての回答状況を示している。
 定住人口確保のために求めることとしては、「働く場の確保」が最も多く、79.9%を占めていた。医療や福祉サービスの充実が次いで44.5%となっている。この傾向は、性別や年齢によって大きな差異はなく、同じような回答となっている。
 当然のことではあるが、働く場所を確保するということが、定住人口の確保つまり若年女性人口の流出をとどめるためには必要となる。では、どのようにして働く場所を確保するかであるが、これは以下の3つの取り組みが考えられる。

 ひとつ目は、交流人口に着目した産業の育成である。定住人口の減少が避けられないのだとすると、居住者ではなく、交流人口をターゲットとした産業を育成する方法が考えられる。山梨県には富士山という世界的な観光資源もあり、人口の集積地である東京からも近いため、十分な潜在力を持っていると考えられる。徳島県の神山町でIT企業をターゲットに行っている取り組みも、小規模な町村での交流人口による産業育成にあたると考えられる。

図4 定住人口の確保のため行政に求めること(%)

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出典:県民意識調査

 ふたつ目は、海外をターゲットにした産業の育成である。国内の人口が減少し、マーケットが縮小するなかでは、海外に目を向けた取り組みが必要であろう。方法としては、海外市場で通用するような商品を作ったり、海外に進出して事業所を設置し活動を行う、などの方法が考えられる。もちろん、こういった取り組みは一朝一夕にできるものではなく、様々な課題を解決していく必要があるが、個々の企業や個人のこういった取り組みを後押ししていくことが重要だと考えられる。
 最後は、新しい産業、新しい製品、新しい仕事を考えだしていく人材が育つような土壌づくりである。オックスフォード大学の研究によると、アメリカにおいてあらゆる仕事のおよそ半分は、20年以内に、コンピューターによって自動化される可能性があると推計されている。また、人手が必要な仕事は、中国や東南アジアなどの人件費の安い国々へと流れている。しかし、これは面倒な部分が自動化できたり、海外に安く委託できるようになったとも考えられる。この環境の変化をうまく取り入れて、新しい産業、新しい製品、新しい仕事を考えだしていく人材を育成するための教育や社会環境づくりが重要になると考えられる。

 次に、第一の基本目標である希望出生率[2]の実現について考えてみたい。部分的に濃淡があるものの、山梨県内の保育所や幼稚園の数はニーズを満たしていると考えられる。しかしながら、合計特殊出生率[3]は1.4前後で、まだまだ最終的な目標となる人口置換水準[4]とは大きな開きがある。これを引き上げていくための取り組みとしては、以下の3つの取り組みが考えられる。
 ひとつ目は、出産年齢の引き下げが挙げられる。いつ出産するかは各個人が決めるべきことであるが、ヒトという生物として、男女ともに年齢が上がるに従って子どもはできにくくなる。そのために、20歳代で子どもを産むことができるような社会的、経済的環境として、どのようなものが必要であるのか議論し、コンセンサスを形成していく必要があるのではないだろうか。
 ふたつ目は、2人目、3人目を産みたいと思うための取り組みである。1人目を産み、育てるなかで、2人目、3人目を産みたいと思えるような家庭環境、社会環境を創っていく必要がある。これには、男女共同参画の浸透や山梨県内でも始まりつつある産後ケアの充実、困った時に相談できるような居場所づくりなどが考えられる。
 最後は、社会全体で次の世代を育成していくという意識づくりである。人口対策の効果は表れるまで非常に時間がかかる。短期的な動向に左右されずに、長期的な視野を持って継続的に取り組んでいくためには、社会全体で次の世代を育成していくという意識がないと難しい場面も考えられる。社会全体で次の世代を育成し、その世代に受け渡していく、こういった考え方に支えられることで、長期的な取り組みを行うことができる。

4 人口対策の効果 ~効果が表れるのはいつなのか~

 合計特殊出生率が人口置換水準を下回ってから、実際に人口が減少するまで30年以上かかったように、人口対策は効果が表れるまでひと世代以上かかる。日本創成会議が推計しているように、理想的な形として、2025年に出生率1.8(希望出生率の実現)、2035年に出生率2.1(人口置換水準の実現)が達成できたとしても、人口が安定するのは2095年となり、人口置換水準に到達してから60年かかる計算となっている。

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日本創成会議資料

 そのため、5年、10年といった短期的な視点ではなく、30年、40年といったひと世代以上先までの長期的な視点に立って取り組みを進めていく必要がある。また、それまでは人口が減り続けることは避けることができないので、その衝撃をどのように緩和していくかも重要な課題となる。

○主な参考資料

国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口(平成24年1月)

国立社会保障・人口問題研究所 日本の地域別将来推計人口(平成25年3月)

日本創成会議 「ストップ少子化・地方元気戦略」


[1] 20歳以上の県民2000人に対して調査員が訪問し、調査票を回収する方法で実施

[2] 子どもを産みたいと考えている人の希望がすべて実現した場合の出生率

[3] 一人の女性が一生に産む子供の平均数

[4] 人口移動が無い場合に、人口規模が一定となるような出生の水準