Vol.195-1 山梨県内企業の海外展開について


日本貿易振興機構(ジェトロ)山梨貿易情報センター
所長 高野 光一

◆はじめに

 国際化がますます進展する今日、山梨県内企業の「海外展開」(*)の状況がどうなっているかについて、得られた情報を基に整理したところ、山梨県内企業が世界22カ国に151件の「事業所等」(*)を設置し、積極的に海外ビジネスを図る動きが見受けられたのでその一部を紹介する。
 対象は、主に県内に本社を置く製造業を中心とした企業で、アンケートやヒアリングなどを通じて動向を把握した。なお、企業動向については引き続き情報収集を継続しており、当該データが随時変更する可能性があることを予め留意いただきたい。

(*)「海外展開」とは、海外に現地法人、支店・営業所・駐在員事務所等を有する、または、海外の企業に対し、技術供与をしている場合を指し、輸出・輸入は含まない。これらの実績を「事業所等」と記す。

◆日本の対外直接投資は2013年に過去最高を記録

 山梨県の状況を見る前に日本全体の動向について触れておきたい。2013年の日本の対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は3年連続で増加し、前年比10.4%増の1,350億4,900万ドルとなった。同投資額はこれまでのピークの2008年(1,308億100万ドル)を上回って5年ぶりに過去最高を更新した。
 主要地域別では、北米、アジア、欧州の3地域で日本の対外直接投資全体の約9割を占めた。このうち北米が前年に続き最大の投資先となり、国別では米国への投資額が前年比36.7%増の437億ドルに達した。米国向けの投資額は対外直投全体の32.4%を占め、国別2位の英国(同9.9%)を引き離し圧倒的に大きくなった。
 また、アジア向けの投資額も20.9%増の405億ドルと大きく伸びた。国別ではタイへの投資額が102億ドルと、前年比18倍の急増を遂げた。この結果、タイが中国を上回り、日本にとってアジア域内で最大の投資先となった。対タイ投資額は洪水の影響で2012年に前年比9割減の5億ドルまで落ち込んだが、2013年には洪水関連の一時的な変動要因が解消され、輸送機器分野を中心に先送りしていた投資案件が実行されたことが背景にある。
 さらに日本からタイ以外のASEAN各国への投資は、シンガポール(126.4%増)とフィリピン(69.8%増)への投資額が急増を見せた。シンガポールは運輸や不動産業、フィリピンは電気機械などが伸びに寄与した。これらによってASEAN全体への投資額は前年比2.2倍の236億ドルと、過去最高を記録した。
 対照的に日本から中国への投資額は、前年比32.5%減の91億ドルに落ち込んだ。金額の大きい輸送機器、卸売・小売業、一般機械への投資が軒並み減速したのが主な要因として挙げられる。この結果、前年までほぼ同水準で推移してきた日本の対中、対ASEAN投資額は2013年に約2.5倍の差が開いた。

日本の対外直接投資 中国・ASEAN比較

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 ◆山梨県内企業の海外展開は22カ国151件に

 山梨県内企業の海外の事業所等は、地域別でアジアが123件となり全体の81.5%を占めた。国別では中国(香港除く)が最多の43件(全体の28.5%)、次いでタイの17件となった。アジア以外で最も多かったのは米国の11件、次いでドイツの4件となったが、上位10カ国は米国が3位に入った他は全てアジアとなった。

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*海外展開があるものの展開先について無回答のものを除く

 このうち、最も海外展開の多かった中国(香港除く)およびタイについて地域別に分類すると次のとおりになる。中国は、沿岸部の華東や華南に集中している。華東は、江蘇省10件、上海市9件と上海周辺が大半で、華南も広東省のみで14件に達している。また、タイについてはバンコク近郊に集中しており、最も多かったのがチョンブリ県の7件で、次いでアユタヤ県の3件となっている。

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◆生産拠点が過半数

 さらに海外展開の形態を見ると、「生産の現地法人」が64.4%と最大を占め、次の「販売・サービスの現地法人」は15.3%にしか過ぎない。また、業種別に見ると「精密機械」、「電気機械」、「その他製造業」の3つで「生産の現地法人」の9割近くを占めている。
またこれらの海外展開目的を見ていくと、「生産の現地法人」は、「海外展開した取引先、親企業からの受注確保」(24件)、「現地市場の開拓」(13件)、「低コスト労働力の利用」(13件)の順で多かった。さらに「販売・サービスの現地法人」については、「現地市場の開拓」(15件)、「海外展開した取引先、親企業からの受注確保」(7件)となった。 

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◆古くは70年代後半に海外展開

 海外展開時期について調べたところ、山梨に本社を構える企業の海外展開で確認できた最も古いものは、1976年の工作機械メーカーによる米国への進出であった。翌77年には、食品加工メーカーによるタイへの海外展開があり、この頃のタイには大手企業が駐在員事務所を設置しているのが主流であり、製造業の現地生産としては極めて先駆的であったと言えよう。70年代前半のニクソンショックに端を発した円の変動相場制への移行、第一次オイルショックといった激動の時代に海外へ打って出ていったこれら企業の積極的な姿勢が窺える。
 さらに、海外拠点の設立時期の推移を見てみると、山梨の企業が本格的に海外展開をし始めたのは、1985年のプラザ合意の後である。また、中国がWTOに加盟した2001年を機に中国への海外展開が増加している。そして東日本大震災やタイ大洪水でサプライチェーンやBCP(事業継続計画)の見直しに迫られた2011年の後に海外展開が活発になってきている。

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*海外展開があるものの展開先や業種について無回答のものを除く

◆おわりに

 市場が拡大する海外展開は大いに魅力的だ。市場の拡大だけでなく、新たな製品・サービスの開発や社員のモチベーション向上に繋がるといった副次的効果も期待される。苦労を伴うものの海外展開を通じて培ったものが企業の競争力強化に貢献すると言えるだろう。例えば、海外での売上げが日本国内を上回り、グループ全体の経営に貢献している例も少なくない。しかし一方で海外展開は様々なリスクが伴うのも事実だ。事前調査や事業計画策定を十分に行い、そのリスクと対策を確認することは不可欠であるし、目的やターゲット、自社の強みなどを明確にすることも必要だ。
 FTAの進展などにより地域の国際化がさらに加速していく中で、中長期的な視点から海外ビジネスをどう捉えていくのか、今後の経営課題としてその重要性はますます高まっていくだろう。

以上