知ってたもん?


毎日新聞No.438【平成27年5月29日発行】

 プロ野球の広島が「知ってたもん勝ち」とプリントされたTシャツを発売した。
 5月4日のプロ野球、広島-巨人戦。9回裏、巨人にとってはサヨナラ負けのピンチの場面。なんとか踏ん張り、バッターを討ち取ったかにみえたが、内野手がフライを取りそこね、ボールを落としてしまった。
 このとき、審判がフライをとらなくとも打者がアウトとなる「インフィールドフライ」というルールを適用したが、走ってきた選手をアウトにするにはその選手へのタッチが必要だった。しかし、内野手は落としたボールを拾ったあともタッチをしなかったのだ。
 当初、審判もアウトの判定をしたのだが、広島の監督とコーチが猛抗議。誤りを認め、広島のサヨナラ勝ちとなった。
 ルールを知っていたかが勝敗を分けたことにちなみ「知ってたもん勝ち」とプリントされたTシャツは即日完売、過去にも隠し球の場面をTシャツにして販売するなど、ファンの間で人気シリーズとなっているそうだ。
 このように野球には難しいルールが沢山あるが、相手の裏をかく戦術、プロであっても騙されるシーンもまた、プロ野球の魅力と言えるだろう。

 しかしながら、一般の消費者が相手のビジネスの場合、知らない方が悪い、騙された方が悪いではすまないだろう。
 昨年改正され、まもなく施行予定の景品表示法は、ホテルやレストランで相次いだ食品偽装問題を受けたものである。事業者には不当な表示を行わないための社内体制の整備が求められ、違反に対する課徴金制度も導入された。
 つい先日も、健康食品会社に対し、「食べてもOK?!そんな減量ケアあり?」といった?マークを使ったグレー表現についても、表示の裏付けとなる合理的な根拠がないとして措置命令を出すなど、ホテルやレストランに限らず、様々な分野に対する措置命令が消費者庁から公表されているところだ。

 こうした法改正や行政の動きをとらえ、事業者の皆さんは広告等の表示が不当なものと判断されないよう気をつけなければならないが、我々消費者の側もまた、事業者に侮られることなく、「知ってたもん」と言えるくらい、賢い消費者になっていこうではないか。

(山梨総合研究所 研究員 三枝 佑一)