Vol.202-1 大学による「知の拠点」から大学連携による 「価値創造の拠点」を目指して
山梨県立大学特任教授
大学コンソーシアムやまなし事務局
佐藤 文昭
1.はじめに
国の「地方創生」により大学に求められる社会貢献の役割が大きくなる中で、地域と大学との関係が大きな変化の時を迎えている。こうした状況について、山梨県内12大学の連携組織である特定非営利活動法人大学コンソーシアムやまなし事務局(以下、大学コンソ)の立場、そして大学の地域貢献に携わる立場から考えてみたい。
2.地方創生と大学改革を取り巻く経緯
平成24年6月に文部科学省は、我が国が直面する課題に対して大学をこれからの社会の改革を推進するためのエンジンとして位置づけ、「大学改革実行プラン」を策定した。その中に、新しい大学づくりに向けた改革の方向性のひとつとして「激しく変化する社会における大学の機能の再構築」がある。地域再生の核となる大学づくり(COC(Center of Community)構想の推進)を提唱し、これを受けて、平成25年度から2カ年にわたり「地(知)の拠点整備事業」の公募が行われ、山梨県立大学(平成25年度採択)及び山梨大学(平成26年度採択)を含む、全国77件がそれぞれの地域において活動を行っている。この事業では、大学全体として地域を志向した教育・研究・社会貢献を推進することを目的とし、そのために地域課題と大学のシーズとのマッチングと、そのための教育改革を推進している。
平成26年12月には「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定され、人口減少と地域経済縮小を克服することを目指し、多様な政策パッケージが提示された。その中に、地方における自県大学進学及び学卒者の地元定着を促進することが掲げられている。平成26年度における山梨県の人口移動は2,564人の転出超過であり、そのうち20~24歳が75%となる1,933人となっていることから、大学卒業後に県外就職のために人口が流出しているとみられる[1]。山梨県における若年層の県内定着を推進することは、活力ある地域づくりを進める上でのひとつの課題となると考えられる。
3.COCからCOC+(プラス)へ
今年度文部科学省は、地方創生を推進するために、新たに「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業~地(知)の拠点COCプラス~」を開始した。これは、文字通り、これまでの地域再生の核としての大学づくりに「プラス」して、地域の自治体や企業・団体と協働し、地域における新たな雇用創出や学卒者の地元定着率の向上を目指す内容となっている。それを、自治体が策定する地方版総合戦略に盛り込むとともに、数値目標を明記した協定書を交わすなど、総合戦略に対して実質的に貢献することが求められている。
大学コンソでは、今年3月に地方創生に向けた取組を検討するための「地方創生検討ワーキンググループ」を立ち上げ、その中でCOC採択校である山梨大学を中心に、県内大学との連携によりCOCプラスへの取組に向けた検討を進めている。
本事業に求められるのは、学卒者の地域定着とそれに資する新たな雇用創出であり、特に大学生のやりがいの受け皿となることが重要である。株式会社マイナビの「2015年卒マイナビ大学生就職意識調査」によると、学生による企業選択のポイントとして「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」との回答が全体の4割で最も高く、また大手企業と中堅・中小企業の志向についても、必ずしも大手企業志向ではなく、「やりがい」や「やりたい仕事」が出来ることが、企業選択の上で重要視されていることが分かる[2]。志望職種では、文系学生が「営業企画・営業部門」及び「総務・経理・人事などの管理部門」、理系学生が「商品企画・開発・設計部門」や「研究・開発部門」を希望する割合が高くなっている。
大学卒業後の地域への定着率を高めるという目標を掲げたとしても、それは、学生自らが地域で働くことにやりがいを見いだすことが最も重要であるが、そのための場や機会をどのように設けていくかが大きな課題となる。
4.地方創生における大学の役割とは何か?~私見として
大学は、地方創生、特に雇用創出に対してどのような貢献が可能であろうか。
高等教育機関としての大学が担うべき重要な役割とは、地域において新たな事業を生み出していくことの出来る多様な人材を育てていくことである。そのために、これからの地域の担い手となる学生に対する教育の一環として、行政や事業者とともに地域における調査から事業企画の立案、さらには事業の実施まで主体的に関わっていくことの出来る実践的なカリキュラムを取り入れていくことが重要である。これまでも、PBL(Project-Based Learning)やサービスラーニングなどの主体的な学びの場が設けられてきたが、今後、さらに地域での就職や起業を視野に入れた学びの機会を設けていくことで、地域で働くことの意義やその可能性を見いだすとともに、地域において自らのキャリアを思い描くことの出来る仕組みづくりが期待される。
また、新たな雇用を創出することは、新たなビジネスを生み出していくことが重視されるだろう。しかしながら、「なに」を「どのように」行うか考える前に、「なぜ」それが必要なのか、だれにとってのどのようなニーズに応えるものなのかを問う必要があると考える。
例えば、ふるさと回帰支援センターによる2014年の「ふるさと暮らし希望地域ランキング」で、山梨県はふるさと暮らし希望の第1位となったのは広く知られるところである。まち・ひと・しごと創生総合戦略においても、高齢者の地方への移住の受け皿として、国などを中心にCCRC(Continuing Care Retirement Community)の検討が進められている[3]。しかしながら、今、地域に求められるのは、「CCRCありき」の議論ではなく、その対象となる東京圏の高齢者がどうして山梨に移住したいのか、山梨でどのような老後の暮らしを求めているのかといった彼らが地域に求める価値をしっかりと把握し、それに基づいて山梨の地域資源を活かした豊かな暮らしを提案していくことである。「人」を中心に据え、新たな価値創造に資する多様な知を提供していくこと、これこそが、大学が担うべき重要な役割のひとつではないだろうか[4]。
5.まとめ
現在、大学コンソのワーキンググループでは、大学シーズを活かした地方創生に資する検討テーマとして、「ツーリズム」、「ものづくり」、「子育て支援」及び「高齢者支援(CCRC)」を設定し、県及び連携先となる市町村と具体的な連携内容や目標設定などについて協議を進めている。
今後、この議論を通じて、県や各市町村が策定する総合戦略と連携を図りながら、地域の「知の拠点」から地域人材のための「キャリアデザインの拠点」、そして新たな「地域の価値創造の拠点」に向けた基盤づくりを支援していきたいと考えている。
[1] 「住民基本台帳人口移動報告」における「年齢(5歳階級),男女別転入超過数-全国,都道府県,市区町村(平成26年)」による。
[2] http://saponet.mynavi.jp/enq_gakusei/ishiki/data/ishiki_2015.pdf
[3] 日本版CCRCについては、国の有識者会議資料を参照。
[4] 近年、人間を中心としたアプローチは、「デザイン思考」などで注目されている。