Vol.198-1 プロヴィンチアの挑戦


~ともに未来へ向かって~

198-1-1

株式会社ヴァンフォーレ山梨スポーツクラブ
専務取締役ゼネラルマネージャー 佐久間 悟

 

これまで

 2000年(平成12)にクラブ存続の危機に直面したヴァンフォーレ甲府は、翌、2001年(平成13)に海野社長(現会長)らがクラブ再建に着手、10年ひと昔と言われますが、今から14年前のことでした。クラブ関係者の努力と山梨県民を中心とする多くの皆様のご支援とご協力の甲斐あって、クラブは不死鳥のように蘇り、13期連続の黒字決算(過去においては、G大阪、川崎フロンターレの2クラブが達成)を成し遂げるまでに至りました。また、これまで多くの指導者と選手の挑戦や努力によって、着実に力をつけてきたチームは、J1昇格、J2降格、J2優勝などの歴史を刻みながら昨シーズンもJ1残留を果たし、今シーズンは3シーズン目のJ1という、また新しい歴史に挑戦することになります。今日まで、皆さんに育んで頂いたヴァンフォーレ甲府は、Jリーグの理念を具現化している「地域密着クラブ」の模範クラブとして評価され、近年では国内外を問わず多くのクラブ経営者や行政の関係者が勉強に訪れるほどまでに成長することが出来ました。これは、私たちだけではなく、同時に山梨県に対してご評価を頂いているものであると誇りに感じています。

これから

 順風満帆に思われるヴァンフォーレ甲府ですが、「これから」「未来」に目を向けると、決して楽観視することは出来ません。
 一番目の理由としては、山梨県を取巻く環境にあります。Jリーグはこれまで「地域密着」を理念として掲げ活動を展開してきました。この理念を順守することは、すなわち「地域とともに生きる」ということであって、地方が抱える様々な社会問題に対して、真正面から向き合うことが必要になってきています。つまり、人口減少や予想を上回る高齢化と少子化、可処分所得の低下や雇用の不安定などの社会問題は、「地域密着クラブ」にとって、決して対岸の火事では無く、今では、自らの課題として受け止めなければならない状況下にあります。
 二番目の理由としては、日本サッカー界とJリーグを取巻く環境の変化です。「日本代表の強化がすべての成功につながる」と考えられているようですが、実際には、少子化や競技者マインドの変化など、近年では、チーム登録数やスポーツ少年団の減少が競技へのキッカケづくりを阻害しているだけではなく、競技レベルの向上を追求するエリートとそれ以外という二極分化が進んでいます。
 三番目の理由としては、これまでの「地域密着」を活動理念としているJリーグは、今シーズンから、「共存から競争のリーグ」へと方針転換に大きく舵を切ったことです。これが意味するものは、従来の公平な利益分配から、強者の論理に基づいたサッカー界における「新自由主義」の幕開けであり、資本力のあるチームがすべてにおいて有利になる可能性が高く、いわゆる大都市、大資本に支えられたクラブが中心となり、ヴァンフォーレ甲府のような経済基盤が弱い「地域密着」の地方クラブには、大変厳しい状況となります。
 上記の様に、①山梨県内における社会構造の変化、②日本サッカー協会とJリーグを取巻く環境の変化、③Jリーグの方針転換 のなかで、今後も継続して安定したクラブ経営をすることが使命であると考えている私たちにとって、この数年間は、「まさしく存続の危機に匹敵する変化の時代」と位置付け、課題克服のためにヴァンフォーレ甲府に係るすべての皆さんとの一体感を醸成して、対策を講じる必要があると考えています。

これからに向かって

 長期的な対策としては、「専用球技場」の建設だと考えています。「専用球技場」は、決してサッカーだけに使用される施設ではなく、①ラグビー、アメリカン・フットボールなどの球技場として、②コンサートなどの文化施設として、③災害時における非難場所などとして、複合施設としての機能を備え、「山梨県民の県民による県民のための専用球技場」として、山梨県の文化、歴史、伝統、教育、スポーツ、物産、健康、観光、安全などの発信拠点になればと考えています。「専用球技場は聖地」として、まさしく老若男女が集う、「オールやまなし」の象徴になればと大いに期待をしています。
 中期的な対策としては、「地域密着クラブ」の代表格として育んで頂いた皆様への恩返しとして、「地域が抱える社会問題」に対して、これまで以上に積極的に取組む必要があると考えています。山梨県の元気・勇気・希望の星として、ヴァンフォーレブランドを活用した国際交流事業やサッカーにおける実育[1]活動、大規模なサッカーフェスティバルや全国大会を誘致して地域経済の活性化に寄与することなど、今後もただ単にプロサッカーの興業だけではなく、山梨県のメディアとして、コンテンツとして、さらには、異業種・団体・組織を結びつけるファシリテーターとして地域内連携を図りながら、山梨県のブランド向上や子どもたちの教育、高齢者の健康増進など、公共の利益に資する活動において中心的な役割を担うことが出来ればと考えています。
 短期的な対策としては、サッカークラブとして最も重要な役割である、日本サッカー界やJリーグの変革期において、クラブの存在価値を高めること、つまり、チーム成績の向上に努め魅力ある集団形成に努めることと考えています。言うまでもありませんが、どんなに崇高な理念を掲げたとしても勝負の世界では、結果が全て。「勝者のみに発言する機会が与えられ、敗者はただ消え去るのみ」という世界です。私たちは、何としてもJ1というステージに拘り続け、安定感のあるチームを作ることが皆様からの信頼を得る唯一の方法であることを理解しています。
 そこで、安定感をもたらす手段のひとつとして、選手を育成するシステムの構築は不可欠であると考えていますが、その為には、クラブ内のアカデミー(育成カテゴリー)の充実を図り、山梨県内において育成した選手で構成されたチームがレベルの高いリーグで誇りを持って戦う。その選手たちをサポーターの皆さんが応援する。まさしく、「地域内連携によって育成した選手たちが躍動する」ことで、皆さんに幸福、感動、苦悩、絶望、希望を提供することができ、サッカー文化である「みる」「する」「ささえる」が実現できるのではと期待しています。ヴァンフォーレ甲府は、世界のどの国のリーグにもどこの国の選手にも劣らない、「山梨県民の県民による県民のためのサッカー」を表現することが私の理想です。

これからへの決意

 最後になりますが、私たちクラブスタッフは、「サッカークラブは、過去の人々のものであって、また、現在の人々のものでもある。しかし、最も重要なことは、未来の人々のものでもある。」ということを忘れず、韮崎市出身の大企業家であった、小林一三氏の「庶民の手の届く範囲内で庶民の為の娯楽をつくる」ことを大切にしたいと考えています。
 また、私は、地方の時代と言われて久しいなか、「もう一度、地域に対する誇り、愛情、歴史に培われた地元のルーツを考え魅力を問い、拠りどころは何なのか?決してミニ東京にしない。」、これがヴァンフォーレ甲府の進むべき道ではないかと思っています。
 吉田松陰は、「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なきものに実行なし、実行なきものに成功なし。故に、夢なき者に成功なし。」という言葉を残しました。
 私も夢を抱く、挑戦者でありたいと思っています。

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[1]実育:ヴァンフォーレ甲府が提唱している教育理念。実りある教育の意。