Vol.196-2 高齢者労働力の活用方策を探る(1)


公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 佐藤 史章

1.はじめに~日韓研究交流のあらましと本稿の概要

 山梨総合研究所では、山梨県と姉妹協定を結んでいる韓国忠清北道のシンクタンクである「中北発展研究院」との間で、毎年研究交流を行っている。本年度は「高齢者労働力の活用方策を探る」をテーマとし、去る11月20日に2007年度から数えて7回目となる研究会を開催したところである。
 本テーマが選定された背景としては、本県はもとより、韓国・忠清北道においても高齢化の進展にあわせて、高齢者の労働というテーマへの関心が高まっていることが挙げられる。
 韓国側からは、高齢者が就労できない状況は様々な社会問題につながることを踏まえ、忠清北道における高齢者労働力の活用に係る各種施策についての説明があった。
 それを受けて弊研究所では、高齢者の就労に大きな影響を及ぼしている「シルバー人材センター」の制度を概観し、その利用状況を起点とした今後の方策について、事例紹介を通して論じたところである。
 本稿は弊研究所の発表内容に加筆修正したものである。なお、本稿における現況認識については、10月の岡研究員執筆のニュースレター「高齢化社会」採録のデータを基礎としており、併せてご覧いただければ幸いである。

2.シルバー人材センター

(1)事業の概要

 シルバー人材センター事業のおこりは、1974年に東京都が創設した「高齢者事業団事業」である。「一般雇用は希望しないが、就業を通して社会参加を希望する高齢者を対象として、その能力と希望に応じて補助的・短期的な仕事を組織的に確保・提供する。しかも行政が直接実施する事業としてではなく、地域の高齢者の自主的な組織として運営される」というしくみとして構想されたものである。
 東京都では、1973年度末に「高齢者事業団事業」としてその実現に向け着手し、1974年12月に任意団体たる「東京都高齢者事業団」が設立された。
 この事業は、その後全国に広まり、国は地域社会のニーズと高齢者のニーズに対応するとともに、労働者の職業生活からの引退の過程をできる限り円滑にし、進展する高齢化社会に対応するための労働対策の一環をなす新たな施策として、1980年に「高年齢者労働能力活用事業」を創設し、以降当事業による「シルバー人材センター」が設置されていった。あわせて、事業の全国的拡大に伴い、事業の法的整備の必要性が高まったことから、1986年10月、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」により、シルバー人材センターは法律に基づく公益法人となり、現在に至っている。
 なお、シルバー人材センターの全国組織として公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会(略称 全シ協)があり、各都道府県にシルバー人材センター連合がおかれ、その法人会員として各地の活動拠点たるシルバー人材センターが存在する形となっている。
 運営にあたっては高齢者に労働機会を提供するという公益目的のため、国・県・基礎自治体(市町村)から経済的な支援がなされているケースもある。職業訓練等の事業も行い、国の高齢者の労働に係る施策実施の一翼を担っているといえる。(図1)

図1 シルバー人材センター事業の全体像

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(出典)全シ協

 なお、県内には9つのセンターが存在しているが、単一自治体を範囲とするものは3センターであり、他は複数市町村にまたがる広域的なものとなっている。(図2)

図2 山梨県内におけるシルバー人材センター

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(出典)山梨県Webサイト

(2)受託業務の概要

 センターは、家庭、企業、公共団体(発注者)から「臨時的・短期的又はその他の軽易な仕事」の依頼を受け、基本的には会員個人が発注者を相手方とした請負又は委任の形式をとる形で対応している。危険・有害な作業を内容とする仕事は引き受けないことや、「生きがいを得るための就業」を目的としていることから、一定した収入(配分金)の保障がないことや、同一業務に長期間従事することがない(一定の期間が経過したところで他の会員と交代する)ことなど、高齢者が就労することに配慮された業務の運営体制がとられている。
 なお、2004年の制度改正により、発注先の社員と混在して就業する仕事や、発注者の指揮命令を必要とする仕事などの場合は、特例措置として認可を受けている一般労働者派遣事業により実施することが可能となっている。

 図3 シルバー人材センターの受託業務の一例(市民向け新聞折込チラシを転載)

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(3)実績

 以下の図4、図5は山梨県内のセンターに係るデータを表したものである。会員数や受託契約金額、会員1人1日あたり賃金が年を追うごとに減少傾向にある中、平均年齢が上昇している様子がみられる。
 いわゆる「団塊の世代」が65歳に到達するなど、高齢者の実数は増加しているにもかかわらず、会員数が減少し、平均年齢が上昇しているということは、主に60歳代前半の退職後間もない人々が、シルバー人材センターに加入していない状況が推測される。

図4 シルバー人材センターに係る諸計数(2003年を100としたグラフ)

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(資料)全シ協公表データをもとに山梨総研作成

図5 シルバー人材センターに係る諸計数(図4に示す項目の実数値)

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(資料)全シ協公表データをもとに山梨総研作成

 3.高齢者の就労希望の状況

 全国的に見て、高齢者の就労意向は高まりつつあることを示すデータを10月のニュースレターで紹介したが、ここでは“これから高齢者の中核をなす層”の意識について行われた調査データを引いて、その背景を詳しくみていきたい。

 (1)内閣府「平成24年度団塊の世代の意識に関する調査結果」

 60歳時点と調査時点(63~65歳)それぞれで仕事をしている(していた)理由を尋ねた結果(図6)、60歳時点に比べて回答割合が高くなっていた主だった項目として、「健康維持のため」(20.0ポイント)、「生活費の不足を補うため」(11.3ポイント)、「生きがいがほしいため」(8.1ポイント)、「自由に使えるお金がほしいため」(5.7ポイント)と続いている。必要に迫られて働くという趣旨の選択肢を除くと、「健康維持」、「生きがい」、「自由に使えるお金」といった、より有意義に生きるため、いわば“広義の生きがい”のために働こうとする意識が表れた回答となっている。

図6 就労目的(あてはまるもの3つまでを選択)

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(出典)内閣府「平成24年度団塊の世代の意識に関する調査結果」

 また、働くうえで重視している点(図7)をみると、「体力的に無理なく続けられる仕事であること」が最も高く40.7%であり、次いで「自分のペースで進められる仕事であること」29.7%、「自分の能力を発揮できること」23.0%、「勤務日や勤務時間を選べること」19.4%、「経験したことのある職種であること」18.3%の順となっている。
 仕事に縛られることなく、自分の思い通りに就労したいという様子が伺われる。

図7 就労時の重視点

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(出典)内閣府「平成24年度団塊の世代の意識に関する調査結果」

(2)博報堂「新しい大人文化研究所」の調査
~「生きがい」の内容を左右する価値観の変化

 博報堂「新しい大人文化研究所」の調査によると、自分のことを「シニア」だと思う60代は56.0%だが、実際に「シニア」と呼ばれたいと思う60代は12.2%との結果が得られたという。
 また、高齢者を「大人」ととらえたとき、“どういう大人でありたいか”を全国の40-60代に実施した調査では、「知性・教養がある」「今の自分を幸せに感じる」「健康維持」「家族や親族を大切に」という回答に続く形で「いつまでも若々しい」「あるがままの自分・自然体の大人」でありたいという回答が並び、1~4位は従来の考え方で理解できるが、5・6位は現在の40-60代にみられる新しい傾向であると結んでいる。

4.新たな高齢者労働力の活用方策を展望するにあたり

 シルバー人材センターは法律に基づく事業であり、公費の投入を受ける中、公益の実現のための制度を安定して運用することは、働く側にとってはある種の制約になる面も考えられる。例えば、様々な方が共同してできる仕事を揃えようとすると、軽作業等を中心に、就労業務の種類がある程度限られてくることや、決まったしくみの中での仕事で、現役時代の知識経験を活かす機会や創意工夫の余地があるかどうか、ということが制約の要素として挙げられる。
 団塊の世代が65歳を過ぎて高齢者にカウントされ、彼らが就労の動機として「生きがい」等を挙げる割合が増える状況となっても、その就労の受け皿として第一に考えられるシルバー人材センターへの加入へとつながっていない現状は、従来の考え方に基づく制度設計が、これからの高齢者に当てはまらくなっていく状況を示唆しているものと考えられる。そうなる背景には、社会の成熟を経て、価値観の多様化もますます進む中で、「生きがい」の実現のあり方も、それにつれて変わっていくという状況が想定される。
 こうした状況を踏まえ、次回では近年見られる新たな動きと照らし合わせながら、今後の高齢者労働力の活用のあり方を展望していきたい。

<調査協力>

山梨労働局 様

公益社団法人山梨県シルバー人材センター連合会 様

<参考文献・サイト>

内閣府「平成24年度団塊の世代の意識に関する調査結果」

山梨県庁

公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会

公益財団法人東京しごと財団

博報堂「新しい大人文化研究所」