「女性の活躍」覚悟をもって


毎日新聞No.424【平成26年11月14日発行】

 夕方、仕事を切り上げ二男の保育園に行くと、育休明けのお母さんに会った。「今帰り?」「違う、ちょっと抜けて来ただけ。今からこの子を病院に連れて行って、そのあと実家に預けて仕事に戻るの」。彼女はそう言って車に乗り込んだ。働くママは、忙しい。

 10月末、「女性の活躍推進法案」が衆議院本会議で審議入りした。国や地方自治体、従業員300人超の企業に対し、女性登用のための独自の数値目標の設定と公表を義務づけるものだ。
 安倍政権になって、女性、女性と騒がしいが、男女雇用機会均等法が施行されたのは1972年のこと。その後も育児・介護休業法などで女性の労働環境は改善されてきたはずである。
 はずである、としたのには、わけがある。現在、働く女性が妊娠・出産にあたり職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受ける「マタニティ・ハラスメント」は社会問題にもなっており、また、先月末に公表された「世界経済フォーラム」による2014年の「ジェンダー・ギャップ指数」(男女格差指数)では日本が142カ国中104位と主要先進国の中で最下位だった。一定の法整備がなされていても、現実には大きな溝がある。
 「納得のいく仕事をしたい」「良き母でありたい」という理想のはざ間で揺れ、歯がゆさを抱える女性は少なくない。
 それを和らげるのは法律だけではなく、当事者たちの勇気と覚悟ではないだろうか。仕事と子育ての両方を完璧にできない自分を認め、助けを求める勇気。仕事からも子育てからも逃げない覚悟。そして、企業側も女性の力を信じて登用する覚悟。そんな覚悟のぶつかり合いが、双方にとっての上昇気流になると信じている。
 「女性の活躍推進法」が企業を一方的に縛りつけるだけでなく、各々に覚悟を持たせ、仕事と育児の両立に向けた環境の整備につながるのなら、働く母親の一人として歓迎したい。

 「ママ、帰りが遅くなっても謝らなくていいよ。でもね、ペースを決めて走らないとラストスパートができないんだよ」-。小学校の持久走大会に向け、長距離走の練習している長男の言葉を胸に、今日も職場へと急ぐ。

(山梨総合研究所 研究員 渡辺 たま緒)