Vol.203-2 人口減少社会の現状と可能性


― 甲府市を事例として ―

公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 古屋 亮

1.はじめに

 平成26年5月に増田寛也元総務大臣(元岩手県知事)が座長を務める日本創成会議が「ストップ少子化・地方元気戦略」を発表した。この分析の特徴は、従来の人口推計[1]とは異なり、出産を担っている20歳から30歳代の女性の人口を「若年女性人口」と定義し、2040年までに「若年女性人口」が50%以下になる市町村を消滅可能性都市と定義したことである。
 本県でも27市町村中、16の市町村(59.2%)が消滅可能性都市に位置付けられた。また本県と同様に、全国の多くの市町村も消滅可能性都市とされるなど、全国に大きな衝撃を与えた。
 この日本創成会議のレポート発表により、人口減少社会への対応が国の重要課題として改めて認識されるようになったと言っても過言ではない。国では「まち・ひと・しごと創生法」を成立させ、人口減少対策、地域活性化対策を進めている。またこれを受け、各都道府県、各市町村においても今後の人口ビジョンや、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を目指した総合戦略の策定を進めている。少子高齢化の進展という言葉とともに、全国民がなんとなく理解していたであろう人口減少社会であるが、実は相当に切迫した課題であるとの認識が多くの国民に広まっている。
 将来への地域ビジョン作成には、もともと議論の出発点となった将来人口への正しい把握をもとに、どのようにその地域社会を維持・発展させるのかを検討することが必要となる。
そこで本稿では、甲府市を例にとり、将来人口の推計と人口移動の現状を明らかにし、今後の甲府市を考える基礎資料としたい。

2.甲府市における人口の将来推計と現状

 甲府市の人口の長期的推計[2]をみると、1980年に20万4千人ほどであった人口は、2010年には19万8千人となっており、20万人を割り込む水準となっている。その後の長期的推計をみると、2025年に18万5千人、2040年には16万4千人、2060年には13万人と推計されるなど、今後25年間で3万人前後、また45年間では7万人ほど人口が減少することが予測されている。現在の南アルプス市・甲斐市の人口が7万~7万3千人ほどなので、今後45年間で本県内において、わりと人口規模が大きな市ほどの人口が甲府市内から消えることになる。

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「平成26年度 山梨県立大学 学長プロジェクト」

 年齢別に推移をみると、2010年以降、45歳未満は一貫して減少している。特に、30~44歳で2010年と2040年を比較すると、1万5千人ほど減少している。また同様に、0歳~14歳を見ると、2010年から2040年までに2万5千人から1万6千人へと2/3に減少するとされている。
 一方、60歳以上の層において、2010年と2040年を比較すると、総数では増加傾向にあり、また全階層における60歳以上層の割合も高くなる傾向があり、少子高齢化の進展が推計される。

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「平成26年度 山梨県立大学 学長プロジェクト」
※合計には年齢不詳を含む

 次に、甲府市からの転入と転出の人口[3]についてみてみる。甲府市への転入人数[4]が一番多いのは笛吹市の339人で、次いで長野県の298人、甲州市の199人となっている。一方、転出人数が一番多い先は、県外では東京都の918人で、次いで神奈川県の477人、県内では南アルプス市の110人で、次いで甲斐市の104人、昭和町の99人などとなっている。
 いわゆる甲府市の特徴として県民ならイメージがわきやすい状況であるが、東京都、神奈川県を主とする本県以外の関東圏に多くの転出があり、県内では南アルプス市、甲斐市、昭和町などの周辺市町村に人口が転出している。
 一方、県内他市町村からも転入が多くあり、笛吹市からは339人もの転入超過となっている。

甲府市における主な転入先と転出先(転入-転出=人数)

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「平成22年度 国勢調査より作成」

 甲府市における転入、転出の総数をまとめると、県内からは総数で1,143人の転入超過となっている。
 また、県外をみてみると、東京都、神奈川県、その他の関東には1,897人も転出超過となっているが、長野県、静岡県、九州・沖縄などからの転入が多く、合計では575人の転出超過となっている。
 つまり、甲府市では転入数と転出数を差し引きすると、568人が転入超過となっている。

甲府市における主な転入先と転出先の差し引き人数

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「平成22年度 国勢調査より山梨総合研究所 作成」

 参考として、甲府市において転入が多い年齢階層および転出が多い年齢階層をみてみる。転入では20~24歳の層が最も多い。またそのうちの80%ほどが県外となっていることから、甲府市内にある大学等への進学者や新卒者の就職によるものが想定される。一方、転出では25~29歳層が最も多く、そのうち県外への移動が65%ほどとなっている。

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「平成26年度 山梨県立大学 学長プロジェクト」

 また、甲府市では、市内中心市街地から市周辺地域への移動も進んでいるようだ。
 1983年における中心市街地の人口は9,109人であったが、2013年には5,611人と3,500人ほど減少している。一方、市南部(東部)においては、近年、多くの宅地開発が進められていて、人口の増加[5]が進んでいる。これを小学校の児童数からみてみる。新規宅地開発が進む山城小学校区、大里小学校区、玉諸小学校区では、既存の児童数も多いうえに、近年、児童数が増加している傾向にある。
 一方、中心市街地では、創立140年を誇っていた富士川小学校が児童数の減少から平成23年に閉校となり、舞鶴小学校、新紺屋小学校とも、上記3校と比較し既存の児童数が少ない上に、児童数は減少傾向となっている。このように、甲府市では、南アルプス市、甲斐市、昭和町への人口転出の他に、市中心市街地から市周辺地域への転出も進んでいることが想定できる。

小学校における児童数の変遷

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「学校教育情報サイトより作成 http://www.gaccom.jp/」

3.甲府市における人口維持・増加策にむけて

 現在、甲府市では住みよいまちづくりを目指し、中心市街地活性化基本計画(平成26年10月認定)や、総合計画、総合戦略などの策定を進めているようだ。今後とも官・民が一体となり、住みやすいまちづくりを目指してもらいたい。
 ひとつの参考となるように、まずは、人口減少社会において、人口が増加傾向にある市の事業を取り上げたい。
 近年、特に人口が増加している自治体として注目されているのが、流山市などを中心とする千葉県の北西部である。これらの地域は、東京都秋葉原と茨城県つくば市を結ぶ「つくばエクスプレス」の開通により、都心までのアクセスが容易となり、各種子育て支援等の積極的取り組みも重なり、都心に勤務する子育て世代が増加していると言われている。また、同様に、東京都稲城市、多摩市、八王子市、町田市にまたがる多摩丘陵に位置する多摩ニュータウンも1971年以来、京王線、小田急線などの鉄道駅周辺の開発により、地域内における高齢者の進展などを抱えながらも、未だに人口の流入が続いているようである。
 一方、茨城県には、都心のベットタウンでないにもかかわらず、人口の転入数を増やしている自治体もあるようだ。
 この自治体は、特に若者世代をターゲットに、就労、結婚、妊娠・出産や子育てをしやすい環境を総合的に整備したことにより、人口の転入数を増やしている。
 具体的には、①新婚家庭の家賃助成、②住宅取得促進助成、③定住促進助成、④子育て世帯等増改築助成、⑤子育て支援住宅ローン、⑥市営住宅の入居要件緩和、⑦子育て等にかかる経済的負担等の軽減(保育料減免、中学生までの医療費助成、保育所の入所要件弾力化、放課後児童クラブの全域設置)、⑧子育てにやさしいまちのPR、⑨企業誘致、⑩結婚相談センターの運営、⑪出会いイベント、⑫結婚活動支援事業補助、等を実施している。
 まさに頭に浮かぶあらゆる施策を実施し、子育て世代を呼び込もうとしている。
 この施策の展開を批判するつもりは全くないが、このような取り組みを全国の各市町村が推進したら、自治体間の過当なサービス合戦とならないだろうか。つまり、各自治体間で、あの自治体を超えるこのサービスを展開する、あのサービスをやられたらこのサービスを展開しないと競争に勝てないとなり、東京都をはじめとする首都圏からの人口流入ではなく、同じ域内にある他市町村との子育て世代の誘致合戦になり、県全体でみると、人口減少に歯止めがかかっていない状況に変わりない、となってしまうのではないか。
 甲府市は2027年にリニア中央新幹線が開通し、新駅ができる予定である。それを活かしたまちづくりを進め、人口増を目指す方向性を描くのが一番収まりが良いと感じるが、人口増社会を目指していくには、今後はいかに新しい価値を発信できるかにかかっていると感じている。
 自然環境が良く、水がそのまま飲める美味しさで、通勤時間に2時間もかからず、地代・住宅環境は都内とは比較にならないほど良いものである。野菜や果物などの農産物も豊富で、人情味溢れる住民が多くいて、居住するには困らない買い物環境もそろい、天気の良い日は常に富士山が見られる。子どもの進学先の選択肢は多くはないかもしれないが、都内と比較して決して劣っているとは思えない教育環境がある。また文化と歴史が身近に感じられ、散策できる街が整備され、車で30分ほど移動すれば避暑地に行ける。トータルの生活コスト、ストレスによる健康状態を考えたら、甲府の方がはるかに優れている。
 この言葉だけで、都内で有名な企業に勤め、利便性の高い生活に慣れている子育て世代に甲府の優位性が届くとまでは言わない。ひとつ届けば3つほどの欠点を指摘してくる。それが都心の利便性だと感じている。だが、そこに住む住民が常にそこで住む価値を考える。住んでいる住民が楽しく、暮らしやすい地域を創り上げ発信する。結果として、住んでいる住民が愛着を持ち、万人受けしなくても選ばれる市になる。それが甲府市の、いや、本県全体も合わせた進むべき道ではないかと感じている。


[1] 国立社会保障・人口問題研究所が実施するような年齢階層別区分によるコーホート推計

[2] 平成26年度 山梨県立大学 学長プロジェクト「県内人口推計に関する基礎データ調査報告書」(以下、学長プロジェクトと記載)による。国勢調査及び社会保障・人口問題研究所の推計に基づいて、1980年から2060年までの80年間の総人口と年齢別人口の推移について分析を行った。(山梨総合研究所 作成)

[3] 平成22年度 国勢調査による。

[4] 転入-転出の数値

[5] 小学校区別の直接的な人口データがないため、児童数が増えれば、家族が増えている要因であるとの想定から児童数で代用する。