Vol.199-2 中心街よ立ち上がれ!


公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 末木 淳

はじめに

 甲府市中心市街地(以下、中心街)の活性化が叫ばれて久しい。現在甲府市は「中心市街地活性化基本計画」(平成26年10月策定、以下基本計画)に沿って活気あるまちづくりを進めている。また、「政府はまちづくり3法」をもとに各自治体の基本計画を認定する形で活性化策を進めている。その全体像は、単に商店街を活性化することではなく、都市全体のコンパクトなまちづくりを進める上で、居住・公共施設・交通などの要素を中心に生活拠点として総合的に中心街のまちづくりを進めることを唱えている。
 しかし、今回はもっと身近な存在として、多くの方々が想像する中心街の活性化について、1.中心街のアイデンティティ[1] 2.活性化とは? 3.どうすれば実現できるのか?について意見を述べたいと思う。

1.中心街のアイデンティティ

 中心街は飲食を含めた小売店、県庁・市役所・警察署等の公的機関、金融機関の本・支店、報道機関、住居が混在した都市機能を集約した地域だが、求められているのは「楽しめるまち・くつろげるまち」である。
 甲府市が基本計画を策定する際に行ったアンケート調査(図1~3)から見えるのは、市民の多くが「魅力的な店舗が増え、にぎわいのある街」「飲食店・大型店舗・ブランドショップがある街」を望んでいて、「歴史や文化の香りがする観光客が訪れる街」「市民が散策できる憩いの街」を求めていることである。また、ほとんどの世代で同様 の意見が出されていることが分かる。市民にとっての中心街は「買物で楽しみ、美味しい物を食べ、ぶらぶらできる街」=「楽しめるまち・くつろげるまち」である。これには商業地域としての活性化が欠かせない。

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1 中心街が今後どうなって欲しいか
(甲府市中心市街地活性化計画より)

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3中心市街地に今後どうなってほしいか(年代別に集計)
(甲府市中心市街地活性化計画より)

2.活性化とは?

 この意味からすると、中心街における活性化とは、何かを仕掛けることであり、継続的に努力することである。冒頭にも触れたが、中心街の活性化は叫ばれて久しい。その間、多くの人々が携わってきたが、現状は“活発に働くようにはなってはいない”。

【活性化】沈滞していた機能が活発に働くようになること。
また、そのようにすること                   (第五版 広辞苑より)

 

 第一次の計画からハード事業は着々と進み、町並み整備、老朽化した建築物の建て替え、遊休地の活用など景観的にも機能的にも中心街は大きく変容し、現在も市街地の整備改善に関する事業として、甲府駅南口周辺地域景観整備事業などが継続して実施されている。ハード事業を仕掛け続け継続的に努力しているが、商業地域としての活動は停滞しており、多くの人がイメージする中心街の姿には到っていないのが現状である。
 これから必要なことは、本気でソフト事業に挑戦することである。活性化策として、企業誘致・大規模店舗誘致が挙げられるが、持続可能性という点では脆弱性は否定できず、経済環境の変化などによっては、施設だけが取り残されるといった状況も生まれる。人はハートで動くが、ハードでは動かない。“沈滞していた機能が活発に働くようになるまで”ソフト事業を続けることである。その内容も単発的なイベントの開催、情報発信などではなく、中心街の持つ優位的資源は何か、どのように進めていくのか、志ある人々が先頭に立ち中心街の人たちと現場で進めて行くことが重要である。

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図4 甲府市全体で必要な施策は
(甲府市中心市街地活性化計画より)

図5 中心市街地活性化に取り組むべきだと思いますか
(甲府市中心市街地活性化計画より)

 

 図4・5は市民の中心街の活性化に対する関心の高さ、期待度の高さである。数値を見る限り、重要な行政課題の一つであることは間違いない。中心街の活性化を進める上では商業地域としての対策が最も重要である。主要道路の拡散、周辺地域の市街地化、県外資本の流入、人々の流動性の高まりにより、商業地域としてのプレゼンス[2]は完全に失われたが、懸案事項だったココリ、銀座ビルも再生に向けて動き出し、芳野ビルには改装後に10店余の飲食店が入居することになっている。また、新規に開業する個店も散見され、期待は高まり機は熟しつつある。

3.どうすれば実現できるのか?

3―1 人

 新しいことに挑むのは大変である。大変とは“大きく変わる”と書く。この“大変”がなければ、時代の流れのなかに取り残される。人は立場・性格・能力みな違い、そしてそれを共有することは極めて難しい。しかし、志や信念を共有することは可能であり、そこから①前向き ②熱意 ③根気 が生まれてくると考えている。きっかけを作り、人々の連合体を形成することが推進力となる。
 行政側には、積極的に中心街に入り込み、連合体形成のきっかけ作りをして欲しいと思う。その事により、個対個の人間関係・信頼関係が生まれ、ひいては行政に対する信頼に繋がる。各地の活動事例などを見ると、立場に関係なく強いリーダーシップを発揮する人材がいることに気付く。今回、中心街でヒアリングを行ったが、皆元気な姿を望んでおり、協力の姿勢を十分に感じることができた。個店の店主一人ひとりと向き合う姿勢が必要であり、中心街の土壌は十分に耕されている。
 一方、中心街としては、各個店の魅力を高めることに尽きる。現状の姿は、環境の変化に影響を受けていることは事実だが、それを責めることはできない。環境は変化するものである。外に原因を求めるのではなく、自分にできること、自分たちにできることに勇気を持って取り組んで行く姿勢が変化をもたらすと信じている。
 甲府駅南口の通称“提灯横丁”は10店舗で資金を出し合い(店舗面積に応じて)、飾りつけからイベントの企画など連携して活動をしている。横丁の認知度は上り、集客効果も高まっている。小さなことでも、そこに集まるものが全体の利益のために負担と分担を分かち合い、成功を収めることで活動は活発化する。

3―2 特徴から強みへ

 まずは、特徴を見付ける(なければ創り出す)ことである。それを目当てに人々が集まる何かを創り出すことに尽きる。アンケートにあるように、中心街は注目され、期待されている地域である。例えば、中心街の特徴は飲食店の多さである。県内地域を見ても、これほど飲食店が集積している地域は他にはない。やや夜に重きをおいた店舗構成になってはいるが、この飲食店で協働して導入できる顧客目線のサービス、商品などが開発できれば面白い展開ができるのではないかと考えている。例えば地産地消をテーマに甲府市内の農家から食材を調達してのメニュー開発や料理コンテストなどは、話題性もあって面白い。また、普段も地域の食材を使用することにより、中心街と外部の連携が図れ、市民にとっては新鮮な食材を、県外からの来訪者に対しては甲府市としてのおもてなしを提供できるのではないか。
 各地の産品を発信する場所として中心街は適地である。中心街だけで考えるよりも思考の範囲を市内、あるいは県内にまで拡大することで中心街の強みは多面的に発揮できるはずである。

3-3 お金を回せ

 多くの自治体で「地域活性化」「中心市街地活性化」「観光振興」といった将来を見据えた元気になる取り組みが行われている。もちろん地域ごとに特徴は異なるので、具体的な活動はそれぞれ違うだろうが、共通して言えることは、マネーの獲得と還流が絶対条件ということである。①域内でマネーを獲得する。②域外でマネーを獲得する。③マネーを域内で還流させる。この3つのアプローチにより、持続可能で発展的な活動が可能になる。
 例えば、このようなアイデアはいかがだろう。

  1. 飲食店で購入する食材などを供給するベンダーを設立し、飲食店はそちらから仕入れを行い(部分的であれば可能ではないか)、ベンダーは得た売上から一部を中心街のまちづくりのための資金として還元し、イベントの実施、情報発信、ストリートの景観整備などを継続的に行う。
  2. 提灯横丁のように区画単位あるいはストリート単位で個店同士資金を持ち寄り、イベントの実施や店舗の飾り付け、タクシー・代行・駐車場料金などの共通割引券を発行し、中心街への来訪を促す。

 当事者たちで知恵を出し合い、持続可能な活動を行うための仕組を作ることが必要である。

3-4 課題

 図2の結果にもあるように、中心街に大型駐車場を求める声は多い。駐車台数は約3,000台超確保されているが、小規模駐車場が点在しており利用者としては場所の不明確さと駐車の不具合さを感じてしまう。また、車を降りてから目的地まで5分掛かるとネガティブな感情が生まれてくるようだ(町並みなどの景観にもよるが)。最近では店舗を時間貸し駐車場などに転換するケースが多く見受けられ、景観的にも資源的にも決して有効活用とは言えない。利用のし易さと、新規駐車場に関する制限は行政対応が必要と考える。
 権利関係については、当人以外が介入することは非常に難しい問題であるが、後継者がいない、あるいは区分所有者が所在不明などの状況では地域として動き出せないままである。
 資産の所有と利用の分離、借地・借家の工夫、資産処分の負担軽減など、意欲を持っている人が参加しやすく、また権利者にとっては安心して資産を託せるような環境を整える必要がある。

4.おわりに

 今回、中心街を記すに当たって、街の人たちと話をした。その一部を紹介したい。自分自身も微力ではあるが、何かの役に立ちたいと考えている。

中心街でのヒアリング

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  • 甲府の中心街が元気になるのは大歓迎。もっと街中に店を出したいと思っている。みんなで取り組めるなら参加したい。ウチは旨い物出して、お客さんに喜んでもらうことが一番。それが協力できることなら一生懸命やる。知り合いのオヤジもそういう考え持ってるよ。
    (居酒屋店主40代・男性)
  • 旨い店が集まるなんていいじゃねえか。おれは50年やってる。しっかりした仕事している店集めて甲府を元気にしてくれ。昔は人がいっぱいだっただ。寂しいもんだ。
    (ラーメン屋店主70代・男性)
  • アタシなんかにできることあるだけ。でも、店やってる人達が集まってなんかできれば面白いね。何軒か知ってるから紹介するよ。もっと若い人が来るまちにしたいじゃんね。働いている人も多いだから、幼稚園とか保育所とか作ればいいじゃん。あとね、駐車場にベビーカーの無料貸し出しとか、あれ持っていてもいちいち運ぶの面倒だって言ってたよ。
    (スナックママ50代・女性)
  • 甲府が元気にならないと、山梨がダメになっちゃうよ。中心街に特徴創るってのは大賛成。全体でやろうとしても難しいから、どこか一つの通りで集中して成功すれば・・・。それが三つできたらだんだん変わってくる。今、チャンスだからがんばって。
    (自由業60代・男性)
  • 甲府最高!出張で結構あちこち行くけど、甲府は面白い。大好き。旨い店あるし、お色気あるし・・・店で飲んでると地元の人と盛り上がっちゃうことがスゲェー多い。
    (大阪のサラリーマン=客30代/40代・男性)
  • 自分の作品を見てもらう・触れてもらう、そういう場所が欲しい。甲府の中心街であれば一番良い。ただ、自分一人で勝負できない。補助制度なんかがあれば、希望する人は結構いると思う。甲府は山梨県の中心です。地域のものが甲府に集まって、人々も甲府に集まる。そんな風になれば素晴らしい。ぼくは南アルプスだけれど、できることは協力したい。
    (南アルプス市自営業60代・男性)
  • オレは40年甲府の街に立ってる。何でもいいから元気にしてくれ。出来ることは協力するぞ。そのビルは昔温泉だっただ。知ってるか。今でも湯出てるぞ。湯気沸いてるだから。ここに足湯でも作ったらいいじゃんか。作ってくれ。
    (街角に立って40年70代・男性)
  • 駐車場ばっかり増えて仕方ない。ポツンポツンとあちこちに増えていくのは寂しい限り。
    地権者もどうしていいか分からなくて、とりあえず駐車場にしてるんでしょうな。業者からの勧めもあったりして。それでいて駐車場への不満が結構あったりして。行政が一定の基準みたいなものを作らないと益々増えていくんじゃないか。
    (自由業60代・男性)

[1] アイデンティティ:他者が感じる、ヒト・モノなどの個性、独自性、本質

[2] プレゼンス:存在感