歴史から未来を想う


毎日新聞No.433【平成27年3月20日発行】

 戦後70年にあたり今夏の首相談話が注目されている。奇しくも、先日旧帝国海軍の戦略思想の象徴とも言える戦艦武蔵がフィリピン沖のシブヤン海の海底で発見された。武蔵は大和型戦艦の二番艦として1942年に竣工した世界最大・最強の戦艦である。大和とともに当時の我が国の技術の粋を集めて建造された戦艦であり、全長263メートル、全幅38メートル、基準排水量65,000tの威容を誇り、主砲の直径は46cm、射程距離は40kmを越えたという。
 日本海海戦で大国ロシアのバルチック艦隊に「完全勝利」した帝国海軍は、組織として転換できない戦略思想を持つに到った。それは「海戦は洋上における艦隊決戦によって雌雄を決する」というものであり、その結果として行き着いたのが大艦巨砲主義である。「完全勝利」による成功体験は、戦術のみならず、予算編成、組織、人材教育などにも影響を与え続け、航空主兵論が叫ばれる中、武蔵はその集大成として竣工し、わずか2年余りで深い眠りに就いた。

 4月、本県は「信玄公祭り」をはじめとして、信玄公を敬慕するお祭りが数多く開催される。戦国絵巻に見惚れ、縁の地を訪ねるとともに、公の言葉に触れてみてはいかがだろう。分裂していた甲斐の国をまとめ上げ、戦国最強と謳われた武田軍団を作り上げた公の言葉には現代にも通じる真理が散りばめられている。じっくりと読み解き、自身の日常に重ね合わせることで近くに感じる筈である。ちなみに「完全勝利」に対し自らに戒めを込めて次のような言葉を残している。「軍勝五分を以って上となし、七分を以って中となし、十分を以って下と為す。五分は励を生じ、七分は怠を生じ、十分は驕を生じる」と。

 常に将来に対する準備、鍛錬を行うための心構えの大切さを語りかけているように感じる。信玄公の季節に武蔵発見の報は、私の中で勝手に結びつき、改めて歴史から学ぶ奥深さを感じるきっかけとなった。

(山梨総合研究所 主任研究員 末木 淳)