備えがあれば・・・


毎日新聞No.434【平成27年4月3日発行】

 4月。新しい年度を迎え、入社式や入学式が開かれる時期である。これらの行事の開催前に、予行演習を実施する組織もあるだろう。予行演習では、式の進行確認を始め、場合によっては不測の事態を想定し、対処方法を予め実践しておくこともあるのではないだろうか。
 大小問わず、私たちは行動を起こす前に予測を行う。例えば、仕事のスケジュールを立てる、景気の動向を予測するといった行為などが挙げられる。この予測行動の重要性について言及している資料を、最近目にした。

 公益財団法人交通事故総合分析センターでは、事故に直接関与した四輪(特殊車等を除く)運転者のうち、より過失の程度が重い運転者の操作不適事故についての分析結果(以下、レポート)を公表している。レポートによれば、操作不適事故件数は、平成16年から平成25年の10年間の推移をみると、平成25年は41,805件で平成16年から16,046件減少している。しかし、事故原因を形態別にみると、近年は「ペダル踏み間違い」は横這い、「ブレーキ操作不適」は増加に転じている。
 ところで、操作不適事故はどのような状況で起こるのであろうか。レポートでは、「慌て・パニック」が最も影響を及ぼす要因であるとしている。操作不適のあった運転者の多くは、カーブや交差点などを認知したとき、「カーブはもっときついかもしれない」、「対向・交差車両があるかもしれない」などの危険予測をせず、特に何も考えることなく、漫然と運転しているとのこと。そして、何らかの危険を認知し、その危険を回避する際に慌てたり、パニックに陥ったりして運転操作を誤り、事故を起こしているという。しかし、このように慌てたり、パニックに陥ったりするような危険な状況になる前に、道路交通環境に応じた速度で走行し、適切な予測運転をしていれば多くの操作不適事故は防ぐことができたと推測されるそうだ。

 「備えあれば憂いなし」という諺がある。あることをうまく行うために、前もって仕度するという意味である。私たちドライバーはハンドルを握る際、「危険予測」という心の備えも忘れないようにしたいものである。「あの時備えておけば・・・」と後悔する前に。

(山梨総合研究所 主任研究員 安部 洋)