Vol.202-2 自治体の合併効果を探る
公益財団法人 山梨総合研究所
専務理事 村田 俊也
1.山梨県内自治体の合併の現状
山梨県では、「平成の大合併」として、15年3月1日に旧南部町と旧富沢町が合併したのを皮切りに、多くの市町村で合併が実施されてきた。この結果、新南部町発足直前時点で64あった市町村(7市37町20村)は、現在、27市町村(13市8町6村)に集約された(図表1)。
今回は、多くの合併が行われた平成17~18年から約10年を迎えることから、合併の効果を人口と産業、経済力の面から探ってみることにしたい。
図表1 合併の状況
「山梨県HP 県内の合併の動き(市町村合併地図)」
2.合併のメリット・デメリット
合併のメリット、デメリットは、一般的にはどのようなものだろうか。
自治体が合併すると、規模が拡大し、さまざまな面で効率が良くなることが最大のメリットであろう。たとえば、合併により人口が増えると、税収などが増加し財政規模が拡大することから、大型事業の実施や新たなサービスの展開が可能となる。また、合併に伴う行政組織の重複部門の集約や事務効率の向上により、行政職員一人当たりの生産効率が高まる。このため、同じ業務をより少ない人員で遂行することができるようになり、専門職員の配置も可能となる。このほか、住民人口当たりという側面から見ると、市長など特別職の給与負担が減少するなど、固定的な支出が減少し、行政における裁量の範囲が広がる。
一方、デメリットとしては、行政施設の集約に伴い自治体内の地域間格差が広がっているとの見方があることや、地元出身の議員がいなくなり行政との距離が遠くなったとの印象を持つ住民がいることなどであろうか。
このように、行政運営の効率化という面では効果を挙げている自治体合併であるが、「活力」、「経済力」という面でメリットは出てきているのだろうか。
このため、今回は、統計資料を基に、人口(総人口、出生数、社会増減数)、産業(民間事業所数)、経済力(地方税収入額)の面から、自治体毎に合併効果を探ってみた。
具体的には、27自治体の数値が合併前と合併後でどう変化しているか確認し、県平均との比較において好転している自治体の割合が合併自治体と非合併自治体で差異が生じるかどうか調べるとともに、合併自治体のほうが非合併自治体と比べて高ければ合併効果ありと判断することとした。
なお、富士川町は、合併後5年が経過したが、統計資料が十分でないため、今回の試算からは除外した。
3.人口
(1)総人口
図表2は、総人口の推移である。
総人口の場合、平成元年以降を、平成元年~9年までの期間(A)、平成10年~17年までの合併直前の期間(B)、平成18年~平成26年までの合併後の期間(C)に区分し、各期間の平均値について、合併前の増減率((B)/(A))の県平均との差異と、合併後の増減率((C)/(B))の県平均との差異を比較し、この差異がプラスとなった(上方修正、例:人口増加率の推移が県平均の増加率の推移より拡大した場合や人口減少率の推移が県平均の減少率の推移より縮小した場合などが該当)自治体の割合を確認した。
これによると、合併自治体では、甲府市で合併直前の期間で県平均の増減率を下回っていたが(甲府市△2.3%、県平均+1.8%)、合併後では県平均を上回り(同△2.6%、△2.7%)、県平均と比べて人口の減少度合いが緩やかになったほか、市川三郷町、身延町でも県平均と比べて改善の傾向が見られた(県平均と比べてトレンドが上方へシフトした)。一方、山梨市では、合併直前の期間の増加率が県平均と比べて小さかったが(山梨市+0.2%、県平均+1.8%)、合併後はいずれも減少(同△5.0%、△2.7%)に転じたなかで県平均との差異が拡大しトレンドが県平均と比べて下方へシフトしたほか、他の9自治体も県平均を下回る動きとなった。
これに対して、非合併自治体を見ると、県平均と比べて増減率が上方修正されたのは3自治体、下方修正されたのは10自治体となり、合併自治体とまったく同じ結果となった。
図表2 総人口の推移
(2)出生数
図表3は、出生率の推移である。
出生率の場合、平成元年以降を、平成元年~9年までの期間(A)、平成10年~17年までの合併直前の期間(B)、平成18年~平成24年までの合併後の期間(C)に区分し、各期間の平均値について、合併前の増減率((B)/(A))の県平均との差異と、合併後の増減率((C)/(B))の県平均との差異を比較し、この差異がプラスとなった(上方修正、例:出生数の増加率の推移が県平均の増加率の推移より拡大した場合や出生数の減少率の推移が県平均の減少率の推移より縮小した場合などが該当)自治体の割合を確認した。
図表3 出生率の推移
これによると、合併自治体では、甲府市で合併直前の期間で県平均の増減率を下回っていたが(甲府市△12.9%、県平均△10.1%)、合併後では県平均を上回り(同△7.5%、△15.6%)、県平均と比べて出生数の減少度合いが緩やかになったほか、北杜市、市川三郷町、身延町、南部町でも県平均と比べて改善の傾向が見られた(県平均と比べてトレンドが上方へシフトした)。一方、山梨市では、合併直前の期間の減少率が県平均と比べて小さかったが(山梨市△7.8%、県平均△10.1%)、合併後も減少(同△22.9%、△15.6%)が続くなかで県平均との差異が拡大しトレンドが県平均と比べて下方へシフトしたほか、他の7自治体も県平均を下回る動きとなった。
これに対して、非合併自治体を見ると、県平均と比べて増減率が上方修正されたのは8自治体、下方修正されたのは5自治体となり、合併自治体と比べて上方修正した自治体の割合が高くなった。
(3)社会増減数
図表4は、人口の社会増減数の推移である。
図表4 社会増減数の推移
社会増減数の場合、平成元年以降を、平成元年~9年までの期間(A)、平成10年~17年までの合併直前の期間(B)、平成18年~平成24年までの合併後の期間(C)に区分し、各期間に該当する人口千人あたりの社会増減数(期間平均値、以下、移動率という)について、合併前の増減差((B)-(A))の県平均との差異と、合併後の増減差((C)-(B))の県平均との差異を比較し、この差異がプラスとなった(上方修正、例:移動率の増加幅が県平均の増加幅より拡大した場合や移動率の低下幅が県平均の低下幅より縮小した場合などが該当)自治体の割合を確認した。
これによると、合併自治体では、甲府市で合併直前の期間で県平均の移動率の差異を上回っていたが(甲府市+0.221人/千人、県平均△3.065人/千人)、合併後でも県平均を上回り(同3.295人/千人、△1.232人/千人)、県平均と比べて社会増加傾向が高まったほか、山梨市、甲斐市、笛吹市、上野原市、中央市でも県平均と比べて改善の傾向が見られた(県平均と比べてトレンドが上方へシフトした)。一方、南アルプス市では、合併直前の期間の移動率の差異が県平均と比べて低かったが(南アルプス市△3.765人/千人、県平均△3.065人/千人)、合併後も低い状況(同△4.976人/千人、△1.232人/千人)が続くなかで県平均との差異が拡大しトレンドが県平均と比べて下方へシフトしたほか、他の6自治体も県平均を下回る動きとなった。
これに対して、非合併自治体を見ると、県平均と比べて増減幅が上方修正されたのは6自治体、下方修正されたのは7自治体となり、合併自治体とまったく同じ結果となった。
4.産業(民間事業所数)(雇用機会)
次に、地域の雇用を生み出す産業面について、合併の影響を確認する。
図表5は、民間事業所数の推移である。産業動向については、さまざまな指標があるが、景気動向など外的な要因に左右されず、地域のポテンシャルを反映すると想定される事業所立地に関する指標として、今回は民間事業所数を採用した。
具体的には、平成11年(A)、平成18年(B)、平成24年(C)の数値について、合併前の増減率((B)/(A))の県平均との差異と、合併後の増減率((C)/(B))の県平均との差異を比較し、この差異がプラスとなった(上方修正、例:事業所数の増加率の推移が県平均の増加率の推移より拡大した場合や事業所数の減少率の推移が県平均の減少率の推移より縮小した場合などが該当)自治体の割合を確認した。
これによると、合併自治体では、甲府市で合併直前の期間で県平均の増減率を下回っており(甲府市△13.3%、県平均△8.7%)、合併後も県平均を下回った(同△6.7%、△5.7%)が、県平均との差異は縮小し減少スピードが鈍化したほか、南アルプス市、甲斐市、笛吹市、甲州市でも県平均と比べて改善の傾向が見られた(県平均と比べてトレンドが上方へシフトした)。一方、山梨市では、合併直前の期間で減少し(山梨市△10.6%、県平均△8.7%)、合併後も減少(同△11.2%、△5.7%)するなかで県平均との差異が拡大しトレンドが県平均と比べて下方へシフトしたほか、他の7自治体も県平均を下回る動きとなった。
これに対して、非合併自治体を見ると、県平均と比べて増減率が上方修正されたのは5自治体、下方修正されたのは8自治体となり、合併自治体とまったく同じ結果となった。
図表5 民間事業所数の推移
5.経済力(地方税収入額)
次に、経済力への影響を確認する。
図表6は、地方税収入額の推移である。地域の経済力の指標としては、市町村内総生産額や所得額が適切と考えられるが、5年毎の調査であり平成22年次が最新の数値であることや、単年度では景気の影響を排除できないため合併効果の判定には難しいと想定されたことから、今回は地方税収入額を採用した。
具体的には、平成元年以降を、平成元年~9年までの期間(A)、平成10年~17年までの合併直前の期間(B)、平成18年~平成24年までの合併後の期間(C)に区分し、各期間の平均値について、合併前の増減率((B)/(A))の県平均との差異と、合併後の増減率((C)/(B))の県平均との差異を比較し、この差異がプラスとなった(上方修正、例:地方税収入額の増加率の推移が県平均の増加率の推移より拡大した場合や地方税収入額の減少率の推移が県平均の減少率の推移より縮小した場合などが該当)自治体の割合を確認した。
図表6 地方税収入額の推移
これによると、合併自治体では、甲府市で合併直前の期間は県平均の増減率を下回り(甲府市△5.6%、県平均+9.8%)、合併後でも県平均を下回ったが(同△6.4%、+3.9%)、県平均との差異は縮小したほか、南アルプス市、甲斐市、市川三郷町、身延町、南部町、富士河口湖町でも県平均と比べて改善の傾向が見られた(県平均と比べてトレンドが上方へシフトした)。一方、山梨市では、合併直前の期間の増加率が県平均と同じであったが(山梨市+9.8%、県平均+9.8%)、合併後は増加傾向を維持するも県平均との差異が拡大し(同+2.2%、+3.9%)、トレンドが県平均と比べて下方へシフトしたほか、他の5自治体も県平均を下回る動きとなった。
これに対して、非合併自治体を見ると、県平均と比べて増減率が上方修正されたのは5自治体、下方修正されたのは8自治体となり、合併自治体のほうが上方修正した自治体の割合が高い結果となった。
6.まとめ
以上、人口(総人口、出生数、社会増減数)、産業(民間事業所数)、経済力(地方税収入額)の面から、合併後のトレンドの上方修正の有無について確認してきたが、これをまとめたものが図表7である。
図表7 県平均との差異の変化(トレンドの上方修正の有無)
(単位:自治体数)
項目 |
| 合併自治体 | 非合併自治体 |
総人口 | 上方修正 | 3 | 3 |
上方修正以外 | 10 | 10 | |
出生数 | 上方修正 | 5 | 8 |
上方修正以外 | 8 | 5 | |
社会増減数 | 上方修正 | 6 | 6 |
上方修正以外 | 7 | 7 | |
民間事業所数 | 上方修正 | 5 | 5 |
上方修正以外 | 8 | 8 | |
地方税収入額 | 上方修正 | 7 | 5 |
上方修正以外 | 6 | 8 |
(注)上方修正 合併後に県平均と比べて数値の改善が見られたケース(増加幅が県平均と比べて拡大、または、減少幅が県平均と比べて縮小)
これをみると、地方税収入額では上方修正した割合が合併自治体のほうが高いが、総人口、社会増減数、民間事業所数では、合併自治体と非合併自治体で上方修正した自治体の割合がまったく同じとなり、出生数では非合併自治体のほうが高いという結果となった。
今回の状況を見る限りでは、合併による規模の拡大は、地方税収入額に代表される地域経済力の向上には効果があったと言えるかもしれないが、企業立地等を誘引する地域としての産業面の魅力向上、人口を生み出す・人口を吸引する魅力向上については効果がみられない、もしくは、潜在的なポテンシャルについての発信が十分ではないといえよう。
合併効果の検証を統計資料から行う場合、景気動向をはじめとするさまざまな外部要因の排除が難しく、合併効果の有無を厳密に探ることは難しい。今回の分析は、かなり乱暴な手法であるかもしれないが、効果を判断する一つの見方として参考にしていただければ幸いである。