Vol.201-2 再生可能エネルギーの導入拡大に向けて


公益財団法人 山梨総合研究所
調査研究部長 中田 裕久

はじめに

 EUでは2010年以降、新たな雇用の創出に向け、労働者需要が見込まれる環境・エネルギーや健康医療、IT分野での経済成長と雇用拡大を目指している。日本でも同様の分野での経済成長を目指しているが、その目標像、具体策は控え目であり、明確ではない。
 本稿では、日本やEUの再生可能エネルギーの導入動向を報告する。

1.新たな成長戦略

 アベノミクスは大胆な金融政策、機動的な財政出動、新たな成長戦略の3つである。これまでの改革の成果及び新たな取り組みとしては以下のようである。

  • 農業分野:米の生産調整の見直しなどの農政改革の実施。農業水産物・食品の輸出。
    今後は農業分野の競争力強化のための農協改革などを実施。
  • 医療・健康分野:研究開発の司令塔機関(日本医療研究開発機構)の設置、再生医療を実用化するための改革実施。
    今後は患者申出療養などの保険外併用療養制度を創設。
  • エネルギー分野:60年ぶりの抜本的な電力システム改革に着手。
    今後は発送電分離を含む一連の改革を2020年に完了。
  • 国際展開・観光分野:インフラ受注に向けたトップセールス、ASEWAN諸国等のビザ発給緩和、今後は長期観光ビザの実現、免税店一万規模へ倍増、免税対象品目の拡大など

 こうした改革を推進する手段が国家戦略特区(国家戦略特別区域法)であり、国際ビジネス拠点、医療イノベーション拠点、農業産業の実践拠点などを形成するための特区を成長戦略の突破口として大胆に規制改革を進める。
 また、民間組織である日本創生会議の超人口減少社会に対応したストップ少子化・地方の元気戦略の提言を受け、今後、アベノミクスを全国津々浦々に普及するために新たな地方活性化に向けて、政府一体となって推進することとしている。その第一歩が地域再生法の改正、国及び全国自治体による総合戦略の立案・推進である。

2.電力システムの抜本的改革

 電力システムの改革の目的は安定供給、電力料金の抑制、需要家の選択肢の拡大・事業機会の拡大である。
 「電力システム改革に関する改革方針」(平成25年4月2日閣議決定)において、①広域系統運用の拡大、②小売及び発電の全面自由化、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保という3段階からなる改革の全体像が示され、第1、第2段階の実施に必要な措置を定めた電気事業法改正案が成立。
 第1段階として、全国規模での電力融通を指揮する新組織「電力広域的運営推進機関」(広域機関)が4月1日に発足。全国規模で電力需給を監視し、電力会社間の融通を指揮するなど、停電を防ぎ安定供給の「司令塔」の役割を担う。広域機関には、大手電力会社や新規参入の電力事業者(新電力)など電気事業法で加盟を義務付けられている約600社が参加する。第2弾は小売り完全自由化で平成27年を目途に実施、第3弾の発送電分離は平成30年から平成32年(2020年)を目途に実施予定としている。

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出典:電力システム改革が創り出す新しい生活とビジネスのかたち(経産省)

3.長期的エネルギー需給見通し

 エネルギー基本計画(平成26年4月)では、原発依存度についは、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる。その方針の下で、我が国の今後のエネルギー制約を踏まえ、安定供給、コスト低減、温暖化対策、安全確保のために必要な技術・人材の維持の観点から、確保していく規模を見極めるとしている。
 経産省が「長期エネルギー需給見通し小委員会」(委員長・坂根正弘コマツ相談役)で示した電源構成案によると、原発の割合は20~22%となり、東日本大震災前の10年間の平均(約27%)よりは低くした。発電コストが安く、温室効果ガスの削減にもつながるので、少なくとも2割は必要というのが経産省の考え方。経産省案が、そのまま政府案になる見通し(朝日新聞4月29日)。

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出典:朝日新聞4月29日

 再生可能エネルギーの比率は原発を上回ったが、30年以降のエネルギー政策の課題は検討されずじまい。長期的な戦略を欠いた政府案といえ、エネルギー基本計画で掲げた「原発依存度の低減」と「再生エネの最大限活用」への本気度に疑問符がついた。
 東京電力福島第1原発事故後、原発停止や円安に伴う火力発電の燃料コストの増加で、2013年度の電気料金は家庭用で19.4%、産業用で28.4%上昇した。しかし、電力中央研究所の試算では、原子力規制委員会に再稼働を申請中の原発21基が動いても、電気料金は家庭用で3.8%、産業用で5.5%しか下がらない。そのなかで、電力コスト増の原因と批判を浴びたのが再生エネ固定価格買い取り制度だ。2015年度の買い取り費用は約1兆3200億円で、すべて電気料金に上乗せされている。経団連は「再生エネ比率が低いほど経済に好影響を与える」と、買い取り費用の抑制を訴えた(毎日新聞、4月29日参照)。
 なお、2010年度の原子力の構成比は29%程度であり、2030年度の20~22%は大震災前に比べると控えめな目標だ。
 4月30日の報道では、日本の温室効果ガス排出削減目標がようやく決まり、2030年度までに「13年度比で26%減」というものである。基準年を排出量が多い13年度を基準とすれば、削減の目標値を0.6ポイント大きく見せることができるというのが理由(毎日新聞4月30日参照)。

4.再生可能エネルギーの導入状況

 日本のエネルギー自給率は主要国の中で高いとは言えない。IEAは原子力を自給率に入れているが、原子力を除くと下位から3番目である。また、2012年には原子力が運転停止となったため、6%に落ち込んでいる。
 欧州諸国や米国は地球温暖化対策からも、エネルギー安全保障や産業戦略上からも、再生可能エネルギーの導入と技術開発に取り組んでいる。安全保障の上では、欧州はロシア依存、米国は中東依存からの脱却である。
 エネルギー転換には省エネ規制とともに、固定価格買取制度(FIT)などの再生可能エネルギーの利用促進策と電力自由化が不可欠である。ドイツでは2000年からFITが、1998年には電力の全面自由化が始まった。洋上風力発電から太陽光発電、木質バイオマスなどのエネルギー分野で、大企業から地域企業が参入する成長産業になった。日本のFITの導入は東日本大震災後の2012年に導入され、電力自由化は2015年から開始予定である。この10数年の間で、ドイツの再生可能エネルギーに関連する科学技術や経済的・法制的な枠組みづくりが大きく進展している(安田陽、世界の常識としての再生可能エネルギー、世界5月号、参照)。

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図-各国のエネルギー自給率と原子力利用の関係(エネルギー白書2011)
(出典:IEA Energy Balances)

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図-日本のエネルギー国内供給構成及び自給率の推移(エネルギー白書2014)
(注1)IEAは原子力を一次エネルギー自給率に含めている。
(注2)エネルギー自給率(%)=国内産出/一次エネルギー供給×100
(出典)IEA「Energy Balances of OECD Countries 2013 Edition」を基に作成

5.水素の活用

 電力系統に大量の風力発電のような再生可能エネルギーを接続する場合、送電網の増強、蓄電が必要である。リチウムイオン電池やNAS電池などの2次電池は大量の電気を貯槽する場合、容量、コスト面で問題となる。そこで、ドイツでは水を電気分解し、水素として貯蔵、燃料電池車への利用や既存のガス管を通じて一般ガスとして利活用するプロジェクトが進んでいる。

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図-水の電気分解から生じる水素の利用転換
(出典:再生可能エネルギーの大量導入を支える水素 大和総研 2014年10月28日)

 日本でも近年、水素利用のプロジェクトが始まっている。北海道では2013年に風力発電による水素製造の実験が行われている。また、川崎市と東芝は太陽光発電設備、蓄電池、水電気分解装置、燃料電池を組み合わせた自立型エネルギー供給システムについて2015年4月から2020年にかけて実証試験を行う。太陽光発電を使い水素を発生させ、タンクに貯蔵。燃料電池を介して、災害時には300人の避難者に約1週間分の電気と温水を供給するというもの。
 Hondaは、岩谷産業株式会社と共同で、水素製造から充填までの主要構成部位を世界で初めてパッケージ型に収納し、10フィートコンテナと同等サイズにまで小型化した「スマート水素ステーション」を開発した。設置工期約1日(基礎工事除く)という短期設置を実現している。2014年9月18日、さいたま市、Honda、岩谷産業と共同で「スマート水素ステーション」を設置した。

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水素貯蔵装置・北海道(出典:フレインエナジーHP)

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地産地消を実現する水素ステーション(出典:Honda HP)

6.今後に向けて

電力供給における再生可能エネルギー電力の割合は、大分県(26.4%)を筆頭に秋田県、富山県、青森県、長野県(17.7%)と続き、山梨県(9.8%)は13位である。山梨県は、小水力が7割、太陽光が3割程度と小水力が主流である。
 FITの導入以降、太陽光発電はバイオマス、地熱、風力に比して事業化のための事前調査、整備費・期間などが有利なため、導入が進んでいる。山梨県は他県に比して、電力供給に占める太陽光の割合が高い。
 電力と熱の供給における再生可能エネルギーの割合は、大分県(22.9%)を筆頭に、秋田県、富山県、長野県、青森県と続き、山梨県(7.9%)は12位である(永続地帯2013年版報告書)。全体的に、再生可能エネルギー熱の利用は進んでいない。
 山梨県では、省エネの推進、自然景観にマッチした太陽光発電や小水力発電の推進とともに、太陽熱、木質バイオマス熱の利用を進め、エネルギー自立度を高めていくことが望まれる。また、各自治体の総合戦略の中で、具体的な「しごとづくり」として再生可能エネルギーの検討を期待したい。

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出典:永続地帯研究会編「永続地帯2013年版報告書」

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出典:永続地帯研究会編「永続地帯2013年版報告書」

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図-太陽熱集熱パネル(東京ガスニュースレター)