Vol.200-2 “サクラサク”の向こう側
公益財団法人 山梨総合研究所
研究員 渡辺 たま緒
はじめに
桜咲く春。大学進学が決まり、新生活に心躍らせている学生と、ホッと一息つきながらも引っ越しや新生活の準備に忙しい保護者も多いのではないだろうか。「大学全入時代」の到来が叫ばれて久しいが、近年の山梨県内の大学進学にまつわるデータをいくつか紹介しながら、大学側の生き残り戦略について考察する。
1.18歳人口の推移
国勢調査によると、18歳人口は平成7年には175万6,325人だったのに対し、平成22年には122万3,331人と53万2,994人、30.3%減少している。
一方、山梨県内の18歳人口は平成2年には1万2,819人(男性:6,604人、女性:6,215人)であったが、年々減少し、平成22年には8,867人(男性:4,511人、女性:4,356人)と30.8%減少している(図表1)
図表1 山梨県内の18歳人口の推移
資料 国勢調査
2.山梨県内における4年制大学進学率の推移
一方、山梨県内の高校生の卒業後の4年制大学への進学率は、平成7年に27.1%だったが、平成22年には52.0%と初めて5割を超えた。平成25年には51.3%とやや下がったものの、高卒者の2人に1人が4年制大学に進学している。大学進学率は20年足らずの間に24.2ポイントと急激な上昇曲線を描いた。男女別でみると、男性は23.3ポイント、女性は25.6ポイントの増加である(図表2)。また、図表3をみると、高校卒業者の数は減少傾向にあるなかで、大学進学率はアップしていることがわかる。
図表2 山梨県内における4年制大学進学率の推移
資料 学校基本調査
図表3 山梨県内における高校卒業者数と4年制大学進学率(全体)
図表4 山梨県内における高校卒業者数と4年制大学進学率(男性)
図表5 山梨県内における高校卒業者数と4年制大学進学率(女性)
3.上がる進学率
少子化が進む中で進学率が上昇している要因を検討してみたい。
図表6をみると、4年制大学の数は、平成7年度の565校から年々増加し、平成26年には781校となっている。学部を新設する大学も多く、同様に入学定員数も増加しており、平成4年には47万3千人だったのに対し、平成23年には57万8千人となっている(図表7)。
山梨県内でも山梨学院大が4月に国際リベラルアーツ学部を新設。健康科学大は「看護学部」の平成28年4月に、都留文科大学は平成29年に「国際教育学科(仮称)」の開設を目指すなど、学生の受け皿は拡大する見通しだ(図表7)。
図表6 4年制大学数の推移
資料 学校基本調査
図表7 大学入学定員数の推移
資料 文部科学省 中央教育審議会資料
多くの選択肢があるなかで、山梨県の若者はどこへ進学しているのか。山梨県出身者が4年制大学へ進学した際の大学所在地を示した(図表8)。
進学先の大学所在地が多い上位5位までの都道府県を赤色にした。これをみても分かるように進学先で多い自治体は平成12年から平成26年まで一貫して、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県となっている。
また、上位5自治体の推移をみると、進学先として最も多い東京都では平成12年に33.9%だったのに対し、平成26年でも33.8%とほぼ横ばいとなっている。しかし、神奈川県では平成12年に14.1%だったのに対し、平成26年では12.0%と2.1ポイント減少した。埼玉県では、平成12年に9.3%だったのに対し、平成26年には5.6%と3.7ポイント減少、千葉県では平成12年に6.5%だったのに対し、平成26年には5.1%と1.4ポイント減少している。
一方、山梨県をみると、平成12年に19.9%だったのに対し、平成26年には26.6%と6.7ポイント増加している。他県が減少あるいはほぼ横ばいで推移する中、山梨県だけは増加傾向となっているのだ(図表9)。
図表8 4年制大学数の推移
(%)
大学の所在地 | H12 | H17 | H22 | H23 | H24 | H25 | H26 |
合計 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
北海道 | 0.7 | 0.9 | 0.6 | 0.6 | 0.4 | 0.7 | 0.9 |
青 森 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.0 | 0.0 | 0.1 | 0.0 |
岩 手 | - | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.1 | 0.1 | 0.1 |
宮 城 | 0.9 | 0.7 | 0.9 | 0.9 | 0.7 | 0.6 | 0.6 |
秋 田 | 0.1 | 0.1 | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 0.3 |
山 形 | 0.2 | 0.2 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.2 |
福 島 | 0.6 | 0.5 | 0.3 | 0.4 | 0.2 | 0.3 | 0.2 |
茨 城 | 0.9 | 0.9 | 1.0 | 0.9 | 0.9 | 0.9 | 1.0 |
栃 木 | 0.7 | 0.7 | 0.4 | 0.5 | 0.4 | 0.6 | 0.4 |
群 馬 | 0.8 | 0.9 | 0.9 | 0.8 | 1.1 | 1.3 | 1.2 |
埼 玉 | 9.3 | 6.8 | 6.4 | 4.9 | 5.4 | 5.7 | 5.6 |
千 葉 | 6.5 | 6.6 | 3.6 | 5.2 | 5.1 | 4.9 | 5.1 |
東 京 | 33.9 | 34.1 | 32.2 | 33.0 | 31.6 | 33.3 | 33.8 |
神奈川 | 14.1 | 12.1 | 14.9 | 13.4 | 13.2 | 12.7 | 12.0 |
新 潟 | 0.5 | 0.5 | 0.4 | 0.5 | 0.6 | 0.5 | 0.7 |
富 山 | 0.3 | 0.2 | 0.3 | 0.2 | 0.2 | 0.3 | 0.1 |
石 川 | 0.4 | 0.6 | 0.3 | 0.6 | 0.5 | 0.6 | 0.4 |
福 井 | 0.3 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
山 梨 | 19.9 | 24.4 | 27.8 | 27.2 | 28.5 | 26.3 | 26.6 |
長 野 | 1.3 | 1.7 | 2.4 | 2.7 | 2.6 | 2.2 | 2.3 |
岐 阜 | 0.2 | 0.3 | 0.2 | 0.2 | 0.3 | 0.4 | 0.3 |
静 岡 | 3.1 | 2.4 | 1.9 | 2.5 | 2.6 | 3.1 | 2.7 |
愛 知 | 1.1 | 1.0 | 1.1 | 1.1 | 0.8 | 1.3 | 1.2 |
三 重 | 0.1 | 0.0 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.0 | 0.0 |
滋 賀 | 0.4 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.3 | 0.1 | 0.2 |
京 都 | 1.2 | 1.2 | 1.4 | 1.2 | 1.1 | 1.3 | 1.0 |
大 阪 | 0.6 | 0.7 | 0.7 | 0.9 | 0.7 | 0.9 | 0.9 |
兵 庫 | 0.3 | 0.4 | 0.5 | 0.5 | 0.8 | 0.5 | 0.6 |
奈 良 | 0.1 | 0.1 | 0.2 | 0.1 | 0.2 | 0.1 | 0.1 |
和歌山 | 0.1 | 0.0 | 0.1 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.1 |
鳥 取 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.1 | 0.1 | - | 0.1 |
島 根 | 0.0 | 0.0 | - | 0.1 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
岡 山 | 0.2 | 0.2 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.0 | 0.1 |
広 島 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.2 | 0.1 | 0.2 |
山 口 | 0.1 | 0.2 | 0.0 | 0.1 | 0.0 | 0.1 | 0.0 |
徳 島 | 0.0 | 0.1 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
香 川 | 0.1 | 0.1 | 0.0 | - | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
愛 媛 | - | 0.1 | - | 0.0 | - | 0.0 | 0.0 |
高 知 | 0.0 | 0.1 | 0.0 | 0.0 | 0.1 | 0.0 | 0.0 |
福 岡 | 0.2 | 0.5 | 0.2 | 0.1 | 0.1 | 0.3 | 0.3 |
佐 賀 | - | 0.1 | - | 0.0 | 0.0 | 0.0 | - |
長 崎 | - | 0.0 | - | 0.0 | 0.1 | 0.0 | 0.0 |
熊 本 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.3 | 0.2 | 0.1 | 0.1 |
大 分 | 0.1 | 0.1 | 0.0 | 0.1 | 0.0 | 0.0 | 0.1 |
宮 崎 | 0.1 | 0.0 | - | 0.1 | 0.1 | 0.0 | - |
鹿児島 | 0.2 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | - | 0.0 | 0.0 |
沖 縄 | 0.0 | 0.1 | 0.1 | - | 0.0 | 0.0 | 0.1 |
資料 学校基本調査
図表9 山梨県出身者の進学先大学所在地(上位5都県)における割合の推移
資料 学校基本調査
4.大学の学生獲得競争は激化
一方、大学の中には定員割れとなる大学も相次いでいる。日本私立学校振興・共済事業団の調査によると、平成26年春の4年制私立大学入学者が定員割れとなったのは約2校に1校の46%に上るという。厳しい淘汰の波にさらされる中で、大学側は特色ある学校づくりに余念がない。
文部科学省は平成15年から、「特色ある大学教育支援プログラム」(平成20年度からは「質の高い大学教育推進プログラム」に統合)を実施し、特色があり優れている大学教育システムを選定し、そのシステムに対し財政支援を行うなどの支援策に取り組んだ。
そのようななか、平成26年の大学志願者数で、近畿大学が初の1位となった。首都圏以外の大学での1位は初めてであり、注目を集めた。
ここでの“売り”は「近代マグロ」と「エコ出願」という広報戦略だ。同大学では平成14年に養殖施設で人工ふ化したマグロの完全養殖に成功し、「近畿大学水産研究所」として東京や大阪で飲食店を出店、知名度を上げた。平成26年には大手メーカーと組み「近畿大学水産研究所監修 近代マグロ使用 中骨だしの塩ラーメン」を発売。味の良さとカップラーメンの蓋に“卒業証書”を付けるという大学らしい遊び心も手伝い、反響を呼んだ。
また、大学出願をネットのみにする「エコ出願」を全国で初めて行ったほか、平成26年度から入学式を近畿大学の卒業生で音楽プロデューサーのつんく♂さんがプロデュースするなど、様々な手法で若者を引き付けている。
地域性も含めた大学特性を活かし、大学の個性を打ち出す取り組みは、他大学でも行っているが、近畿大がここまで躍進したのは情報発信力の成果なのではないだろうか。
前述のとおり山梨県内では大学進学における地元回帰の傾向が出ているなか、若者をいかに地域の大学へ踏みとどまらせるか。また、県内各大学のユニークな取り組みを全国へ情報発信し、いかに外から人を呼び込むか。これが淘汰の波から逃れ、大学ひいては地域を活性化させる鍵となるのかもしれない。
<参考資料・サイト>
文部科学省
学校基本調査
近畿大学
近畿大学水産研究所