農村資源と情報発信


毎日新聞No.429【平成27年1月23日発行】

 グリーン・ツーリズムという言葉を聞いたことがあるだろうか。農山漁村地域において、自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動と定義される。
 もともとヨーロッパにおけるバカンスの過ごし方であるが、日本では1992年に農林水産省がこの言葉を使い始めている。平成17年に改正された「農山漁村余暇法」では、この取り組みを推進するため農家民宿等の要件が緩和され、県内では3軒の農家がすでに農家民宿の許可を得ている。
 グリーン・ツーリズムにより、都市住民には癒しが、農村にとっては経済的な効果が期待される。東京圏に近い本県はグリーン・ツーリズムの効果が期待しやすいため、県内の多くの農村がグリーン・ツーリズムに取り組もうとしている。

 グリーン・ツーリズムに取り組もうとする場合、地域にもともとあるモノ・コト・ヒト資源を再評価していくことから始める。その後、それらの資源をつなぎ、交流プログラムを都市部に向けて情報発信していくことがオーソドックスな流れである。
 すでに実績のある農村は、旅行会社等と提携した事業展開が可能であるが、新規に取り組む農村では、情報発信と集客に苦戦する場合が多い。パンフレットとウェブサイトのみでは、なかなか集客できないのである。

 そんな中、農村資源や交流プログラムを発信するツールとして、グーグル社が提供しているスマホ向けアプリ「Ingress」に注目したい。
 登録された神社や石仏といった拠点を取り合う陣取りゲームであるが、世界中に800万人以上のユーザーがおり、すでに岩手県や横須賀市が観光振興のためIngressの活用を始めている。拠点まで実際に行かないと陣取り操作ができないため、県内でも山間地の拠点に日々ユーザーが出向き、拠点を巡る熱い戦いが展開されている。
 農村の資源は、まさにIngressの拠点となりうる可能性が高い。拠点申請は農村住民自ら行うことが可能であり、さらに地域の歴史を辿るフットパスのようなコースもゲームの中で設定することができる。
 実際、甲府市旧中道町内の地域活性化協議会では、Ingressを活用する準備を始めており、多くの農村資源を拠点として申請中である。経済効果を得るためには更なる工夫が必要であろうが、魅力あるツールを使った新たな展開が期待される。

(山梨総合研究所 主任研究員 千野 正章)