Vol.201-1 「日本の農産品を香港へ」商流づくりの現場より


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高寶創意有限公司 Global Recipes Co., Ltd.(香港)
日本支店マネージャー 本田 純

1.はじめに

 弊社(グローバルレシピズ)では日本から香港、及びその近郊に進出した日系企業様(主に飲食チェーン)に対する資材と食材の供給と新たに進出を検討している企業様への開業支援を行っています。
 直近5~6年は円高局面が続いたため、多くの商材は日本以外からの調達が中心となっていましたが、昨年末あたりから潮目が変わり、1米ドル=120円前後の為替となり、日本からの調達機運が飛躍的に高まってきました。日本の安心・安全な食材、信頼性の高い製品を買おうとする動きが高まっているのです。
 現在グローバルレシピズでは、これを機会に日本に調達担当者を置き、日本全国から、消費地のニーズに合った商材調達を強化しています。

2.日本米の販売について

2014年12月に調べた香港市内の庶民的なスーパーで売られている日本米の価格は以下のようになっています。

銘 柄

重 量

香港ドル

日本円換算

北海道産 ゆめぴりか(真空パック)

2kg

$93

1,480円

ブレンド米 あかふじ

2kg

$73

1,150円

石川県産 こしひかり

2kg

$83

1,330円

※1香港ドル=円換算で16円

 香港は自由貿易港ですので、関税がなく通関もシンプルです。最近は米穀の保管条件が厳しく指導されるようになり、以前よりも流通上の制限は厳しくなっていますが、現状において他港と比較しても輸入商品を低コストに取引できる地域です。それでも日本からの輸送コストや香港での諸費用、マージンなど考慮すると、産地出荷価格は現地売価の3割以下になってしまいます。
 例えば、北海道産「ゆめぴりか」は1キロ220円、石川県産「こしひかり」は1キロ200円、ブレンド米は1キロ172円以下で買い付けなければなりません。中華圏では北海道産はブランド力が高いため「ゆめぴりか」は真空包装の手間をかけ、いちばん高く売られています。
 日本の食卓で消費する米の価格と比較してみると、前述の中間費用が発生する分、小売価格はだいぶ割高になっています。私たちの漠然としたイメージでは、海外では日本食ブームも追い風になり、おいしい日本のお米がどんどん売れているように感じてしまいます。しかし、日本米ニーズは確実にあるのですが、現実にはこのようなギリギリの価格設定でも、大量に売れている訳ではありません。
 現状では、生産者からの買い取り価格をみても分かるように、日本のお米をこれ以上安く売るのは困難です。パッケージの絵柄を工夫する程度では安い中国産やタイ産に太刀打ちできません。売り方をもっと工夫する必要があります。例えば、① 真空包装を徹底し、脱酸素剤を封入する。② できる限り小さなパッケージにする。③ 日本米を美味しく調理するレシピをつける。④ 産地、銘柄でどのように味が違うのか特長をわかりやすく表示する。⑤ どの銘柄をどんな料理に合わせるべきか具体的にアドバイスする など、できることはたくさんあります。そこで現在私たちは、専用の炊飯器具や炊飯用軟水を贈答セットにして販売することを検討しています。
 写真のような2kgパックの販売では、棚の下段に置かれてしまい、売り場で目立たなくなってしまいます。また、香港の人たちはバスや地下鉄、トラム(路面電車)といった公共交通機関を利用することが多く、重い荷物の手持ちは敬遠されます。日本のお米については、価格面、売り場、買い物習慣などを考えると、違う切り口の販売戦略が求められています。

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石川県産こしひかりブレンド米あかふじ北海道産ゆめぴりか

〈香港で販売されている日本米〉

3.黒毛和牛の販売について

 香港と境界を接する深圳では、近年焼肉やしゃぶしゃぶレストランが賑わっています。アメリカ産牛肉はBSE発生以来、中国本土へは輸出することができなくなっていますが、米国農務省経済調査局などのレポートから本土へ通ずる流通ルートがあることが見て取れます。

図2 牛肉輸出量の推移

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資料:USDA/ERS(枝肉重量ベース、子牛肉を含む)

 米国産牛肉の輸出量で香港は日本に次いで2番目の輸出先です。香港の人口は約600万人ですので、月間2万トン近くのUSビーフを消費できる筈はありません。香港に着いた牛肉の多くは中国本土に入り込み、消費されています。現地のしゃぶしゃぶ店で特に人気の部位は、ショートプレートというスジと脂が層になったバラ肉です。この部位は日本の牛丼チェーン店でも使われていて、ブロックでは硬く感じるスジをスライサーで薄切りにし、加熱することで食べやすくなります。現状、中国のしゃぶしゃぶ店と日本の牛丼店でショートプレートの争奪戦が起きていて、価格が急騰しています。しかし、今年初めから米国西海岸の港湾労働者のストライキや中国の政治抗争の影響で、ほとんどのコンテナが香港の保税倉庫に止まったままとなり、通常の保存形態であるチルドビーフでは熟成が進みすぎるため、冷凍保存への対応が必要になっていますが、中には廃棄になったコンテナもあります。冷凍保存、廃棄のどちらにしてもコストとロスが増大し、大きな問題になっています。昨年末、USビーフ調達の相談がありましたが、関わらずにいて正解でした。
 日本でも2001年にBSEが確認されたため、肉牛を香港へ輸出するには、輸出検疫証明書が必要になります。指定の屠畜処理場で、他の区画と完全に分離された専用ラインで処理されなければなりません。許可された処理施設は2015年4月時点で、国内に10カ所あります。輸出牛肉のランクとしては、ようやく月齢制限は撤廃されましたが、少量販売のために専用処理場まで牛を運搬し、処理後の肉を厳重にパッキングするなど非常に手間がかかるため、いわゆる肉質A4等級以上の高価格品が取引の中心となります。
 年末年始に、シンガポールの日本食店から仲介業者を通じて引き合いの相談がありました。国内では必要な部位を必要なだけ、できるだけ安く売ってくれという商習慣になっていますが、この時は比較的安価で肉量の少ないネックと肩の大量注文を依頼されましたが、他の部位の売り先が確保できなければ、ビジネスパートナー間でのメリットを分かち合うことはできません。現地の小売価格を多少値引きして(シンガポールでの九州産和牛肩ロースは、2,700〜2,800円/100g)ご提示し、丁重にお断りしました。ぜひ一頭買いでお願いします。

2014年11月時点での香港の高級スーパーにおける牛肉の店頭価格です。

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※1香港ドル=円換算で16円

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山形産・鹿児島産黒毛和牛 豪州・米州・加州産牛肉

〈高級スーパーで冷蔵ケース内の牛肉〉

 和牛業界では、肉用子牛を出荷する農家が補助金なしでは常に赤字の状態にあると言います。さらにその子牛を買い入れ(最近の統計では1頭平均60万円)、肥育して出荷するまでの24ヶ月を超える期間に必要な飼料(牧草のほか、海外から輸入される穀物系飼料)が約3.5トン、その他に労働費、物財費などのコストがかかります。平均的な枝肉重量450kgを取るために重量ベースで7倍以上の飼料が消費されます。よい等級がもらえないと、利益が吹き飛んでしまう収支状況になっています。
 2008年~2010年に国の補助事業で香港、マカオへ黒毛和牛の営業に同行したことがあります。その当時、輸入が禁止されている日本の黒毛和牛が、デパートの店頭にならんでいて驚いた記憶があります。ハンドキャリーなどで持ち込まれていると思われます。価格差は今よりも大きく、超高級牛肉として売られていましたが、あまり売れずショーケースでの在庫期間が長期に亘っているためか熟成が進みすぎているように見えました。
 私たちは正規の処理を経た大手の供給ルートを確保し、サンプルを持ち込みました。Food Expoと外務省主催の商談会に出展し、香港やマカオの高級ホテルへの売り込みにも行きました。唯一マカオの日系ホテルがよく話を聞いてくれましたが、成約には至りませんでした。
 六本木のグランドハイアットホテルで働いていたクリストファー氏が独立して、香港の繁華街ランカイフォンでイタリアンステーキ店をプロデュースされていました。日本の黒毛和牛もリストされていましたが、日本贔屓な彼でも、売れ筋はKOBEビーフというオーストラリア産黒毛和牛だと話していました。マカオのカジノホテル「ヴェネチアン」では、価格差ほどのメリットが見いだせないと厳しい意見をいただきました。
 そのころ既に、1玉10,000円のメロン、1個3,800円の梨、1,000円を超えるリンゴや柿を並べた公設アンテナショップが世界各都市に設置されましたが、成功事例を聞いていません。

4.おわりに

 「日本の農産物は品質が良いから高級マーケットで売れる」というイメージが刷り込まれているように思います。世界各地で展開する見本市や試食会イベント、アンテナショップ展開は、単なる自慢話のようで、日本国内向けのパフォーマンスや誰かの仕事のための仕事づくりに過ぎない印象です。
 農産物の輸出大国であるオランダでは、農林水産省と経済産業省を一体化してしまい、行政による技術普及制度も廃止。民間のコンサルタント会社が農業技術の開発効率を上げ、成果を出していると聞きます。公共の青果物卸売市場は廃止されましたが、オランダの花卉市場は世界中のバイヤーを集めています。
 世界で勝てるマーケット開発に真剣に取り組んでいる国では、大学や国内外の企業、研究機関と産官学の連携で、市場本位の農業(産業)の下支えをしています。計画経済国家を運営するような仕組みのもとでの農業は、いずれ淘汰されてしまいます。今ある良い仕組みを利用しない手はありませんが、本質を見極め、その衰退に巻き込まれないような準備が必要と考えます。