Vol.200-1 食農の地域活性化に関する事例と考察


~島根県邑南町・A級グルメ立町への取り組み~

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【島根県邑南町 食のPR大使、飲食プランナー、
TVチャンピオン牛肉王 石原 隆司】

1.はじめに

 地方における高齢化と人口減少、それに伴う地域の衰退、活力低下が著しいことは改めて申し述べるまでもない。問題提起としては出尽くした感がある。今、必要なことはどうやってこうした問題に対処していくのか、それも“公務員的思考”による抽象的方法論ではなく、具体的な対処法の提示と実行が求められていると切に思うのである。「地域活性化」「まちおこし」については、実際的な段階に差し掛かっているにも関わらず、いまだ抽象的な領域を脱し切れない自治体や当事者が多いような気がしてならない。
 現在私は食農による「まちおこし」の稀有な成功例(自画自賛するがご容赦いただきたい)に関わらせていただいている。そこで今回は、食農による「まちおこし」に関して事例紹介と幾分の考察を行ってみたい。

2.「A級グルメのまち」島根県邑南町(おおなんちょう)

 邑南町は島根県と広島県の県境に位置する人口約11,500人の小さな町である(町の詳細はHPをご覧いただきたい)。邑南町といってもご存じの方は少ないかもしれない。実際、東京で生まれ育った私も5年前に「石見(いわみ)和牛肉」の鑑定をご縁に知己を得るまでは知らなかった。農林業が主要産業の中山間地域で、吸引力のある名所旧跡といった観光資源はない。ところが現在では、食農による「まちおこし」の成功例として、非常に多くのメディアに露出し、全国から視察の絶えない町となった。その成功事例は下記の二つに表される。

(1)人口の増加

 U・Iターンにより同町への流入人口は増加傾向にあり、平成25年度、同町の人口動態は20名増加した。わずかな増加ではあるが、中山間地域においては画期的な現象である。

(2)住民の生活満足度84.1%

 「食べ物がおいしい」ことを挙げる住民が多く、自然豊かで住民自身が暮らしやすさを実感していることが分かる。
 これらは、石橋良治町長の企業経営的な町政運営とリーダーシップ及び、類まれなる職員の存在と、その行動力によるところが大きい。
 邑南町の定住人口の増加を目的とした中核施策は、①移住者への徹底的なケアを推進することにより「日本一の子育て町」を実現すること ②地域経済を活性化させるための「A級グルメ構想」の2本柱である。特に後者は独自性と明確なテーマ性のあるもので、約4年前に町づくりビジョンに掲げられたものである。ちなみに、食農をここまで明確に打ち出した自治体は邑南町が始めてである。
 A級グルメとは、B級グルメに対抗する言葉ではなく、邑南町の農産物を使った「まちおこし」を表す言葉である。①農産物は少量多品種高額食材が多い ②品質に自信がある ③生産者にプライドを持って欲しい ④全ての農家、加工品製造業者、飲食店・販売店経営者に満遍なく経済効果を波及させる といった現状と将来像を見据えて考案された概念が「A級グルメ構想」である。

3.インパクトある観光の新しいカタチ“新しい食農地産地消”へ

(1)食の観光

 現在では観光および観光資源の概念は大きく変化している。飛び抜けて知名度の高い名所旧跡を除くと、それらの吸引力はかつてほど強くはない。観光に対するニーズ・目的の多様化が大きな要因と考えられる。その最たるものが食の観光資源化である。
 例えば、観光都市としてもアジア有数の香港などは、名所旧跡という観点からすると、ビクトリアピーク[1]など、非常に限られている。多くの観光客の来訪目的は、ショッピングと食(飲食店などにおける)である。フランスの三ツ星レストランにわざわざ食事に行く、これも言ってみれば食の観光の典型例である(筆者もその典型)。有名ワイナリーが集積するサンフランシスコ近郊のナパバレー[2]などは、直近約20年間で高級レストランやホテルが多数開店するようになり、今や米国西海岸有数の観光地になっている。また、レストランの客単価はサンフランシスコ市内を上回るなど、有数のグルメ地帯へと変貌し、食を求めて世界中から観光客が訪れている。観光資源として「食」のインパクトは大きい。

 (2)東京への農産物販売からの転換

 邑南町も以前は農産物を首都圏に売り込むことに注力していた。これは一定の成果を得たのだが、本格的な躍進がはじまったのは「A級グルメ構想」を掲げて方針を転換してからである。転換のキーワードは「地産地消」である。ただし、邑南町では人口11,500人の町域内の地産地消を考えている訳ではない。

(3)地元と広島都市圏[3]の食の中心を目指して

 邑南町は広島県の中心部から、高速道路を利用すると約1時間の距離にある。(県都である松江までは約2時間)。広島都市圏に含まれるといっても過言ではない。この立地特性から広島方面への宣伝・PR活動には注力しており、同方面からの来訪者が一番多いのも事実である。広島都市圏の人口は約185万人であり、現在はここをメインターゲットに「食」を観光資源の中心に据え「A級グルメ構想」を推進している。

(4)A級グルメの中心、半町営のイタリアンレストラン「素材香房ajikura」

 邑南町が他の自治体と異なるのは、地域内で生産された農産物を料理に昇華させ、来訪者に提供できる場を有している(町役場と一体となった観光協会が中心になり運営されていて、指定管理制度などによる業者への委託ではない)ことである。それがイタリアンレストラン「素材香房ajikura」である。この効果は農業振興、情報発信、人材育成、雇用創出、定住人口の増加など多方面に好影響を及ぼしている。まさに、町を挙げての六次産業化の成功事例と言える。

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5.当初の軋轢と今

 「素材香房ajikura」は、当初「民業の圧迫だ」などの逆風に抗する形で開業が断行された。今、振り返ってみると、他の自治体では途中で頓挫してしまったのではないかと感じている。発案からわずか4ヶ月というスピードで開業に到ったということも邑南町の特殊性(良い意味での)がいかんなく発揮されたのである。邑南町にできて他の自治体にできない訳はないのである。ただ、“胆力のある首長や自治体職員”がどれくらいいるのかが分かれ目であることは間違いない。
 素材香房ajikura」によるマグネット&情報発信効果は、成功するに従って後からついて来たものである。開業に当たっては「5年間で20名の食の起業家の輩出」という、非常に高い定量的な目標を掲げていたが、それを4年で達成し、有機栽培農家の顕在化と新規就農への参入も活発化している。その代表例の農家食堂「京ら屋」は、雑誌「自遊人」の表紙を飾り、今では全国から「食」を求めて訪れる人が絶えない農家&飲食店に成長した。

6.広域連携

 邑南町は内陸に位置していて海がない。そこで、2014年には隣接する浜田市と食に関する連携協定を締結した。これは名前ばかりの連携ではなく、互いの飲食店での海山食材の相互提供などを主軸に置いたものである。自治体同士の協力関係は、互いの言い分、メンツが邪魔をして成立しないなどとよく耳にするが、邑南町と浜田市は食に関して互いに足りないものを補いつつ、両者で相乗効果を享受している稀有な例である。

7.とても恵まれている山梨県

 邑南町から甲府を見ると「何と恵まれているのだろう」と思ってしまう。立地は東京駅・新宿駅から特急で約90分、中央自動車道利用の場合も同程度であり、首都圏は間違いなく集客のためのターゲットゾーンであり、広島都市圏185万人に対し3,000万人を擁し、富士山をはじめとして多くの観光資源(山、水、温泉、歴史など)を有している。また、果実・野菜・米など豊富な食材を産出する地域が周辺に存在し、日本を代表するワイン・ワイナリーの地も近接している。県内市町村との食農の広域連携は大きな効果をもたらすに違いない。
 最後に山梨・甲府にあったらいいなを記して終わりたいと思う。

 ① 山梨ワイントレイン

 ② 甲州ブランド食肉6種類の肉バル[4]&レストランin甲府

 ③ 甲州食材&料理のレトロ飲み屋in甲府

 ④ 山梨県の多くのワインが一堂に楽しめるワインバー

 ⑤ ワインが集中的に楽しめるワイナリーホテル

山梨・甲府は今こそ、食農に特化した広域連携による地域おこしを図るべきである!潜在力は、ものすごく高い!


[1] 香港の観光地になっている山。夜景の名所として有名。

[2] サンフランシスコの北東に位置し、カリフォルニアワインの中でも高級品の産地として知られている。

[3] 広島市と周辺の衛星都市の集合体。中国・四国地方では最大の都市圏。

[4] 英語のBarと書いてスペイン語でバルと発音される。食事とバーが一緒になったような飲食店を指し、ヨーロッパでは地域のコミュニケーションの場となっている。