五月病になる前に
毎日新聞No.435【平成27年4月17日発行】
強烈な歯痛で歯科医院に駆け込んだ。口の中を念入りに診てもらっても、レントゲンを撮っても、歯にも歯茎にも異常はない。疲れやストレスで、痛みが出ることがあるのだという。
ストレス社会という言葉に耳慣れてずいぶん経つ。ストレスにさらされない人など、ほとんどいないのかもしれない。インターネットでストレスと検索すれば、あっという間に膨大な数の情報が現れ、書店にはイライラを溜めない方法といったハウツー本等であふれている。この「魔」から逃れようと、多くの人が必死でもがいている姿を垣間見ているようだ。
ストレスすべてが悪いわけではない。適度なものなら生産性を上げるとも言われている。しかし、一定の限界を超えた時、心身に悪影響を及ぼすのだそう。現代病とも言われる「うつ病」もその一例だ。そしてその病は時にして最悪な結果にもつながる。
内閣府の統計によると平成26年の自殺者は全国で25,427人。原因として最も多かったのは「健康上の理由」で、その内訳での最多は「うつ病」だった。
青木ケ原樹海を有する山梨県は自殺者が多いことでも知られる。自殺者の発生地ベースでは平成19年以降、自殺死亡率が47都道府県中ワーストを記録。自殺者の居住地ベースでも、自殺率は高い部類に属する。山梨県は平成24年度に県自殺防止対策行動指針を作成、今月1日には、山梨県福祉プラザ内に自殺防止センターを開所し、対策に本腰を入れ始めた。
7日に行われた開所式後、関係者は「最終目標は自殺件数を減らすことではなく、全体的にメンタルヘルスを向上させ、生きやすい社会にすること」と話した。「重要なのは、困ったときに相談できる場所があり、相談するという行動が取れるかどうか」なのだという。
身体が発するちょっとしたSOSを自分自身が見逃さないこと。そして身近であれ公的機関であれ、安心して打ち明けられる人や場所を見つけておくこと。歯痛で歯医者へ行くように、困ったときにはしかるべき場所に相談に行くのが当たり前と思える環境づくりこそ、メンタルヘルス向上への近道なのかもしれない。
(山梨総合研究所 研究員 渡辺たま緒)