「ここ」でなければ
毎日新聞No.430【平成27年2月6日発行】
「地方創生」の動きが加速している。取組の主眼は都市から地方への人の流れを作り、地方の活性化を図ることで中長期的に日本の活力を維持していこうというものである。
県内自治体では2060年までの人口を予測した「人口ビジョン」と向こう5年間の「総合戦略」の策定に取り掛かろうとしている。働く場を確保する観点からの雇用・産業に係る政策から、子育て等のニーズに対応した生活環境・基盤の整備のあり方に至るまでと幅広く、それに産学官金労をはじめとした多様な主体が関わることになる。
こうした地方の取組に対する国のスタンスは、「結果重視」といわれる。例えば、支援策の一つとしてビックデータを駆使した「地域経済分析システム」が提供されるが、地方はそこから読み取れる「地域特性」に対応した柔軟な施策に取り組める反面、取組結果は主に数値で評価される、といった具合である。
データに裏打ちされた各種施策を目標達成に向かって取り組み、地方の人口増と活力維持につなげるのが「地方創生」の動きなのだが、それだけでよいのか。
山梨県内、さらに言えば市町村内のある一点に居を定める、職を求める、それを続けるにはそれなりの理由があるはずだ。「自然が豊かだから」「生まれ育った土地だから」というのが、まず出てくる理由だが、それだけではないだろう。ストレートな言葉にはならないが、この地の暮らしの中での思いや価値観、環境や歴史文化といったものが、自分にしっくりきているということだろう。
こうした言葉にならない「理由」の背景を紐解き、積み上げ、言語化し、内外の共感を得る形で発信し、地域の活性化につなげるという一連の流れを戦略化すること、言い換えれば「地域全体をブランディングする」取組をあわせて行うことが必要なのではないか。
数値目標を掲げた取組の先に、当地の風土や特徴と「リニア」などの新たな動きを踏まえた「当地のありたい姿」をおき、これを効果的に伝えていくことが、現に住む我々にとっても、また施策を通じて新たに当地に来る方にとっても、生活の拠点が「当地(ここ)でなければ」ならない理由を示すことになるのではないか。
(山梨総合研究所 主任研究員 佐藤 史章)