Vol.197-1 有機農業に賭けた私からのメッセージ


~峡北の地から~

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【のらごころ代表 畑山農場 畑山 貴宏】

1.有機農業との出会い

 私は北海道札幌市で生まれ育ち、学生時代は茨城県つくば市で過ごしました。
 大学は農学部ではなかったのですが、たまたま有機農業のアルバイトをすることになり、農薬を使わないで美味しい野菜がちゃんとできることに驚きと喜びを覚えました。自然の中で仕事ができるということ、また創意工夫の結果を自分で確かめることができ、人に喜んでもらえるということに魅力を感じ、気がつけば有機農業を仕事にしたいと思うようになりました。とはいえいきなり農業の世界に一人で飛び込む勇気も無く、色々な農家を見て勉強した結果、即就農-専業農家という道ではなく半農半X的な暮らしを目指そうと考え、大学院卒業後、24歳で山梨に来て豆腐屋で働きながら修業を始めました。2年後、縁あって北杜市武川町で就農をすることになりました。2003年、26歳の時です。当時は今ほど有機農業への新規就農者が多くはない時代でしたが、都市部ではちらほら「オーガニック」、「スローライフ」という言葉が聞かれるようになり、これから有機野菜の需要が増えてくることが予感できました。

2.畑山農場の歩み

 栽培に関する知識、技術が未熟で、準備資金もあまりない状況で就農をしたため、苦労の連続でしたが、これで生計を立てて行くしか無いと考えていたので、失敗したことはすぐに改善につなげるように努力したことが結果的に近道を歩めたのではないかと思っています。農業を始めて2年目でなんとか生計が立つようになり、3年目で結婚し、子どもも生まれました。7年目には古民家付きの宅地と農地合わせて2,700坪を取得し、現在は北杜市高根町で畑山農場として農業を続けています。
 私の農業は、農薬や化学肥料を一切使用しない有機栽培により約80種類の野菜を栽培し、野菜のセットを直接消費者に宅配便で届けるというものです。農薬や化学肥料を使用 する慣行栽培と比べて有機栽培は平均的に単位面積当たりの収量が6割くらいに落ちると言われています。また多品目で栽培をするとそれぞれの作物に対する管理がどうしてもおろそかになり、手間もかかります。特に収穫から袋詰めの作業は、品目数が多ければ多いほど時間もかかります。畑山農場では収益体質を強化するために慣行栽培より高い値段で販売できる有機野菜セットの個別宅配市場に販路を求めました。

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 当初は、販売金額に占める個別宅配の割合は3割程で、その他の販売先としては直売所、飲食店、自然食品店などでしたが、口コミによって徐々に販路が広がり、現在は7割くらいを個別宅配が占めるようになってきています。有機農業における効率性の追求は非常に難しい一面がありますが、利益を最大化できるように、これからも日々自分に合った工夫をしていきたいと思っています。
 その、効率の悪い生産方法になぜこだわり続けるのか。それは多様な自然とのつながりを持ちながら、家族ならびに顧客の健康を守る食材を生産し、心豊かに生きて行きたいと思っているからです。

3.近年の新規就農者の増加について

 近年、田舎暮らしや農業をキーワードに自然に回帰しようとする人たちが増えています。
 八ヶ岳南麓の日当たりが良く冷涼な気候の土地は、特に有機農業をやりたいという就農希望者から人気があり、山梨県の田舎暮らしや就農の相談窓口でも北杜市で有機農業をやりたいという人の割合が一番多いと聞いています。私のところにも今までに何人もの人が相談に来ました。実際に行政による支援制度もあり、北杜市で有機農業を始める人の数は年々増えています。
 一口に有機農業と言ってもやり方は人それぞれです。私のように野菜セットの個別宅配をメインに販売する人もいれば、品目数を絞って量販店や流通業者に販売する人、飲食店をメインに販売する人もいます。また就農をして短期間で生活できるだけの収入を得るようになる人もいますが、なかなかそこまでの収入を得るまでに至っていない人も多いというのが現状です。
 私のところに農業体験に来る人たちの多くは、「農業」に興味があると口にしますが、実際は田舎で自分の食べるものを作りながら農業で生計を立てられるかを知りたいという「農的暮らし」志向の強い人たちで、農業をビジネスとして捉えている人はほとんどいません。新規就農をした人たちも大半はそういう「農的暮らし」志向の強い人たちだと思います。私もそんな一人ですし、それを否定する気持ちは全く無いのですが、どうやって生計を立てていけるようになるかが重要です。先ほどの話にも出てきた有機農業の効率の悪さをそれぞれで克服していかなくてはいけないのです。

4.自立に必要なもの

 驚くような売上を上げているわけでもない私がこんなことを述べるのはおこがましいのですが、自分自身にも必要なことを確認するという意味で、有機農家が自立をしていくために必要と思うことをまとめてみました。

  • 適期作業(注1)のためのスケジュール管理と栽培管理のマニュアル化
     適期に畑に施肥をして耕運をし、播種や定植をすることで収量が増え、適期に除草や剪定などの管理作業をすることで作業時間は短縮でき、全体の生産効率は大幅にアップします。多品目で栽培するほど、適期作業は難しくなりますが、予めスケジュールを組むことで適期作業は行いやすくなります。また作業をする人のセンスが問われる農作業は、多品目におよぶ栽培管理のマニュアル化は難しいのですが、機械、資材を使用することによりマニュアル化できれば、アルバイトの方にも分かり易い仕事になり分業化することができます。
  • 限られた面積で、高品質なものをたくさん作ることを目指す
     これには適期作業や栽培管理のマニュアル化も重要ですが、その他にも土つくり、圃場に向いた作物の選択、それぞれの作物の栽培技術の向上により、高品質のものをたくさん作ることができます。それによって収穫から袋詰めまでの手間が大幅に短縮され、効率がアップします。
  • 事務作業の効率化
     個人経営の農家にとって、伝票の管理や栽培記録などの事務作業は大変な労力を必要とします。特に一人で農業をやっている方にとっての負担はとても大きいと思います。パソコンソフトを使うことにより効率化出来るようになると良いと思います。
  • 自分の得意なことに注力する
     農協出荷に頼らない農家は、生産だけではなく、販路開拓、流通の確保、事務作業など何でもこなさなくてはいけませんが、それは決して合理的ではありません。人それぞれ自分の得意なことに注力したほうが、活き活きと仕事ができます。生産方法だけをとってもやり方は千差万別です。自分に合った方法、自分にしかできない方法を探すのには時間がかかりますが、それを意識しながら仕事をしているとだんだん見えてくると思います。

5.現在とこれから

 2010年に骨をうずめる覚悟を決めて現在の広い家に移ったことで、多くの人を家に招く事ができるようになり、近隣の有機農家をはじめ、各方面の方たちとの交流が広がりました。それまでは自分の生産技術、販売方法だけで農業をやっていくものだと思っていましたが、それに加え独立した生産者同士で協力し合って新しいことにチャレンジしたいと思うようになりました。
 2013年、東京のとある飲食店オーナーが有機野菜の定期的な直売マーケットの開催と、近隣飲食店への販売を提案してくれたことをきっかけに、北杜市、韮崎市の20名の新規就農者と共に「のらごころ」という生産者グループを立ち上げました。
 「のらごころ」は、SNSによる情報発信、また地域のコミュニティ誌に取り上げられることで、地元の人から都市部の人までの幅広い層の人たちに応援してもらえるようになりました。グループ化することで個人農家では難しかった情報発信力が備わり、販路を拡大することができています。
 しかし、初めの一歩を踏み出したばかりのグループにはまだ課題が山積みです。グループのメンバー全員にとって利益のある活動を行うためには、やはり、自立に必要なものを個人個人が備え、お互いを生かし合えるような活動にする必要があります。
 これからも、一人ひとりが得意な事を生かし合うことでさらに発展できる新しい協同グループを目指し、峡北地域の有機農業を活性化していきたいと思っています。

(注1)適期作業・・・施肥、耕運、播種から始まり、収穫までの間の、剪定、誘引、除草などの管理作業を含むすべての作業工程を、作物の順調な生育に最も適した時期に行うこと。

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